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攫われた聖女~魔族って、本当に悪なの?~  作者: 月輪林檎
第二章 聖女の新たな日常

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久しぶりの薬作りとちょっとした楽しみ

 講義後、昼食を済ませたクララとサーファは、薬室にいた。そこで、クララはある事に気がついた。


「埃が全然積もってない」

「リリンさんが、毎日掃除していたからね」

「え、じゃあ、ちゃんとお礼を言わないとですね」

「そうだね~」

「ところで……あの……抱きしめられていると、作業が出来ないんですけど……」


 クララは、薬室に入ってから、サーファに後ろから抱きしめられていた。


「だって、さっきは講義で見守ってないといけなかったし、ちょっと英気を養わないと」

「じゃあ、後五分だけですよ。薬作りもしたいですから」

「うん! 分かった!」


 時間制限を掛けられたのだが、それでもサーファは嬉しそうにクララを強く抱きしめた。そして、おもむろにクララの匂いを嗅ぎ始めた。


「クララちゃんって、少し変わった匂いしてるよね」

「えっ!? 臭いって事ですか!?」


 クララは、若干ショックを受けつつサーファを見る。


「ううん。全然。寧ろ良い匂いだけど……何だろう? 薬かな? それとも聖女の匂いなのかな?」

「聖女特有の匂いって……何だか嬉しくない感じが……」

「いいじゃん。良い匂いなんだから。癒やされる~……」


 そんな風に五分過ごし、クララは久しぶりの薬作りを始める。リハビリがてら、いつも通り消毒薬から作っていく。それを見ていたサーファは、見守り椅子から立ち上がり、クララの傍に移動する。


「何か手伝うことある? 何もせずにジッと座っているのって性に合わないんだよね」

「え、えっと……じゃあ、大きな鍋で作るので、それを持ち上げたりして欲しいです」

「うん。分かった!」


 クララは、普段は使わないような大きな鍋で薬を作り始める。大きな鍋を使わない理由は、クララの腕力不足で持ち上げる事などが困難だからだ。

 サーファの協力の結果、消毒薬を大量生産する事が出来た。普段は十五から二十つくれれば良い方だが、今回は、一気に五十作る事が出来ていた。


「サーファさんのおかげで、いっぱい作る事が出来ました!!」

「本当だね。これなら、他の薬も大量生産出来るんじゃない?」

「う~ん……でも、軟膏とかだと蒸留出来る分量に限りがありますし、色々と工夫しないと出来そうにないですね。解熱薬とかなら、出来るかもです」

「解熱薬ね……魔力暴走に使えないって、驚きだよね」


 魔力暴走により熱を出していたクララだったが、解熱薬を使用する事は出来なかったのも、辛いと感じた理由の一つだった。


「魔力が内側から身体を蝕んでいるからって理由でしたっけ。そういうのに効くような薬を作れれば良いんですけどね。私が考えつくような物だったら、既に開発されているでしょうし……」

「でも、クララちゃんにしか思いつけない何かがあるかもしれないよ? だから、一概にそうとは言い切れないんじゃないかな」

「私にしか思いつけない……う~ん……何だろう?」

「後は……ほら! 聖女の力とか!」


 サーファがそう言うと、クララは、少し難しい顔をする。


「それだと、私が死んだ後に、生産が出来なくなってしまいます。それは本望じゃないので、聖女の力は使いません」


 クララがきっぱりそう言うと、サーファは、眼をぱちくりとさせていた。


「サーファさん?」


 クララが呼び掛けると、サーファが我に返る。


「ごめん。ちゃんと考えているんだなぁって、ちょっとびっくりしちゃった」

「私だって、色々と考えますよ」

「そうだよね。ごめんね」


 サーファはそう言いながら、クララを抱きしめる。クララは、特に気にした様子も無く受け入れていた。

 その後、傷薬などの他の薬も作っていき、完全に勘を取り戻していた。


「ふぅ……今日は、このくらいにしようと思います」

「了解。結構作ったね」

「そうですね。サーファさんのおかげで、いっぱい作れる薬が出来ましたから」

「役に立てて良かったよ。それにしても、普段の運動は苦手なのに、薬作りだと休まずに動き続けられるんだね。好きなことだからかな?」


 サーファは、クララの薬作りを手伝っている最中で、いつもより機敏に動いている事に気が付いていた。


「え? う~ん……多分、そうだと思います」

「やっぱり、好きなことだとやる気がでるもんね」

「はっ! 普段から薬作りをしていたら、運動はしなくてもいいんじゃ……」

「良いわけがないでしょう」


 突然リリンの声がしたので、クララは驚きつつ自分の部屋と繋がる扉の方を見る。そこには、腕を組んでクララを見ているリリンの姿があった。


「サーファに手伝って貰って、生産量が増えたようですね。ですが、クララさんに大鍋を持てる筋力があれば、一人でもこの生産量になったはずですよ。それに、これから先の製薬にも力が必要になるかもしれません。そうなったら、毎回サーファに手伝って貰うのですか?」

