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攫われた聖女~魔族って、本当に悪なの?~  作者: 月輪林檎
何も知らない聖女

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運動を頑張ろう……

改稿しました(2022年6月6日)

 クララの運動計画の話が出た翌日、クララは、自分の部屋にて、リリンが用意した運動着に着替えていた。さすがに、昨日の今日で演習場を使うことは出来なかったので、部屋での筋トレになっていたのだ。


「えっと、まずは、何からするんですか?」


 食事のためにやることにしたクララだったが、やる気はあまりなかった。本当にやるのかという目線をリリンに向けながら、そう尋ねる。


「まずは、腹筋、背筋をしていきましょう」

「分かりました……えっと、あまり驚かないでくださいね?」

「?」


 クララの言葉に、リリンは首を傾げる。何のことを言っているか分からないからだ。

 リリンが見守る中で、クララは床に敷いたマットの上に腰を下ろした。そして、その場で寝そべり、足を少しだけ立てて、上体を起こそうとする。


「ふぬぬぬ……」


 上体は、一ミリ以下しか浮いていない。つまり、最初から、ほぼほぼ動いていないのだ。


「…………」


 その様子に、リリンはそういうことかと納得した。クララが驚くなと言ったわけは、このことにあったのだ。明らかに筋力が不足している。

 そこで、リリンはある事を思い出す。クララが薬を作るのに、いつもちまちまと少ない個数でしか作っていない事に。薬室の力をフルに使えば、大きな鍋を使ったりして、かなりの個数をまとめて調合出来る。

 それをやっているところを見たことがないのだ。それは、この筋力のなさが原因で間違いないだろう。


「仕方ないですね」


 リリンは、クララの背中を押して、腹筋のサポートをする。そのおかげで、クララは、腹筋をする事が出来た。ただ、これにクララは疑問を持つ。


(これって、意味あるのかな……?)


 腹筋は出来ているが、リリンがサポートしているので、ちゃんと鍛えられているのか不安になるのだ。


「これでも、ちゃんと効果はありますよ。ここから、サポート無しまで進めれば良いのです」

「そ……ん……な……もの……です……か……?」


 リリンのサポート付きのせいで、自分で腹筋をやめることが出来ないクララは、腹筋をしながら返事をする。おかげで、言葉が途切れ途切れになってしまった。


「さて、このまま、後十回やりましょうか」

「うぇ!?」


 涙目でリリンを見るクララだったが、クララに運動をさせるように命令を受けているリリンは容赦無しに腹筋をさせていた。


「はぁ……はぁ……はぁ……」

「まだ、腹筋を始めたばかりですよ?」

「……歩きなら……得意なのに……」

「それは、勇者達と歩き回ったからでしょう。それなら、もう少し筋力が付いても良いと思いますが……」

「うぅ……」


 これにはクララも申し訳ないと思い、何も言えなくなる。


「その期間は睡眠も食事も十分に摂れていませんので、それも仕方ないでしょう。今は、栄養的にも大丈夫だと思うので、少しずつ筋肉も付いてくれます。多分……そういう体質でさえなければ……」


 リリンは最後の方になると、クララから目線を逸らしていた。カタリナは、クララがぶくぶくに太ってしまう事を恐れていたが、実際には、本当に脂肪や肉が付きやすいかどうかは分からない。

 最初が痩せすぎていたので、今の状態では決めつける事が出来ないのだ。


「沢山食べても太らないという人もいらっしゃいますが、基本的は、クララさんはやっと正常に近づき始めたくらいですので、そういう体質かは分からないのです」

「なるほど……じゃあ、その体質だと確定したら……!」

「運動は続けます」


 僅かな希望を胸にクララがリリンを見たが、無情にもリリンは笑顔で斬り捨てる。クララは、悲しみの表情になりながら、観念した。


「次は、背筋をやります。こちらもサポートが必要でしょう」

「……はい」


 背筋もリリンにサポートを受けて、ゆっくりと身体を上げていった。


「ふぬぬぬ……」

「あまり上げすぎては、腰を痛めることになります。苦しいところで教えてください」

「うぅ……もう無理です!」


 地面から十センチ上げたところでギブアップするクララ。


「……柔軟性も問題ですね。お風呂上がりに、柔軟もしておきましょう」

「はい……」

「では、こちらも腹筋と同じ回数やりましょう」


 クララは苦しみながらも背筋を腹筋と同じ回数やっていく。腹筋に続き、背筋をやったクララは、マットの上で力なく横になっていた。


「クララさん、まだ腕立てが残っています」

「腕立ては無理です!!」

「でしょうね」


 涙目で訴えるクララに、リリンは頷きながらそう言った。腹筋、背筋と見ていって、腕立ては出来ると思う方が、無理がある。


「ですが、やって貰います。まずは、普通にやってみましょう。どのくらい上がるのか見てみないといけませんから」

「分かりました」


 言われたとおりに、クララは腕立てを始めようとする。しかし、一ミリも上がらない。


「では、膝を突いて腕立てをしましょう」

「ふぬぬぬぬぬ……!!」


 膝を突いた状態での腕立ても三回がようやくだった。腕立てが終わったクララは、うつ伏せで倒れていた。だが、ここに、リリンに追い打ちされてしまう。


「これを二セットやりましょう」

「……死んじゃう」

「死にません。そうならないように、私がいますから。では、やりますよ」

「ひぃ~~!!」


 クララは頑張って、今やった事を、もう一度繰り返した。その後のクララは、マットの上で生ける屍となっていた。体力の限界というよりも、筋肉の限界と言った方が良いだろう。とにかく、もう一歩も動きたくなかったのだ。


「クララさん。そのまま寝てしまっては風邪を引いてしまいます。汗を流しに、お風呂に向かいますよ」

「もう動けません……」

「明日は演習場での運動です。今日よりも体力的に消耗しますよ」

「うへぇ……」


 リリンはそう言いながら、クララを持ち上げてお姫様抱っこをする。そして、浴場まで移動して、クララの汗を流した。いつも通り、リリンに抱えられながらの入浴を済ませると、またマットの上に座っていた。


「では、柔軟をしていきましょう」

「はい」


 筋トレに比べれば、柔軟の方がマシだと思っているクララは、少しだけ元気を取り戻していた。だが、それも間違いだった。


「痛い! 痛い! 痛い!」

「硬いですね……」


 リリンが思っていたよりも、クララの身体は硬く、ストレッチも満足に出来ないのだ。


「取りあえず、痛いところで教えてください。その手前までのところで、保持しましょう」

「わ、分かりました!!」


 一通りのストレッチを済ませた後のクララも疲れ切っていた。


「はぁ……やっぱり、運動は嫌いです……」

「どちらもクララさんの健康に重要なものです。ストレッチをやっていけば、怪我をする可能性も減らす事が出来ます」

「なるほど……嫌ですけど……頑張ります……」

「はい。頑張りましょう。明日に筋肉痛を残さないためにも、マッサージもしましょう。そのままマットに寝そべってください」


 クララが言われたとおりに寝そべると、リリンは、その横に腰を下ろして、マッサージを始める。


「ああ……痛気持ちいいです……」

「それは良かったです。念のため、マッサージの仕方などを習っておいて正解でした。前まで知っていたのは、ちょっとあっち系のものでしたし」

「……本当に、習って頂けて良かったです」


 そのままマッサージを受けたクララは、いつも通りの薬作りを熟した。その日、ベッドに横になってリリンと分かれたクララは、寝る寸前に今日みたいな事が毎日続くんだなと思い出し、若干絶望した。

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