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攫われた聖女~魔族って、本当に悪なの?~  作者: 月輪林檎
第二章 聖女の新たな日常

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薬草園へ

 前の講義から三日後、予定通り講義がまた行われる。今回の講義では、新しい事は習わず、前の講義で習った魔法と身体強化を復習して、使う感覚を覚える事を重視した。どんどんと新しい魔法を覚える事も良いと言えば良いのだが、ベルフェゴールは、使える様になった魔法に慣れる方を優先する事にしたのだった。

 これには、他の魔法を習った時に、より簡単に習得出来るようにするという意味が込められている。

 元々回復魔法を使っていたということもあり、魔法の習熟はかなり早かった。だが、身体強化の方は、あまり上手くいかず、少々手こずり気味になっていた。

 こればかりは、今まで一度も使った事ないので、上達が遅くても仕方なかった。それは、ベルフェゴール達も分かっているので、誰も責めることはなかった。

 クララは、皆の優しさを感じつつ、もっと頑張ろうと奮起していた。


 そして、その翌日。クララは、朝からウキウキしていた。それだけ楽しみな事があるのだ。それは、クララがずっと待望していた事……薬草園と城下町の散策である。

 クララがそんな風にウキウキしている中で、タンスの中を見ていたリリンは少し困った顔をしていた。


「クララさんの外出着が少ないですね。今までは、演習場と魔王城の行き来だけでしたので、あまり気にしていませんでしたが、これから街に出るとなれば、もう少し服を買い足した方が良いかもしれないですね」


 リリンのその言葉に反応したのは、クララでは無くサーファだった。


「服を買い足すみたいだよ。いっぱいおしゃれ出来るね!」


 サーファはそう言って、クララを抱きしめる。それを聞いて、クララも少し嬉しそうにしていた。


「おしゃれなんて初めてです」


 クララのこれまでの人生の中で、おしゃれなどしたことがないので、どういうことをするのか楽しみになっていた。


「あまり高いのは買えませんが、色々と見てみましょうか。今後、クララさんに収入が入り始めましたら、お好きなものを買う事も出来るでしょう」

「それまでのお金って、魔王城から出ているんですか?」

「そうですね。カタリナ様から、これだけ使って良いと言われている分を使用しています」


 クララは、少しだけ申し訳なさそうな顔をする。そんなクララの頭をサーファが撫でる。


「そんなに気にする事ないよ。私達の方が無理矢理誘拐してきたわけだし」

「そういう事です。魔王城から出されるお金は、そのお詫びも兼ねていますから」


 二人がそう言ってくれたので、クララの心も少し楽になった。実際、クララを無理矢理誘拐してきたというのは、本当の事なので、クララが申し訳ないと思うのは見当違いだった。


「まずは、薬草園に行くので、ひとまず運動着で行きましょう。土で汚れてしまうかもしれませんから」

「分かりました」


 クララは、リリンが選んでくれた服に着替える。


「では、行きましょう」


 リリンは、クララに手を差し出す。ここから手を繋いで行こうという事だ。クララはすぐにリリンの手を取り、部屋の外へと出て行った。リリンとは反対側に並んで、サーファも付いてくる。

 三人で並んで進んで行き、魔王城と城下町の境目に近づいていくと、途端にクララが緊張し始めた。今までなら、この手前で馬車に乗り込んで移動するが、今日からは、自分の脚で街に出る事になる。緊張するのも無理は無い。


「クララさん、大丈夫ですか?」


 クララの緊張に気が付いたリリンは、一度立ち止まり、クララの顔を覗きこんだ。


「だ、大丈夫です。ちゃんと自分の脚でいけるようにならないと、これからもここを通るわけですから……」

「そうだね。何かあっても、私達が助けるから、心配しなくても大丈夫だよ。そのために配属されたわけだし」


 サーファが優しく微笑みながらそう言うと、クララの緊張が少し解れた。


「サーファの言う通りです。まぁ、その何かを未然に防げるのが理想ですが」

「……はい! リリンさん、サーファさん、ありがとうございます。もういけます」


 クララはそう言うと、一歩、また一歩と歩き出す。リリン達は、クララを優しく見守りながら、一緒に歩いて行った。そして、最後。魔王城と街を隔てる門を一息に超える。

 街へと踏み出したクララは、その一歩目で脚を止めた。そして、門の外に広がる街を見回す。魔王城周辺には、基本的に何もないものの、その奥には沢山の建物が並んでいた。


「窓からだとよく分かりませんでしたけど、見たことのない建物が沢山ありますね」

「人族領とは、建材が違いますから。向こうでは、まだレンガ積みのものが基本でしたからね。ここでは、色々と混ぜて作る建材を使用しています。確か……結合建材という名前だったかと」

「へぇ~……魔王城も同じですか?」

「一応そうだけど、魔王城の大きさで建て直しは難しいから、上から補強する形になっていたはずだよ」

「ほへぇ~」


 クララは、少々間抜けな声を出しながら、周囲の建物と魔王城を何度も見ていた。


「街に興味を示すのは良いですが、最初の目的は街ではありませんよ?」

「あっ! そうでした!」


 クララは、リリンに手を引かれながら薬草園がある方へと向かって行く。その間も周囲を見回していたので、サーファによって後ろから正面を見るように固定された。キョロキョロとしていて注意力が散漫になっていたためだ。


