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式後の宴

 ウェディングドレスを脱いで、普段の服に着替えたクララは、大きく伸びをした。


「あら、ドレスが窮屈だった?」

「いえ、動きにくさとかもなくて、全然そんな感じはしませんでした。でも、やっぱり普段の服だと落ち着きます」

「まぁ、そうね。普段は、ドレスなんて着る機会はないもの。それにしても、結婚式は良いわね。クララちゃん達が幸せになるんだなって気がしたわ」

「私も幸せになれそうって思いました!」

「ああ、もう! ほんっとうに可愛い子ね!」


 カタリナはそう言って、クララを抱きしめながら、頬擦りする。そこにリリン、サーファ、マーガレット、ユーリーが合流した。


「わぁ……本当にお母さんに愛されてるなぁ」

「昔を思い出す」


 そんな二人の会話で、四人が来た事に気付いたカタリナは、クララを抱き上げて、リリンに渡す。


「それじゃあ、宴の準備をしてくるわ。一時間もしない内に終わるだろうから、盛っちゃダメよ」


 そう言って出て行ったカタリナは、一分もしない内に戻って来て、


「あなた達も手伝うのよ!」


 と言い、マーガレットとユーリーの首根っこを掴んで連れて行った。クララ達と話ながら待つ気満々だった二人は、抵抗していたが、カタリナの膂力には勝てなかった。


「さて、少し時間もありますから、講義でもしましょうか?」

「やった! 久しぶりの講義です!」

「や、やったぁ……」


 講義をしようと言うリリンに、クララは大喜びし、サーファは絶望していた。そんな正反対の二人を見て、リリンは思わず吹き出してしまう。


「結婚しても、お二人は変わりませんね」

「リリンさんも変わってませんよ?」


 時間があるから講義をしようと言うリリンも、クララの言う通りいつもと同じだった。そう言われたリリンは、少し考えてから抱き上げているクララにキスをした。


「これはいつならしない事だと思いますよ? これから何も遠慮しないで良いですから、クララさん達にとっては、変わったと思われると思いますよ」


 リリンは、あれでもクララに遠慮してキスは控えていた。本当なら、四六時中したいと考えていたくらいだ。だが、結婚したとなれば、その枷は解かれる。これは、これからはいつでもキスをするぞという意思表示だった。