「うぅ……」


 ぐうの音も出ないクララは、視線を逸らすことしか出来ない。サーファも自分は構わないと言おうかと思ったが、場の空気を読んで黙っていた。


「何でも自分一人で出来るようになれとは言いません。私だって、一人では出来ない事は存在します。ですが、他人に頼りすぎるのも良くないのです。分かりますか?」

「はい……」

「では、きちんと運動もしますね?」

「はい」


 クララがちゃんと眼を見て返事をしたので、リリンは、優しい表情になって、クララの頭を撫でる。


「では、薬を保存しましょう。その後は、お風呂です」

「あ、はい!」


 クララは、手早く薬を冷蔵保存が出来る魔道具の冷蔵庫に入れていく。その後、予定通り浴場へと向かっていった。サーファも一緒だ。

 サーファが護衛になってからは、サーファも一緒にお風呂に入るようになっていた。


「じーっ……」


 皆一緒にいる脱衣所で、クララはジッとサーファの着替えを見ていた。


「いつもジッと見ているけど、楽しい?」

「私にはないものを持っていらっしゃるので……」

「確かに、見ていて退屈という言葉は出てきませんね。ですが、そんなに見ていたら、サーファにも失礼ですよ」

「あっ、ごめんなさい……」


 クララは、リリンに言われて、慌てて謝る。


「ううん。ちょっと恥ずかしいけど、気にしてないから大丈夫だよ」


 サーファはそう言いつつ、脱衣を終える。全員が裸になったところで、一緒に浴場へと入っていった。

 クララは、いつも通り洗い場でリリンに洗って貰っていた。クララが洗い終わると、リリン自身の洗髪と洗身をしていく。

 これまでだと、リリンが洗い終わるまで足湯をしていたが、ここ最近はサーファに抱き抱えられながら、先に入浴している。


「クララちゃんは、まだ湯船が怖い?」


 なるべくクララの肩まで浸かるようにしながら、サーファが訊いた。クララは、サーファにしがみつきながら、湯の中を見る。すると、湯に浸かっているはずなのに、背筋がぞわっとする感覚に襲われる。


「うぅ……ちょっと怖いです……」

「う~ん……やっぱり、文化の違いとかなのかな?」

「それもありますが、水に包まれている感覚が苦手なのだと思いますよ。だから、誰かに抱えられていないと落ち着かないみたいです」


 自身を洗い終えたリリンが、クララ達の元にやってきた。そして、サーファからリリンを受け取ると、いつも通り湯船の中を歩いていく。


「もしかしたら、クララちゃんが覚えていないだけで、溺れた事があるのかもしれないですよ?」

「クララさんは湖にも入った事はないらしいですので、溺れるという事はないと思いますが」


 リリンの言葉を受けて、クララはこくこくと頷く。


「じゃあ、本当に落ち着かないだけなんですね。こっちの克服は、少し掛かりそうですね」

「そうですね。こっちは、緊急性もありませんし、ゆっくり克服していければと思っています。ということで、少し自分だけで入ってみますか?」

「え!? む、無理です!!」


 クララは、かなりの勢いで横に首を振っている。それを見たリリンとサーファは、苦笑いだ。


「この様子だと、海水浴も無理だね」

「そうですね。浅瀬なら大丈夫でしょうけど、沖までは行けないでしょうね。まぁ、そもそも行く事は許しませんが」

「沖だと危ないですしね」

「海って、しょっぱいって聞きますけど、本当なんですか?」


 クララは、海というものを名前だけしか知らない。故郷も人族領の端の方だったが、海に面している訳では無かった。


「そうですね。かなりしょっぱいですよ」

「飲み水には適さないかな。ちょっとべたついたりもするかな」

「サーファが行った場所は、西海岸ですね。そこの先にある島であれば、そこまでべたつきはしないですよ。観光地にもなっているので、楽しめる場所になっていますよ」

「ああ、マリンウッドですね。確か、まだ活動している火山もあるって聞いた事があります」

「そうですね。基本的には大人しいですが、危ないときは危ないですね。許可が下りれば、クララさんも行ってみますか?」


 リリンの提案に、クララは少し驚いた。そんな許可が出るとは思えなかった。


「街から出ても平気なんですか?」

「人族領の近くで無ければ、大丈夫だと思いたいですが、実際にどうかは訊いてみないと分かりませんね」

「許可が下りると良いね」

「はい。お話を聞いたら行ってみたくなりました」


 クララは、笑いながらそう言った。人族領では、そんな観光地などに行く機会などなかったので、話が出てから興味津々だったのだ。

 そんなクララを二人は微笑ましく思いながら、入浴を続けていった。

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