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攫われた聖女~魔族って、本当に悪なの?~  作者: 月輪林檎
第二章 聖女の新たな日常

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薬草園の手伝い

 ガラス張りの温室の中に入ったクララは、さっきまでいた玄関口とは違う感覚を受け、周りを見回した。


「あれ? 思ったよりも涼しい……」

「薬草が育ちやすいように温度調節しているからだよ。外の気温よりは、ちょっとだけ低くなっているかな。クララの区画は、ここからあそこまで。大体、温室全体の四分の一かな」

「うぇっ!? そんなに!?」


 クララは、自分のために割り当てられた区画の広さに驚く。その広さは、学校の体育館二つ分くらいある。その内の四分の一程に薬草が植えられていた。


「こんなに広い場所を貰っても大丈夫なの?」

「うん。ここの成り立ち自体が、クララのためだからね。優先して使う権利があるんだ。まぁ、この区画以上は、ここでは栽培出来ないけど、そこは了承してね」

「さすがに、これ以上の我が儘は言えないよ。そういえば、ここの薬草は、どのくらいで収穫出来るの?」


 クララは、ちょっとした申し訳なさを感じつつ、この薬草達を見て、少し気になっていた事を訊いた。


「後、一週間ってところかな。他の要望の薬草は、こっちに届くのを待っているところ。元々こっちになかった薬草は、種で取り寄せるしかないからね。全部の薬草が収穫可能になるのは、一ヶ月後くらいかな。薬草の生育は早いし」

「そうなんだ。じゃあ、新しい薬を作れるのは、もう少し先かぁ」


 言葉だけ聞けば、クララが残念がっているように思えるが、クララの表情は新しい薬を作れることが分かって、わくわくしているようだった。


「薬草の手入れとかもやってみる? 基本的には私が世話をするんだけど、クララちゃんがやってみたいなら、時々一緒にやるって事も出来るけど?」

「やってみたい!」


 先程と同じようにわくわくした表情で、サラを見るクララ。クララの年相応の姿を見たサラは、あまりの可愛さに思わず吹き出しそうになる。それを必死に押し殺しながら、クララを手招きする。


「まずは、このモイスの実だね。これは、比較的簡単に手に入ったから、既に栽培しているんだ。これは、葉っぱじゃなくて実の方を使うから、わき芽を摘まないといけないんだ。ハサミを貸してあげるから、早速やってみよう」

「うん。ところで、わき芽って何?」

「え?」


 クララが小首を傾げると、サラも小首を傾げていた。


「もしかして、クララってあまり植物の知識ない感じ?」

「うぅ……ごめん……」


 薬学の知識ばかり優先していたので、植物に関する知識は名前と効能くらいしか覚えていなかった。


「いや! 全然良いよ!」


 しょんぼりとしてしまったクララを見て、サラは慌ててそう言った。


「薬草園が欲しいって言っていたくらいだから、植物も好きなのかなって思っただけだから。せっかくだし、これから少しずつ覚えていけば良いよ」

「うん……」


 サラがクララの頬を揉みながらそう言うと、クララの表情が少し緩んだ。


「わき芽っていうのは、枝とか葉っぱの付け根から生えている芽の事だよ。これを摘む事で、実を大きくしたり出来るんだ。モイスの実は大きい方が使いやすいから、大事な作業だよ」

「なるほど、分かった!」

「うん。じゃあ、下の方のわき芽をお願いね。私は、上の方をやるから」

「うん!」


 クララは、サラに教えてもらった通りにわき芽を摘んでいく。サラは、それを見守りつつ、自分もわき芽を摘んでいった。その中で、二人は雑談に花を咲かせる。その内容は、クララがどうして魔族領に来たのかだった。


「ふぅん。それで、魔族領に来たんだ。聖女っていうのも大変だね」

「うん……能力が使えない私が悪いんだろうけど、まぁ、結果的にこうなって良かったかなって思うんだ」

「そうだろうね。話だけ聞いていると、こっちの方がクララに合った生活が出来る気がする。まぁ、向こうの教会とかが屑の集まりだったってだけだけど」


 サラの言う通り、教会に連行される前は、クララも幸せに暮らしていた。順当に行けば、母親から薬について教わり、薬剤師にでもなっていただろう。だが、聖女となり、教会に連行されたことで、その将来は潰えた。


「教会に恨みはないの?」

「そりゃ、あるにはあるけど……どうしようもないじゃん? 私一人じゃ、教会を潰せないし」

「聖女の力で、どかんとかいけないの?」

「聖女の力は、回復や弱体化だよ? 恨みを持っているからって、そんな都合良く倒す事は出来ないと思う。弱体化に耐えきれないとかがないとね」

「ふ~ん、そういうものなんだ」


 クララの気持ちで効果の程が変わるとはいえ、それだけで戦える程、聖女の能力は万能じゃない。まだ聖女の事をあまり知らないサラは、そこら辺を理解していなかった。


「そういえば、聖女には、物を神聖化して強化するみたいな事が出来るって聞いたんだけど、本当なの?」

「うん。私の杖は、私の魔力で聖別されているみたい。やろうと思えば、服とかも聖別出来るから、基本的に何でも出来るんじゃないかな」

「……作物も?」

「え?」


 クララとサラは、顔を見合わせる。そのまましばらく固まっていた。


「いや、まだ試すのはやめとこう。下手すると、駄目になるかもしれないし」

「そ、そうだよね!」


 この案は、一旦お預けとなった。クララとしても、この話は自分達だけで進めて良いものではないなと思っていたので有り難かった。


(後で、リリンさんと相談してみようかな。サラさんもやってみたそうだし)


