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状況の変化

改稿しました(2022年6月6日)

 天幕に飛び込んできた影の一つが、クララに駆け寄って抱きしめる。


「クララさん!」


 クララを抱きしめたのは、リリンだった。同時に入ってきたサーファは、出遅れたと思ったのと同時に、クララが無事なことに安堵した。

 突然、リリンとサーファが現れた事に、クララは驚いて口をパクパクとさせていた。

 その間に、リリンがクララの手枷を解く。いとも簡単に手枷を解かれたので、天幕内にいた魔族達は愕然とする。


「怪我はされていませんね?」

「はい。ちょっと手首が痛いくらいです」


 ずっと手枷をされていたため、クララの手首には赤い跡が付いていた。リリンは、クララの手首を確認してから、大事に至ってはいないと判断した。


「一応、大丈夫なようですね。はぁ……ご無事で良かったです」


 リリンは、クララをきつく抱きしめる。クララの存在を確かめるように。

 そして、クララを奪われないように抱きかかえてから、この天幕内の状況を把握する。


(軍議の場……クララさんをどうするかを話していたのですね。ベルフェゴール殿は……きっといつもの変態的な答えが真実でしょう。普段であれば、鈍器を使うところですが、今回は、助かりましたね)


 リリンは、ベルフェゴールに頭を下げる。ベルフェゴールは、恭しく一礼してから、ニコニコと笑った。最初に礼をしたのは、リリンの礼を受け取ったという仕草だ。その後、ニコニコと笑ったのは、クララの保護者が来たことによって、クララのロリ度が上がったからだった。どうしようもない変態である。

 ベルフェゴールに礼をし終わったリリンは、レオングと向かい合う。


「何故、クララさんを攫って来たのでしょうか?」


 ある程度の察しは付いているが、相手の真意を知るために問いかけているのだ。レオングは、真剣な顔になりながら話し始める。


「聖女を人族の軍隊に差し出して、ここでの戦闘を終えるためだ」

「そのような事で、人族が本当に止まるとお思いですか?」


 リリンがそう言うと、レオングだけでなく他の魔族達も目を逸らした。全員、可能性が低いとは感じつつも、その小さな可能性にすがらざるを得なかったのだ。

 だが、それはリリンにとって、とても浅はかな考え方だった。リリンは、苛立ちを隠そうともせずに舌打ちする。


「クララさんを渡す事で、戦争へと発展する可能性もあったのですよ? その可能性は、この戦闘を終わらせる確率よりも高いと思いますが? クララさんを攫った代償を払わせるなど、理由は簡単にでっち上げる事も出来るのですよ? あなた達は、軍の人間でしょう。そこまでは考えなかったのですか? 不用意な行動が、最悪の事態を引き起こす事など、よくあることでしょう?」


 リリンは、静かに怒りを露わにした。暴力に訴えることはないが、今にも皆殺しにされるのではないかという程の圧を感じる。クララとベルフェゴール以外の魔族達が汗を垂らす。

 どうにかして、リリンの怒りを回避しようと頭の中で模索し始める魔族達。だが、その必要はなくなった。外で激しい音が鳴ったのだ。それは、外で行われている戦闘が激化した事を表していた。

 そして、天幕の中に、慌てた様子の一人の魔族が入ってきた。


「前線にて、負傷者多数! その内、重傷者が搬送されてきました!!」


 この報告に、魔族達の顔が強張った。そんな中、クララがリリンの腕から降りて、外へと走っていった。その後を、すぐにリリンとサーファが追い掛けていく。

 ベルフェゴールはベルフェゴールで、外へと出て行った。

 残された魔族達は、ぽかんとしながら四人を見送ったが、すぐに我に返って、指示を飛ばしていった。


「負傷者の収容を優先!! 近くの街に駐留している軍に救援要請! ベルフェゴール殿が来たとしても、必ず戦況が良くなるわけじゃない!! すぐに動け!!」

『はっ!!』


 リリンの言葉が刺さったのか、レオング達の動きは、少しだけ良くなっていた。


 ────────────────────────


 天幕を飛び出たクララは、先程通った野戦病院まで駆けていった。そこには、さっきよりも多くなった怪我人の姿があった。


(早く治療しないと……)


 クララがそう思っていると、エルフ族の男一人がクララを見つける。


「人族!? ここまで来たってのか!? ふざけんな!!」


 クララを見つけたエルフ族の男は、剣を抜くと、クララに向かっていく。クララは聖女の力を使って防ごうとするが、その前に割って入ってきたサーファが、エルフ族の腕を掴んで攻撃を止める。そして、素早く剣を奪った。


