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攫われた聖女~魔族って、本当に悪なの?~  作者: 月輪林檎
第二章 聖女の新たな日常

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寝込む

 その翌日。昨日の忙しさのせいか、クララは熱を出して寝込んでいた。リリンが気が付いたふらつきは、これの兆候だったのかもしれない。


「高熱というわけではありませんが、確実に熱を出していますね。これから、上がる可能性もあるでしょう。改めて訊きますが、喉の痛みはなく、頭が少し痛いのでしたね?」

「はい……」

「頭は、どのように痛いのですか?」

「ズキズキです」


 クララの申告に、リリンは眉を寄せる。可哀想だという気持ちが出ているのだ。


「昨日の疲れが出たかもしれないですね。詳しい原因は、後ほど調べますので、今は眠っていて下さい」

「はい……」


 眼を瞑ったクララの頭を軽く撫でつつ、リリンはベッドから立ち上がる。


「サーファ、あわあわとしていないで、濡れタオルを掛けてあげて下さい」

「は、はい!」


 クララが熱を出した事で、あわあわと落ち着かない様子だったサーファに、リリンが指示を出す。サーファは、リリンの指示通りに、濡れタオルを絞って、クララの額に乗せる。氷水に入れていたので、適度に冷えている。そのおかげで、クララの寝顔が楽になっていた。


「タオルの交換と汗拭きは、サーファに任せます。私は、時間になり次第、医者を連れてきます」

「わ、分かりました!」


 サーファは、リリンの指示に頷く。リリンは、すぐにでも医者を連れてきたいところだったが、まだ勤務時間外のため、城まで来ていない。病気になったのが魔王などであれば、勤務時間外であっても呼び出して、診療して貰うところだが、クララではその対象にはならない。


「クララちゃんも対象にする方法とかはないんですか?」

「ないです。要職に就いている者が対象ですから」

「そう……ですよね。でも、魔族の医者で、大丈夫ですかね?」


 サーファは、魔族の医者が人族であるクララを診ることが出来るのか少しだけ不安だった。


「大丈夫でしょう。人族に近い身体をしている種族もいます。実際、私がそうですから」


 サキュバスとインキュバスは、基本的に人族に近い身体をしている。そんな種族も診る魔族の医者であれば、人族でも問題無いだろうとリリンは考えていた。


「人族特有の病気じゃないといいですね」

「そうですね。そうなってしまったら、私達ではどうしようもない可能性がありますから。その場合は、人族領に潜入している者達から、特効薬を取り寄せる必要があります」

「時間が掛かるってことですよね。そうならないように祈ります」

「そうですね。では、しばらくクララさんを頼みます。私は、このことをカタリナ様に報告してきます」

「分かりました。お任せ下さい!」


 リリンは、クララをサーファに任せて、カタリナの元に向かう。まだ朝早いので、カタリナが執務室にいるかどうかは賭けだったのだが、運良く執務室で仕事をしていた。


「あら、リリンじゃない。どうしたの?」

「実は、クララさんが熱を出してしまいまして」

「!? 大丈夫なの!?」


 カタリナは、驚きのあまり机に手を突いて、勢いよく立ち上がった。


「現状、命の危機というわけではありません。詳しいところは、医者が到着次第調べます」

「そう……取りあえず、生きているのなら良かったわ。でも、病気なら、クララちゃんの能力で治せるんじゃない?」

「いえ、無理でした。回復出来ないと言うよりも、能力が使えないといった感じでした」


 クララは、眼を覚ました際に、自分で回復を試みていた。しかし、聖女の能力は、一切発動しなかった。


「力を行使する事すらも出来なかったという事ね。そこは、少し心配ね。何か分かり次第、報告して。人族特有の病気とかだったら、困るから」


 ここはカタリナもリリンと同じ考えだった。


「はぁ……クララちゃんが来てから病気とかに罹っていなかったから、失念していたわ。今後、クララちゃんが病気に罹った時用に、薬の調達はした方が良いわね。クララちゃん自身が作れる可能性もあるけど」

「私もその方が良いかと思います。魔族領の薬学書では、人族専用の物は載っていないと思われますので」

「そうね。手配しておくわ。クララちゃんの事は、リリンとサーファに任せるわ。時々様子は見にいくようにはするわ」

「かしこまりました。では、失礼します」

「ええ、よろしくね」


 カタリナへの報告も済ませたリリンは、クララの居室へと帰ってきた。


「様子はどうですか?」

「特に変わりないです。熱も上がっている感じはしないので、そこまで酷いものではないのかもしれないです」

「まだ油断は出来ません。容態が急変する可能性もあるのですから」

「そ、そうですよね……もう少し気を引き締めます!」

「そうして下さい。取りあえず、私がクララさんを見ておきますので、サーファは朝食を済ませてきなさい。食事は、交代交代で取りましょう」

「分かりました!」


 サーファは、急いで部屋から出て行く。なるべく早く朝食を済ませて、リリンにも朝食を食べて貰うためだ。食堂から受け取った朝食を、自室に運んで喉に詰まらせないよう注意しながら、急いで食べていく。

 その後、交代したリリンも朝食を済ませる。その頃になると、医者が登城してくる時間帯なっていた。その事に気が付いたリリンは、サーファに医者を連れてくると伝えてから、呼びに向かった。サーファに伝えた理由は、クララを起こしておいて貰うためだ。

