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攫われた聖女~魔族って、本当に悪なの?~  作者: 月輪林檎
何も知らない聖女

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ラビオニア戦線

改稿しました(2022年6月6日)

 クララが治療を続けていると、更なる負傷者が運ばれてくる。その中には、今までにない重傷を負った魔族がいた。クララは、今、治療している魔族の様子を確認する。既に危険域から脱出しているので、後は、他の魔族でも治療出来るだろうと判断したクララは、近くの魔族を呼ぶ。


「この方の治療をお願いします。既に、あらかたの治療は終えていますので、亡くなることはありません。私は、今、運ばれてきた方の治療に向かいます」

「わ、分かった!」


 クララは、残りの治療を他の魔族に托すと、新たに運ばれてきた重傷者の元に向かう。その重傷者は、両腕が取れかけており、腹には大きな傷が刻まれ、内臓も損傷していた。

 それでも生きているのは、魔族ならではの耐久力があるからだろう。だが、それでもこの魔族の命は風前の灯火だ。


「こいつ、回復魔法が効かないんだ! な、治せるのか!?」

「回復が効かない……ですか……勇者の力が加わっているのかもしれません。これだと、私の力も通用するかどうか……ですが、やれるだけやってみます」

「頼む! 俺は、他の奴等の治療をしてくる!」


 そう言って、傍に付いていた魔族は他の怪我人の元に向かった。クララは、その重傷者の治療を始める。


「本当だ……こっちの回復魔法を分解してくる……」


 先程の魔族が言っていた通り、こっちの回復魔法の効き目が薄い。だが、聖女の回復能力は、それでもある程度の効力を発揮している。おかげで、止めどなく流れていた血が止まり始めた。


「ダメ……止血だけじゃ、いずれ死んじゃう……根本的な傷の治療に移らないと……こんな力……」


 クララは、初めて勇者の力を憎いと思った。今までは、自分の身を守る力だったため、憎いなどと思った事はなかった。だが、こうして、目の前にいる患者の治療を妨げられると、その気持ちが湧き上がってしまう。


「!?」


 クララのその気持ちが功を奏した。クララの聖女の力が、勇者の力を分解し始めたのだ。これには、クララも驚いていた。

 何故なら聖女の力は、勇者と共に魔族を倒し、人族を助けるものとされてきたからだ。その聖女の力が、勇者の力を完全に分解するとは、誰も思わないだろう。

 クララは、その事を深く考えずに、治療を続ける。今、そんな事を考えている暇などはないからだ。

 幸いなことに、この魔族は、身体のパーツが揃っていたため、五体繋がって治すことが出来る。これで、腕が無くなっていれば、欠損する事になってしまっていた。


「よし……もう大丈夫……」


 何とか危険域を脱する事が出来た。クララは、その事に安堵しつつ周囲を見回す。今の魔族程の重傷者はもういなかった。だが、それでも、放っておけば命が危うい魔族が多い。


「もう一踏ん張りだ……!」


 クララは、今の患者を他の魔族に任せて、次の患者の元に向かう。


 ────────────────────────


 クララが野戦病院で奮闘している間も、魔族と人族の戦闘は続いていた。

 この戦闘は、完全に人族優勢だった。勇者パーティーがいる事は大きかったのだ。


「はっははははは!!! 雑魚共が!! 死ね!!」


 カルロスが高笑いをしながら、魔族達の首を刎ねていた。


「貴様ぁぁぁぁ~~!!」


 一人の鬼族がカルロスに向かって、大剣を振り下ろす。カルロスは、その攻撃に防御をする素振りすら見せない。なぜなら、その攻撃を、バネッサが割り込んで受け止めたからだ。


「カルロスはやらせないよ!!」


 バネッサが受け止めている間に、カルロスが鬼族の懐に踏み込み、胴体を斬り裂く。


「うぐっ……」

「死ね!!」


 カルロスは、胴体を斬り裂いた魔族の首を刎ねる。魔族達を殺すカルロスの顔はどう見ても勇者らしくなかった。だが、これが人族の勇者である。

 カルロスは、そのままバネッサ、メラーラ、ネリの援護を受けて、次々と魔族達を斬っていく。その中には、まだ死んでいない魔族もいる。カルロスでは無く、バネッサ達が戦った魔族だ。

 カルロス達は移動を続けているので、いなくなった隙に他の魔族が負傷者を回収していった。その患者をクララの元まで運んでいたのだ。


「ここの魔族達も雑魚ばかりだな。この調子だと、魔王討伐なんてあっという間なんじゃないか」

「そうね。カルロスなら、魔王も簡単に倒せるわよ」


 調子に乗ったカルロスの言葉を、メラーラがすぐにおだてる。これは、勇者パーティーの日常だった。カルロスが調子に乗った事を言って、他のメンバーがそのままおだてていく。誰も、カルロスに忠告をするという事はないのだ。