 そんな事を言われているクララを頑張れと思いながら見ていたサーファの方をリリンが見る。


「サーファもですよ?」

「えっ!?」


 自分も対象に入っている事に、サーファは驚いて固まる。


「あなたも私と結婚しているのですから、当たり前でしょう」

「その代わり、リリンさんに抱きついても文句は言われないと思いますよ?」


 それを聞いて、サーファの眼の色が変わる。


「まぁ、そうですね。私もそれは受け入れましょう。どうぞ」


 リリンはクララを降ろして、両手を広げる。そこにサーファが抱きついた。


「こうして見ると、クララちゃんとは違う感触って分かります」

「そうですね。憎い程、力の差を感じます。明日は覚えておいてくださいね?」


 リリンからそう耳打ちされたサーファは、ビクッと震える。今日はクララとリリンの日だが、明日はサーファとリリンの日だからだ。


「さて、では、講義を始めますよ。サーファも準備をしなさい」

「はい……」


 それから一時間経つ直前に、カタリナが三人を迎えに来た。


「準備が出来たわ。皆も待っているから早く行くわよって、盛るなとは言ったけど、態々講義はしなくても良かったんじゃない?」

「最近は出来ていませんでしたから、この空いている時間が丁度良かったのです」

「ちゃんと勉強出来ました!」

「そう、良かったわね」


 クララの頭を撫でてそう言い、カタリナは、燃え尽きているサーファを見る。


「まぁ、出来る子と出来ない子はいるわよね。サーファも早くしなさい」

「あ、はい! すみません!」


 カタリナは、すぐに駆け寄って来たサーファの頭も撫でた。唐突に頭を撫でられたので、サーファは目を点にしていた。


「クララちゃんと結婚したんだから、サーファもリリンも私の娘同然よ」


 そう言って、カタリナは先に歩き始める。そう言われたサーファは、少し嬉しそうにしていた。

 会場に移動してきたクララ達を、ガーランド、アーマルド、サラ、アリエス、エリノラ、メイリー、ニャミー、ベルフェゴール、ライナー、その他魔族領上層部の面々がいた。

 クララ達は、皆に拍手で迎え入れられた。そして、クララ達の結婚を祝う宴が開かれた。宴は、立食形式で、自由に飲み食いしながら盛り上がっていくというものだ。クララが肉を取って食べていると、メイリーの入った水槽が載せられた台車を押してきたニャミーがやって来た。


「やっほ~、今日は呼んでくれてありがとうね」


 メイリーはクララに手を振りながらそう言った。


「あっ、メイリーさん、ニャミーさん。今日は来てくれてありがとうございます。メイリーさんも来られて良かったです」

「本当にね。まさか、あんな乗り物が本土にあるとは思わなかったわ。ちょっと怖かったもの」

「ほ、本当にびっくりしました。あ、それと、ご結婚おめでとうございます!」


 メイリーは普段通りだったが、ニャミーは、やはり緊張していた。


「クララちゃんと話してきて良いわよ。私は、リリンやサーファと話があるから」

「は、はい」


 ニャミーは、台車の取っ手から手を放して、クララの元に向かう。


「あ、あの……今日は本当にお呼び頂いてありがとうございます」

「いえいえ、一緒にお仕事をした仲なので、ニャミーさんにも来て欲しいと思ったんです。もしかしたら断られちゃうかもって思っていたので、来てくれて凄く嬉しいです」

「そ、そんなお断りするなんてとんでもないです。職場では、凄く羨ましがられました」


 ニャミーは、マリンウッドでクララに付いていた看護師なので呼ばれた事自体は不思議だと思われなかった。だが、クララの結婚式に参加出来るという事は、ものすごく羨ましがられていた。それだけ、マリンウッドでのクララの評価が高いということだ。


