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攫われた聖女~魔族って、本当に悪なの?~  作者: 月輪林檎
第二章 聖女の新たな日常

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療養期間

 リリンは、エリノラを見送ってから、部屋の中に戻る。すると、ちょうどクララが眠った後だった。


「こっちに来て、ようやくクララちゃんも成長し始めたって事ですね」

「そうですね。その内、私達でも勝てないくらいに強くなるかもしれないですね。そうなったら、自立しても安心出来ますね。クララさんも眠っているようですので、私は、またカタリナ様に報告してきます」

「分かりました」


 部屋から出たリリンは、再びカタリナの執務室に来た。そして、クララの体調不良の原因を伝えた。


「そう。魔力暴走を起こしていたのね。となると、私達からはどうしようもないわね。どのくらい続きそうか分かる?」

「いえ、さすがに、そこまでは分からないみたいです。ただ、これまで魔力暴走を起こした事はないようですので、一日で治るという事はないかと思われます」

「保有魔力の伸びは、最初の頃の方が大きいものね。それに、クララちゃんは聖女だから、常人よりも伸びるわよね。注意しながら見ておいて」

「かしこまりました。では、失礼します」


 リリンは、カタリナに一礼してから、執務室を出て行った。リリンが出ていった後、カタリナは脱力して、背もたれに身体を預けた。


「ふぅ……取りあえず、病気じゃなくて良かったわ。それにしても、魔力暴走は、人族に取って、少しキツい事なのね……もう少し人族について知っておいた方が良いかしら……」


 そんな独り言を言っているカタリナの傍に、メイドが近寄る。


「資料を集めてきますか?」

「ええ。一通りお願い」

「かしこまりました」


 カタリナの指示に従い、メイドは執務室を出ていった。今後、クララに起こる可能性がある事を調べるために。


 カタリナの執務室を出たリリンは、食堂の厨房からいくつか食材を貰い、自室へと帰ってきていた。


「さて、消化しやすい食事……林檎の摺り下ろしでは、味気がないですし……芋のポタージュでも作りますか」


 リリンは、厨房から貰ってきた芋を使ってポタージュを作っていく。元々料理は作れる方なので、手際よく作る事が出来ていた。

 ポタージュを作り終えたリリンは、クララの様子を見るために、クララの部屋に入る。リリンが入ってきた事に気が付いたサーファは、人差し指を唇に当てて、静かにというジェスチャーをする。それは、クララが、まだ寝ているという事を表していた。

 眠っているクララを起こしてまで、食事をさせるわけにもいかないので、リリンは、クララが起きるまで待っている事にした。

 二時間程経つと、クララは自然と眼を覚ました。


「うぅん……」

「クララさん? 起きましたか?」

「はい……」


 リリンに声を掛けられたクララは、リリンの方を見て頷いた。


「お腹は空いていませんか?」

「ないです」


 これには、リリンも少し困った表情になる。クララの療養とためにも、栄養はきちんと摂っていて貰いたいのだが、当の本人の食欲がないのでは、どうしようもない。


「そうですか。では、水を飲んで、また寝ましょう。寝ている方が楽でしょう?」

「はい」


 クララは、サーファから水を受け取って喉を潤し、再び眠りにつく。リリンはその後も、クララが起きる度に根気よく食事を摂らせようとする。その結果、何とか一杯だけ食べさせることが出来た。


「出来れば、もう少し摂取して欲しいところですが、仕方ありませんね」

「食欲も減衰しちゃうんですね。こうしてみると、人族の身体は、かなりやわですよね。私達の常識を当てはめちゃ駄目そうです。これからクララちゃんと生活する上で、何か注意した方がいい事ってありますか?」


 サーファは、リリンが人族領で過ごしてきた中で、向こうの常識を知る機会があったのではないかと思い、そう訊いた。


「魔族と人族とで、大きな違いは、あまりないですね。強いて言えば、身体が弱いといったところでしょうか。私達では平気な怪我や病気が、人族からしたら大病という事になるでしょう。今回のクララさんを見て、そう思いましたね」

