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攫われた聖女~魔族って、本当に悪なの?~  作者: 月輪林檎
何も知らない聖女

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薬作り(2)

改稿しました(2022年6月6日)

 次にクララが毟った薬草は、エンジ草と呼ばれるものだった。この薬草には、傷を塞ぐ効果がある。ただし、草のままだと、その効果はかなり弱い。


「これは、軟膏にしないと。だから、まずは、精油? っていうのを作るんだよね」


 クララは、エンジ草の葉を持って、蒸留釜がある場所に向かう。蒸留釜は、少し大きなものなので、薬室の端の方に設置されていた。


「えっと……蒸留釜に水を張って、その上の網にエンジ草を並べておく。その後は……冷却器に水を流し続ける。これで、葉っぱの精油が揮発して、この冷却器で液体に戻る。液体に戻ったものの上部が精油で、下のが芳香蒸留水っていうのなんだ。このうちの精油を取り出せば良いんだよね。よし! やってみよう!!」


 クララは、メモを見ながら、蒸留釜の準備を進めていく。蒸留器の底に水を張り、その上に網を敷く。網は、水面よりも三センチ程上に敷かれる。網の下に足があるため、このように設置することが出来る。

 次に、冷却器に繋がっている水道の栓を開いて、水を流していく。こういった水道設備も人族領にはないものだった。

 最後に、蒸留器の下にある加熱器のスイッチを入れる。これで、精油を取り出すことが出来る。この様な方法を、水蒸気蒸留法と呼ぶ。

 これらは、全部、魔王城にあった薬学書に書いてあった事だ。


「あっ、出て来た」


 少し待っていると、冷却器の出口から少しずつ精油と芳香蒸留水が出て来た。クララは、それらが容器に溜まるまでの待機時間で、鍋でお湯を沸かし、ベースとなる蜜蝋も用意していく。


「もう大丈夫かな?」


 クララが蒸留された精油を見てみると、精油と芳香蒸留水の二層が器に出来ていた。まだ精油や芳香蒸留水が出ているので、器を取りはしないが、上層に分かれている精油を掬う。


「このくらい掬えたら良いかな。これを蜜蝋と合わせて、湯煎に掛ける。大体、蜜蝋が一の精油が四くらい。蝋の量が軟膏の硬さに影響するから、少しずつ調整していかないと。こればかりは、何度も試行していく必要がありそう」


 クララは、湯煎に掛けた精油と蜜蝋を合わせたものを、アルコールで消毒した容器に入れて、一度鑑定で中身を確認してから、冷蔵庫に入れて冷やす。この冷蔵庫は、魔力を保有する魔石と呼ばれるものを原動力に、中身を冷やしている。


「消毒液と傷薬は、多分問題なく作れる。一応、何回か作って、作り方や器具の使い方を見ないでも作れるようにしよう」


 それからクララは、消毒薬を五つと傷薬を三つ作った。そんな中で、クララの視線が、ライナーから説明を受けた魔力注入器に注がれる。


「これって、本当に薬とかに使えないのかな?」


 クララは、初めて魔力注入器を見たときから、使ってみたいと思っていたので、興味本位で消毒薬を乗せた。


「えっと……この部分に手を当てて、魔力を流し込むんだよね」


 クララは、魔力注入器の側面に手を当てて、魔力を流し込む。すると、中央にある魔法陣が金色に光り始め、四隅の柱にも同様の光が纏わり付き始めた。


「綺麗……」


 そんな風に思っていると、金色の光が消毒薬に集まり始める。消毒薬が、仄かに輝き始める。そのまま魔力を込め続けると、消毒薬を入れている瓶に罅が入る。


「へ?」


 魔力を込めるのを止めれば良かったのだが、突然の事で、クララは反応が遅れてしまった。目の前で消毒薬が弾ける。


「きゃっ!?」


 消毒薬とガラスの破片が飛び散る。クララは驚いて呆然としてしまう。そこに、クララの部屋を掃除していたリリンが、飛び込んできた。


「何の音ですか!?」

「あっ、えっと……実は、魔力注入器を使って消毒薬に魔力を注入していたら、爆発してしまったんです」

「薬に魔力を……? 魔力注入器で爆発が起こるなんて、聞いた事がありませんね。聖女の魔力によるものでしょうか……まぁ、そのような事は、どうでもいいです。お怪我はありませんか?」