 そうして、リリンが医者を連れてくると、クララは目を開けて起きていた。魔王城の医者は、リリンと同じサキュバスだった。名前をエリノラという。

 そんなエリノラは、クララの傍に腰を下ろして、診察を始めた。


「それで、クララさんは、大丈夫なのですか?」

「急かさないでよ。口を大きく開けてくれる?」

「あ~」


 エリノラは、舌圧子でクララの舌を抑えつつ、魔法で生み出した光で喉の奥を確認する。


「喉は腫れてない……今も頭は痛い?」

「はい」

「頭が痛すぎて眠れないとかはある?」

「なかったです」

「症状に気が付いたのは、朝、眼を覚ました時?」

「はい」


 この問答の間に、エリノラは、クララの脈と呼吸を確認していた。


「風邪じゃないみたい。後、考えられるのは……」


 エリノラは、クララの手首を取ると、眼を瞑って集中し始めた。リリンとサーファは、口出しするわけにもいかず、黙って見守っていた。


「やっぱり……この子は、風邪を引いているわけじゃない」

「どういうことですか?」

「『魔力暴走』が起こっている。何か沢山魔力を使うような事した?」

「昨日、怪我人の治療に能力を使いましたね。ですが、一ヶ月前のラビオニアの時の方が、使った魔力は多かったと思いますが」

「その経験が引き金になっている感じかな」


 エリノラの言葉に、クララは首を傾げる。その事に気が付いたエリノラは、一度咳払いをする。


「じゃあ、あなたにも分かるように説明するね」

「お願いします」

「魔力暴走っていうのは、自身の身体を巡る魔力の量が、身体の許容限界以上になっている状態の事を言うの。もっと簡単に言うのなら、今のあなたは、水を一杯入れたコップに水を注いでいる状態かな」


 水が満杯になったコップに水を注ぎ続ければ、水は溢れてしまう。それは、人族領でも魔族領でも当たり前の事だ。


「身体から溢れてしまった魔力は、自分の身体を蝕む事になる。それが、熱や頭痛となって現れているの」

「なるほど……でも、なんでそんな状態になったんでしょうか?」

「それが、さっきの話に通ずるの。ラビオニアでの事は、私も又聞きだから、実際のところは知らないけど、リリンの話通りなら、かなりの魔力を消費したでしょ? その経験から、保有魔力量が増えたのだと思う。その段階だと、身体の許容内に収まっていたけど、今回の事で、保有魔力量が許容限界になって、魔力暴走を引き起こしたって事」


 魔力許容限界は、保有魔力が上がり、許容限界以上になっていくと自然と伸びる。クララの魔力許容限界は、聖女という事もあり、かなり大きい。

 ただ、保有魔力の方は、年齢と今までの生活の事もあり、あまり伸びていなかった。そのため、魔力許容限界は、全く伸びる事がなかった。保有魔力は、身体の成長に伴って自然と上がっていくだけでなく、魔力を使い込めば使い込む程上げる事も出来るのだ。上がり幅は、伸び代によって変わる。

 だが、それも魔族領に来るまでの話だ。ラビオニアでの経験を経て、大幅に上昇している。それでも魔力許容限界ギリギリで留まっていたのだが、今回の演習での経験により、それを超えてしまったのだ。


「それにしても、魔力暴走ですか……私達には縁のないことでしたので、候補から抜けていましたね」

「縁がない……ですか?」

「はい。私達魔族は、身体の内側も外側も頑丈ですので、魔力暴走程度であれば、気合いでねじ伏せられます」

「でも、辛いですよね?」

「そうでもないですよ。エリノラも同じ意見のはずです」


 リリンがそう言ったので、クララはエリノラのことを見る。エリノラは、少し困った顔になる。


「確かに、魔力暴走が起こっても、普通に生活出来るけど、リリンは異常だと思う。暴走していた魔力を制御していたじゃん」


 エリノラの言葉に、サーファは眼を剥く。それだけおかしいことをしていたということなのだ。


「若気の至りです。あの時は、好奇心旺盛でしたから」


 リリンは、少し恥ずかしそうにそう言った。この話で、クララは少し気になる事があった。


「お二人は、知り合いなのですか?」

「いえ、私達は幼馴染みなので、一応、知り合い以上の関係ですよ」

「だから、学校も一緒だったの」

「がっこう……?」


 クララは、首を傾げてリリンを見る。


「学び舎とも言います。クララさんの故郷にもありませんでしたか?」

「あったんでしょうか? 分かりません……」


 故郷を思い出して、顔を伏せてしまったクララの頭をリリンは優しく撫でる。


「それで、魔力暴走の処置はどうすれば良いのですか?」


 リリンは、クララを慰めながら、今後、どういう風に看病すれば良いのかを訊く。


「特にない。栄養取って寝るが一番。魔力許容限界が、どのくらい上がるのか分からないけど、熱と頭痛は、それが終わるまで続くから、長引いても焦らないで平気。ただ、熱が極端に上がるようなら、すぐに呼んで。解熱剤を処方するから」

「分かりました。診察ありがとうございました」

「ううん。仕事だから。お大事にね」


 エリノラは、クララに手を振ってから部屋を出て行く。その後に、リリンも部屋を出て行った。クララの看病なら、サーファもいるので、出ていっても問題はないのだ。


「こんな早くに、本当にありがとうございました」

「いや、勤務時間だし、病人を診るのは当たり前でしょ。てか、私しかいないのに、その丁寧な言葉遣いを続けるの?」

「今では、こちらの方が喋りやすいので」

「ふぅん。まぁいいや。多分、食欲はあまりないだろうから、いつも通りの食事じゃないほうがいいと思う。そこら辺は、あの子の様子を見て判断して」

「分かりました」

「じゃあ、何かあったら呼んでね」


 エリノラはそう言って、自分の勤務場所に戻っていった。

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