「皆さん、落ち着いてください。彼女は味方です。元諜報部隊所属の私と現魔王軍所属のサーファが、身元を保証します。治療も行えますので、ご安心ください」


 リリンがクララの前に立ち、クララが味方である事を説明する。だが、魔王城と違い、クララの情報が行き届いているわけではない。そのせいで、魔族達はリリンの言葉に懐疑的だった。


(さすがに、この状況で聖女と伝えるのは悪手のはず。どうやったら、ちゃんと信じて貰えるでしょうか……)


 リリンがどうやってクララを信用して貰うか考えている間に、クララは先に歩いていった。そして、重傷者の前で止まる。その重傷者は、身体に大きな斬り傷が付いており、衛生兵の魔族が必死に治療をしているが、傷が塞がらない。その間にも、血は流れ続けるばかりだ。

 クララはその魔族の側まで向かう。そして、魔族に向かって手のひらを向けた。


「『神の雫よ・彼の者の傷を癒やせ』【治癒】」


 クララは、聖女としての力を行使する。


「おい! 勝手な真似をするな!!」


 治療をしていた魔族がクララに怒鳴る。しかし、目の前で、大怪我をしていた魔族の傷が塞がり始めた途端、唖然として黙り込んだ。


「リリンさん!!」


 名前を呼ばれたリリンは、即座に反応して、クララの傍でしゃがむ。


「私の杖を持ってきていませんか?」

「念のため、持ってきました。ナイトウォーカーに載せてあります。サーファ、お願いします」

「はい!」


 サーファは、急いでナイトウォーカーを止めている場所まで向かった。


「それと、近くにあるようでしたら、ファッジ草を取ってきてくれませんか?」

「ファッジ草ですね。わかりました」


 ファッジ草には、疲労回復効果がある。クララは、それを利用しようと考えていた。

 クララと一緒に薬学書を読んでいたリリンは、一応その文献も見ている。リリンは、何とかファッジ草を思い出して、近くにないか探しに向かった。

 そのリリンと入れ替わりに、クララの杖を持ったサーファが戻ってくる。


「持ってきたよ!」

「ありがとうございます」


 杖を受け取ったクララは、改めて力を行使する。すると、クララの身体から、金色の光が、燐光のように舞い始めた。聖別され、神聖化した杖は、確実に聖女としての能力を引き上げていた。それによって、引き上げられた力のうち、能力として消費出来なかった分が、光となって舞っているのだ。

 これによって、先程よりも傷が治る速度が格段に上がっていた。


「金色の光……もしや、話に聞く聖女か……?」

「まさか……聖女が、何故魔族領にいるんだ?」

「いや、そもそも、何で聖女の力が、魔族を癒やしているんだ!? おかしいだろ!?」

「だが、現に治っているぞ……」


 魔族達は、クララの金色の光を見て、聖女である可能性を導き出していた。


「そこで突っ立ってないで、怪我人の止血をしてください!!」


 遠巻きにクララを見ていた魔族に向かって、クララが大声で指示した。その声で、我に返った魔族達は、すぐに各々の作業に戻る。サーファも、怪我人の収容を手伝う。

 軽傷者の治療は魔族達が行い、重傷者に関しては、一通りの応急処置で延命しておき、最終的な治療はクララが行う。そんなサイクルが出来上がった。大怪我の場合、クララの能力を使った方が、治る確率が高いからだ。

 死者の数が減り、復帰出来る魔族が増えていったタイミングで、大量のファッジ草を持ったリリンが帰ってきた。


「ファッジ草を持って参りました」

「ありがとうございます。じゃあ、それを水で煮てください。本来の作り方ではありませんが、それでも多少の疲労回復効果があるはずです。それを軽傷者と復帰する方々に飲ませてください」

「分かりました」


 リリンは、クララの指示通りに焚き火に掛かった鍋の中に水とファッジ草を入れて煮込む。そうして出来たファッジ草の煮汁を、軽傷者と戦線に復帰する魔族達に飲ませていった。


「うげっ!? まずい!!」

「うおっ……これで本当に疲労回復効果があんのか……?」

「我が儘を言わないで下さい。クララさんが、これでも効果はあるとおっしゃっているんです。効果はあるのでしょう」


 リリンがそう言うので、魔族達はそれ以上の文句を言えずに、大人しくまずい煮汁を飲んで、戦線復帰していった。

 クララのおかげで、野戦病院での治療も順調にいっている。だが、まだ戦闘は続いていた。

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