「やっぱり薬類を揃えないといけなさそうですね」

「そこら辺は、クララさんの体調が回復してから、話し合いましょう。時間も時間ですので、食事とお風呂にしましょう。サーファからお先にどうぞ」

「分かりました。お先に失礼します」


 リリンとサーファは、夜ご飯とお風呂も交代交代で済ませていく。そして、またクララの看病に戻り、夜が更けていった。


「サーファは、自室に戻って眠って下さい。私は、このままクララさんの部屋で寝ます」


 クララの魔力暴走が、どこまで酷くなるか分からないので、なるべく傍にいようという考えだった。


「私も一緒に残った方が……」

「いえ、いざという時、二人とも疲労していると困りますので、サーファは、しっかりと寝て下さい」

「そういう事でしたら、分かりました。じゃあ、おやすみなさい」

「はい。おやすみなさい」


 サーファは自室で就寝し、リリンはクララの部屋にある椅子に座って、就寝する。


────────────────────────


 翌日。クララの体調に変化は無かった。熱と頭痛が続いた状態になっており、食欲も湧いてこなかった。そんな状態は、その翌日も続き、三日三晩下がる事はなかった。

 その間に、一度だけカタリナが様子を見に来ていた。クララが辛そうにしているのを見て、少し眉を顰めてから、仕事に戻っていった。

 そして、四日目になると熱も微熱程度になって、食欲もある程度戻ってきていた。魔力暴走が落ち着いてきた証拠だった。回復し始めているクララを見て、リリンとサーファは、ようやく落ち着くことが出来た。


「思っていたよりも長引きましたね。ですが、体調が回復し始めているのであれば、もう大丈夫ですよ」

「はい。昨日までの辛さが嘘みたいです。これで、私の魔力が上がっているんですか?」

「そのはずですよ。今までのように能力を使っても、疲れにくくなっていると思います。これは、実際に体感して貰った方が良いでしょう」

「でも、それで、また魔力暴走を起こしたりはしないですか……?」


 今回の件で、クララは魔力暴走に悪印象を抱いていた。正直に言えば、もう二度とやりたくないのだ。


「しばらくは大丈夫でしょう。ですが、また起こる可能性はあります。クララさんは、まだ成長途中ですから」

「身体を鍛えていくと、段々と成長しにくくなるみたいに、魔力の成長も同じ事が言えるんだって。だから、魔力が成長していくと、段々と魔力暴走が起きる可能性は低くなっていくよ」

「それじゃあ、後何回かは経験しないといけないんですね……憂鬱です……」


 結局、魔力暴走は何度か経験しないといけない。ラビオニアのような事がある以上、クララの中に伸ばさないという選択肢はなかった。例え、また辛い思いをしてもだ。


「そうですね。魔力を伸ばしていくのであれば、基本的に我慢しないといけないですね。私達も全力で看病しますので、頑張りましょう」

「は~い……」

「それはそうと、食欲も戻ったようですので、これからは、いつも通り食堂の料理を持ってきますね」

「え? 今までのポタージュって、食堂のものじゃないんですか!?」


 クララは、今までの食べさせて貰っていたポタージュを食堂で作って貰ったものだと思っていたのだ。しかし、実際には、これはリリンの手作りである。


「はい。私の手作りです」

「へぇ~……凄く美味しかったです!」

「それは良かったです。機会があれば、またお作りしますね」

「はい!」


 クララは笑顔で頷いた。魔力暴走の間に食べたポタージュは、クララの口に合った代物だった。だから、クララは、またリリンの手料理が食べたいと思っていたのだ。


「それでは今後の予定ですが、クララさんの体調が完全に元に戻るまで、演習の手伝いや薬作り、運動は休みとなります。それと体調に余裕が出て来ているようですので、ずっと寝たままでは無く、しばらく起きている時間も作りましょう」

「でも、薬作りはしちゃいけないんですよね?」

「はい。ですから、部屋の中で出来る遊びなどをしましょう。もちろん、運動はなしです」


 リリンがそう言うと、クララは嬉しそうな顔をした。運動無しで遊べるのが嬉しいからだ。その後、クララ達は、いつも通り室内での遊びを楽しんだ。まだ微熱があるクララだが、それを感じさせないくらいに楽しそうにしていた。

 そうして二日程経つと、クララの体調が完全に回復した。

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