「むぅ……別に平気だと思いますけど……」


 周りを見られなくなったため、ちょっと不機嫌になったクララがそう言った。


「足元がお留守になっていたら駄目に決まってるでしょ。転んで怪我しちゃうかもなんだから」

「怪我しても治せますし……」

「そういう問題じゃないで~す」


 サーファは、クララの顔を固定しながら、クララの頬を揉む。


「むぅ……ところで、薬草園ってどこら辺にあるんですか?」

「すぐそこですよ。もう見えています」

「???」


 リリンのその言葉で混乱するクララ。現在、クララから見えているものは、住居や店の建物と博物館のような巨大な建物だけだった。

 この後、クララはさらに混乱する事になる。何故なら、リリンが脚を止めたのが、その博物館のような建物の前だったからだ。


「ここが薬草園です」

「え!? こんな大きい……それに、魔王城に近い……」

「そうですね」


 リリンが案内した薬草園は、魔王城から五分程で着く場所にあった。さらに言えば、この建物は魔王城の半分程の広さがある。学校の体育館六つ分の広さと同じくらいだろう。


「クララさんのために建てられたものではありますが、カタリナ様もおっしゃっていたように、他の薬剤師達も利用します。そのため、このくらいの大きさは必要になるのです。都合の良いことに、魔王城周辺の土地は余っていますから、この大きさで建てても問題はないのです」

「へぇ~……なんで、魔王城周辺って、こんなに開けているんですか? 他の建物は、全部同じラインから向こう側にしか建ってないですし」


 クララの言う通り、魔王城の周りは、基本的に開けている。魔王城から一定距離離れた所から、他の建物が建てられていた。クララが疑問に思うのも仕方ない。


「それは、魔王様の権威のせいだろうね。この街の住人は、魔王城近くに住むのは、畏れ多いって思っちゃうから、自然とこうなったらしいよ」

「何だか、土地が勿体ないですね」

「そうですね。一応、この反対側にも二軒程建物が建っていますが、それくらいですからね」

「そこには何が建っているんですか?」

「美術館と劇場ですね」


 リリンがそう言うと、クララは少しだけ首を傾げる。


「劇場って、何をするんですか?」

「基本的には劇をする場所ですが……もしや、クララさんは劇をご存知ないのですか?」

「はい」


 クララが住んでいた村では、祭りのようなものはあったが劇のようなものは一切なかった。教会にいた頃や勇者パーティーにいた頃も、そんな事を知る機会が一切なかったので、本当に劇そのものを知らないのだ。


「そうですね……作られた物語を、動作と台詞で演じると言ったところでしょうか」

「……?」


 リリンの説明でもクララはあまり理解出来ずにいた。


「機会があれば、観に行ってみましょう。実際に観た方がどういうものか分かると思いますので」

「ちょっと楽しみです」

「それは置いておきまして、早速薬草園の中に入りましょう」

「あ、はい」


 リリンに背を押されて、クララは薬草園の前に立つ。


(どんな場所なんだろう……)


 クララは、跳ねる心を抑えつけるために、一度深呼吸をする。そして、扉に手を掛け、中へと入った。


「うわぁ……」


 街へと出たときは、ずっと見てみたかった光景に感激などよりも好奇心が勝っていた。その結果、声も出さずに周囲を見回して、どんな場所なのかを知ろうとしていた。

 だが、今はその光景に感激していたのだ。

 クララが見たその光景は、四方向の壁と天井がガラスで出来た温室だった。


「薬草園に入ったところで、ここの管理人と落ち合う予定だったのですが……」


 リリンは、周囲を見回す。すると、ガラス張りの温室の中から、金髪碧眼、そして少々耳が尖った誰かが走ってきているのを発見する。そして、温室から出て来ると、クララ達の前で深々と頭を下げる。その勢いで、ツインテールにしている金髪が、クララの顔を掠めていった。


「ごめんなさい! お待たせしました!!」

「いえ、こちらが少々早く来てしまっただけですので、お気になさらず。クララさん。こちら、薬草園の管理人であるサラ・アーデンベルトです」

「初めまして! サラだよ! よろしくね、クララ!」

「え、あっ、よ、よろしくお願いします!」


 クララは慌てて頭を下げた。だが、サラは、若干不満げだった。


「ため口で良いよ。人族換算で考えれば、同い年くらいなんだし」

「え?」


 クララは、すぐにリリンの事を見る。それに気が付いたリリンは、ゆっくりと頷いた。


「彼女は、エルフ族と呼ばれる魔族なのです。長命種の魔族ですので、身体の成長などは少々遅いのです。現在百三十歳程の彼女は、人族で言えば、十三歳~十五歳程でしょうか。そう考えると、同い年だと考える事も出来ますね」

「な、なるほど……」


 リリンの説明に、少し納得する。


(リリンさんの言うとおりなら、ため口で話しても失礼にはならないのかな……)


 クララは、もう一度サラのことを見ると、サラは少し不安そうな顔をしていた。それは、クララに受け入れられるかどうかの不安だった。

 それを見抜いたクララは、一つ決心する。


「わ、わかった。よろしく、サラさん」


 ここがクララの妥協ラインだった。さすがに、さん付けだけは外すことが出来なかったのだ。


「うん。よろしくね」


 サラもその妥協を受け入れた。さすがに、これ以上は我が儘が過ぎると思ったのだ。


「それじゃあ、薬草園の中を紹介するね。まずは、ここ! 薬草園の玄関口だよ!」


 サラは、両手を広げて、自分達がいる今の場所を示す。


「クララが使う事は、あまりないかもしれないけど、商談とかに使用するんだ。向こうにある沢山の部屋がその場所だよ」


 サラは、玄関口の端にある大量の扉を指さす。そこに、商談のための小さな部屋があるのだ。


「私は使わないの?」

「うん。クララの薬草の注文は、もう受けているし、栽培も始めているからね。それじゃあ、今度は、薬草園の要である温室の中に入ろうか」

「うん!」


 サラが開いた温室への扉を潜る。

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