 旅に出た当初は、その役割をクララがやっていた事もあったが、そんな忠告も一切聞かないので、その内、クララも何かを言う事はなくなった。

 基本的に、カルロス達が魔族に負ける事はなかったので、それが、さらにカルロスの増長を煽っていたのだ。


「さっさと街も滅ぼしてやるぞ」

「そうだね」

「私の魔法で焼き払うわ」

「が、頑張りましょう」


 余裕の表情で、カルロス達がラビオニアに向かおうとすると、突然、足元が爆発して、カルロス達が後ろに吹き飛んでいった。


「うおおおおおおおおおおお!!?」


 カルロスは、勇者の耐久力のおかげで、何とか無事でいるが、バネッサ達は、地面に伏せったままになっていた。時折、身体が震えている事から死んではいないと判断出来るが、しばらくは動けないままだろう。


「な、なんなんだ!?」


 突然の事にカルロスは、かなり動揺していた。これまでの戦いで、このような自体は一切なかったからだ。カルロスが、周囲に視線を向けると、戦場のあらゆる場所で、同様の爆発が起こっていた。

 そんな光景を、カルロスとは違う場所から見ている者がいた。


「ふむ。勇者と呼ばれているので、手強い相手だと思っておりましたが、存外、大したことありませんね」


 それは、この事態を引き起こしている張本人であるベルフェゴールだった。ベルフェゴールは、地雷魔法と呼ばれる魔法を使用して、戦況に変化をもたらしたのだ。

 地雷魔法は、特定条件を満たした時、その効力が発揮される魔法の事だ。基本的に、地面や壁などに仕込んで使用する。今回の条件は、人族が上を通る事。それを、ベルフェゴールは、遠隔から仕込んでいた。

 当然、仕掛けられている場所が目で見て分かる事もなく、人族の兵達は、次々に消し飛んでいく。その光景を見てしまった人族達は、尻込みになってしまった。


「人族も戦闘慣れしていると思っておりましたが……これでは、拍子抜けですな」


 ベルフェゴールの地雷魔法の上を通って、魔族達が人族達に向かって行く。今回、ベルフェゴールは、地雷魔法以外は使わないようだった。


(さて、これで戦況が変われば良いのですが。これ以上、魔族が死ぬようでしたら、本格的な攻撃をしなくてはいけません。それは、なるべく避けたいところですが……)


 ベルフェゴールは、冷静に戦況を見ていた。そして、たったの十分で、戦況がひっくり返った。ベルフェゴールの地雷魔法のせいで、思うように踏み込めなくなった人族達は、魔族達の攻撃に押され始めたのだ。

 だが、その中でも勇者は、魔族達に突っ込んでいき、攻撃を加えていく。その様子を見たベルフェゴールは、別の魔法を使おうかと考えたが、すぐにその考えをやめる。

 何故なら、ベルフェゴール達の後ろから、多数の魔族達が駆けつけてきたからだ。その魔族達は、身体のあちこちに包帯を巻いている。だが、その眼には活力があった。リリンの疲労回復効果のある煮汁を飲んだからだ。


「勇者殿! ここは撤退を! 我々に勝機はありません!!」

「何を言っている!? 俺がいれば、このくらい……!」


 カルロスがそう言いながら、脚を一歩踏み出すと、地雷魔法が発動し吹き飛ばされる。


「ぐあっ!」

「安全な場所がどこにあるかも分かりません! これ以上は、勇者殿も危険かと!!」


 人族の指揮官が、カルロスに進言する。言う事を聞く気がないカルロスは、また一歩進もうとする。すると、また地雷魔法を踏み、吹き飛ばされた。

 地面に伏せったカルロスは、憤懣に顔を歪める。


「………………分かった……撤退だ!!」


 カルロスが撤退を決めると、そこからは素早かった。人族は、真っ直ぐ自分達が出立した街へと撤退していった。魔族達は、それを見送る。ここで、追撃を掛けるよりも、負傷者達の収容などに時間を割いた方が良いからだった。

 魔族達は、ラビオニアを防衛する事に成功した。ベルフェゴールの地雷魔法と再び舞い戻ってきた魔族達が決定打となった。

 魔族達の勝ち鬨が上がる。


 だが、これで、カルロスの心に巣くっている魔族への憎悪が、さらに深まった。それは、勇者の力が増した事を示している。人族にとっては、ある意味朗報となるだろう。だが、それに気付く者はいなかった。


 ────────────────────────


 クララが詰める野戦病院にも、戦勝の知らせが届く。魔族達は、戦勝に喜んでいた。だが、クララは、まだ喜んでいなかった。それもそのはず、まだ大怪我をしている魔族達の治療が残っているからだ。

 真剣な顔で魔族達の治療をしていくクララの姿に、魔族達は最初に抱いていた敵意を持てなくなっていた。

 すぐに、クララと同じように治療へと移っていく。クララ達の奮闘によって、着実に重傷者の数は減っていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] これで勇者を逃がした?? 魔族は馬鹿だろう。
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