「あっ、はい。大丈夫です」


 クララは、自分の身体を見下ろしてから、そう返事をする。クララの身体には、傷一つ付いていない。身体のどこかが痛いというわけでも無いので、怪我はしていないで合っているだろう。


「はぁ……薬作りは、しばらく、私の監視の下にやってもらいます。いいですね?」

「あっ、はい。分かりました」


 リリンは、クララを一人で薬室に置いておくと、いずれ怪我をしそうだと思い、クララが薬室にいる間は、クララを見守る事にした。クララも自分で怪我をしそうだと思い、素直に頷いていた。


「今日は、いかがなさいますか?」

「もう終わりにしておきます。後は、片付けるだけなので、お掃除に戻っても大丈夫ですよ?」

「いえ、こちらも一段落は付いているので、お手伝いします。取りあえず、ガラスの片付けは、私がやります。他のご自分で片付けた方が良いものをお願いします」

「はい」


 クララは、自分で使った器具を洗いつつ、元あった場所に仕舞っていく。


「どうでしょうか。薬室の器具は、うまくお使い出来そうでしょうか?」

「そうですね。魔力注入器以外は……」


 クララが、苦笑いでそう言う。


「そうですね。取りあえず、何度か使って慣れていきましょう」


 リリンは、そう言って微笑んだ。慣れない器具を使っているので、失敗は仕方のない事だ。それを頭ごなしに叱ると、クララの成長の余地がなくなってしまう可能性があると考えたリリンは、優しく接する事にしたのだった。とはいえ、あまりに危険な事をするようであれば、叱る気ではいる。


「消毒薬が四つに、傷薬が三つですか。慣れていけば、もっと最適化して作れるでしょう」

「そうですね。やり方は覚えたので、もっと早く作れると思います。分量の比率もある程度把握しましたし」


 今回の調合で、クララは手応えを感じていた。初めて使う器具も、何とか使う事が出来たからだ。そのおかげで、今までで一番出来の良い薬を作ることも出来た。魔力注入器では失敗してしまったが、時間を掛ければ、それも使える様になるだろうと考えていた。

 薬室を片付け終わったクララ達は、クララの部屋に戻った。


「楽しかったですか?」

「はい! 今まで使った事が無いものも使えましたし、凄く楽しかったです!」

「そうですか。良かったですね」


 満面の笑みでそう言ったクララを、リリンが優しく微笑みながら頭を撫でた。


「そろそろ夕飯のお時間ですね。取りに行って参りますので、少々お待ちください」

「はい。分かりました」


 リリンが、夕飯を取りに行っている間も、クララは薬学書で勉強を続ける。夕飯を食べた後は、お風呂に向かう。

あれから、毎日お風呂に入っているのだが、クララは一向に湯船に慣れなかった。腹まで水面があるので、少し怖いのだ。そして、この湯船は、場所によっては、リリンが沈む程の深さの場所もあるので、深さを把握していなければ、簡単に沈んでしまう。

 そのため、いつもリリンに抱えられながら浸かる事になっていた。一度だけ、リリンから離れてみた事もあるのだが、この世の終わりを見ているのではないかと思うくらい不安そうな顔をしたので、すぐにリリンが抱き上げた。


 クララがお風呂に慣れるときは来るのだろうか……

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― 新着の感想 ―
[良い点] 彼女が学んでいるのを見てうれしいです。 しかし、なぜ人間の技術がそれほどひどく停滞しているのかについても興味があります。
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