 念のため、リリンに相談しておこうと考えつつ、作業を進める。ここで、クララは逆にサラに質問してみることにした。


「サラさんは、ここに来る前は何をしていたの?」

「私? 私は、ここじゃなくて、もっと小さい街で作物の研究をしていたよ」

「作物の研究?」


 作物の研究と聞いても、ピンとこないクララは、首を傾げている。


「うん。育つ環境の最低ラインとかを調べていたんだ。その事もあって、ここの管理人に推薦されたみたい。そこそこの実績を積んで置いて良かったよ」

「じゃあ、サラさんに任せていたら、絶対に大丈夫ってことだね」

「う~ん……そうでもないかな。ある程度の作物は調べられていたけど、基本的に食糧の方で、薬草系は少ししかやってないんだよね。だから、珍しい薬草とかだと、枯らす可能性はあるんだ」

「そうなんだ……それなら、ここで研究を続ければ良いんじゃない?」

「え?」


 クララの提案に、サラは面食らっていた。ここに配属されている間は、研究をする事は出来ないと考えていたからだ。


「そうしたら、薬草とかも絶対枯らさないように出来るわけだし。カタリナさんに相談してみるよ」

「それは嬉しいけど……魔王妃様に取り付けられるの?」

「カタリナさんが忙しくなかったら、多分、すぐに取り付けられると思う。時々、私の部屋にサボりに来ているくらいだし」

「魔王妃様……」


 カタリナの知らない一面を知ってしまい、何とも言えない顔になるサラ。クララからしたら、普段のカタリナがそういう存在なので、サラの反応に首を傾げていた。

 二人がそんな会話をしながら、作業をしている間、リリンとサーファは、温室の端っこで二人を見ていた。


「クララちゃん、何だか嬉しそうですね」

「そうですね。薬草園の仕事が楽しいというのもあると思いますが、同年代(?)の友人が出来たというのもあるかもしれないですね」

「同年代……」


 二人とも同年代の部分だけ、若干疑問を抱いているが、クララが気を許すことが出来る友人が出来た事を喜んでいた。二時間程作業を続けると、クララも出来る作業が全て終わった。


「ふぅ……ありがとう、クララ。二人でやったから、早く終わったよ」

「ううん。私がお願いして栽培して貰っているんだから、当たり前だよ。でも、私が出来るのは、ここまでなの?」

「うん。というか、やることがほぼないって感じかな。だから、もう魔王城に帰っても大丈夫だよ」


 クララとサラがそう話していると、リリンとサーファが近づいてきた。


「作業は終わったみたいですね。軍手はしていたみたいですが、その手で汗を拭っていましたね。顔に土が付いていますよ」


 リリンは、ハンカチでクララの顔を拭っていく。


「この分だと、一度お風呂で身体を洗った方が良いでしょうね。街に出るのは、その後にしましょう。泥んこのままでは、可愛らしい姿が台無しですからね」

「は~い」


 クララとリリンのその姿を見ていたサラは、一つの感想が出て来る。


「何だか、親子みたい」

「ですよね。毎日こんな感じなんですよ」


 サラの感想は、サーファも同感だった。毎日二人の様子を見ていたサーファがそう言うのだから、その通りなのだろう。


「年齢差だけで言えば、確かに親子くらい離れていますけど、そう言われるのは心外です」


 クララの顔に付いていた泥を落とし終えたリリンは、ジト目で見ながらそう言った。サーファとサラは、スッと目を逸らして知らんぷりをしていた。


「まぁ、それは良いです。今日のところは、これで帰りますが、今後、こちらに来るのはどのくらいの頻度が良いでしょうか?」

「えっと、必ず来ないといけない日はないので、適当で大丈夫です。わき芽摘みは、五日おきくらいにやっているので、そのタイミングで来るのが良いかもです」

「五日おきですね。分かりました。日程が合う日で、クララさんが来たいと言った時に、来ることにします。なので、突然来ると思いますが、それでも大丈夫でしょうか?」

「はい。全然問題ありません。基本的に、私はここにいると思いますので。休みの日は、私の待機室の前に看板を掛けておきます」


 サラはそう言って、先程説明した部屋とは反対側にある部屋を指さした。そちらは、ここの管理人であるサラの部屋となっている。一応寝泊まりも出来るようになっているが、余程の事が無ければ寝泊まりなどはしないだろう。


「分かりました。では、失礼します」

「ありがとう、サラさん。また来るね」

「うん。待ってる」


 サラと笑い合いながら別れると、クララ達は、身体を洗うために魔王城へと戻っていった。

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