「あっ、大変な目に遭っていたと聞いています。本当にご無事で良かったです」

「ありがとうございます。ニャミーさんとは、またご一緒にお仕事をしたいなって思っています」

「そ、そう言って頂き光栄です。機会がありましたら、お誘いください」

「本当ですか!? じゃあ、その時はよろしくお願いします!」

「は、はい」


 ニャミーの手を掴んで上下に振るクララに、ニャミーは少し戸惑っていた。そこまで喜ばれるとは思わなかったからだ。

 そんな二人を見ながら、リリン達も話していた。


「まさか、三人で結婚するとは思わなかったわ。やったわね、サーファ」

「あ、はい。ありがとうございます」

「この子の相手は、大変だろうけど、頑張ってね」

「変な事を言わないで下さい。サーファが心配してしまうでしょう」

「あははは。まぁ、まさかリリンが先に結婚するとは思わなかったわ。可能性としては、エリノラの方があると思ったもの」

「ん? 私の名前出した?」


 ちょうど近くに来ていたエリノラは、自分の名前が聞こえて声を掛けた。


「結婚する順番の話。リリンが先になるって思った?」

「それは、思わなかったけど。リリンって、誰かを好きになりそうになかったし」

「本当にね。リリンの心を射止めたクララちゃんは、本当に凄いと思うわ」

「聖女ちゃんと会ってから、何だか表情も柔らかくなったしね。この子の学生時代の仏頂面を見せてあげたい」

「リリンさんって、そんなに仏頂面だったんですか?」

「愛想のなさなら、学年一番だったわね。ただ、真面目だし面倒見も良かったから、避けられていた事は無かったんだけど」

「本当学校の女子の人気を独り占めしていたって感じ。女子じゃなくて男子から、敵視された事もあったし」

「二人ともそのくらいにしてください。さすがに、私も恥ずかしいので」


 リリンが止めると、メイリー達は大人しく学生時代の話をやめた。怒らせたら怖い事を知っているからだ。


「さてと、いつまでも私達がここにいたら、他の人達が来にくいだろうから、向こうに行くわ。ニャミー」

「あ、はい!」

「それじゃあ、クララちゃん、またマリンウッドに来てね」


 そう言って、メイリーはニャミーの手で移動してった。


「私も付いていこうかな。じゃあ、三人とも結婚おめでとう」


 エリノラもそう言って、メイリー達に付いていった。また三人に戻ったところで、ライナーが近づいて来た。


「よう、嬢ちゃん達。結婚おめでとう」

「ありがとうございます。ライナーさん」

「そんなめでたい三人に、一つ知らせだ。例の移動手段が完成した」

「本当ですか!?」


 ライナーが言っているのは、前に器具を作って貰いに行った時に見たものだ。


「ああ、名前は魔力蒸気機関車ってのに決まった。実は、人魚族の領主さん達の輸送で使ったんだ。二人とも無事に移動出来たって事で、最後の安全確認が済んだ。だから、嬢ちゃんとの約束を果たせるぜ」

「わぁ、本当ですか!? 乗ってみたいです!」

「了解だ。嬢ちゃんが乗る前に、再度確認してぇから、一週間後で良いか?」

「良いですか!?」


 クララは、キラキラとした目で、リリンに確認を取る。


「そうですね。良いですよ」

「やった! じゃあ、一週間後にお願いします!」

「おうよ! ぜってぇ、嬢ちゃんも気に入るぜ。そんじゃ、俺はもう行くな。今日は、本当におめでとう」

「ありがとうございます!」


 ライナーは、大笑いしながら去って行った。自分達の作ったものを、クララが、ここまで喜んでくれているので、気分が良いのだ。

 そんな中、サーファはリリンの耳に口を近づける。


「本当に大丈夫ですかね? さっきメイリーさん達が怖かったって言ってましたけど」

「まぁ、大丈夫だとは思います。恐らく、遊園地にあった乗り物と同じような感じだと思いますので」

「それは……ちょっと心配はありますね」

「ええ、ですが、クララさんは喜ぶと思いますよ」

「ですね」


 遊園地でジェットコースターなどを楽しんでいたクララなら、メイリー達が怖いと言っていたものでも楽しむだろうと、二人は結論づけた。

 そんな三人の元に、今度はサラとアリエスがやってくる。


「クララ、改めて結婚おめでとう」

「お、おめでとう!」

「うん。二人ともありがとう」


 サラ達は、また少し緊張しているようだが、先程までのガッチガチな状態ではなかった。ガーランドと並ばないでいられるからという面が大きい。


「クララのドレス、凄く良かった。思わず見惚れちゃった」

「私も! クララらしさがあって良いドレスだと思った!」

「あはは、ありがとう。あれは、ユーリーさんが作ってくれたんだ。私だけじゃ無くて、リリンさんやサーファさんのもだけどね」

「全部デザインが違うと思ったら、それぞれに合わせて作られてたんだ。皆、違う場所で作ったのかと思っちゃった」


 サラは、クララ達のドレスが、それぞれ似ていないデザインだったので、同じユーリーが作ったものとは思わなかった。そして、それはアリエスも同じようで、横で首を縦に振っていた。


「ユーリーさんの凄いところだよね。私が作ろうとすると、デザインが似ているものが多くなっちゃうもん」

「そういえば、ユーリー様の服って、規則性みたいなのがなくて、いつも新鮮だった気がする」

「サ、サラさんは、ユーリー様のお洋服を買えるんですね……」

「偶にだけどね」


 高級品であるユーリーデザインの服は、アリエスには手が出せない金額なので、そこまで詳しくは知らなかった。


「そういえば、結婚しても仕事は続けるの?」

「えっ? もちろん続けるけど、なんで?」

「ほら、結婚を気に仕事を辞めて、家事に専念するってのも少なくないから」

「へぇ~、そういうのもあるんだ。私は、考えた事なかったなぁ」

「そうなんだ。まだ一緒に仕事が出来るみたいで安心した」


 サラは、結婚を機に、クララが薬室を辞める可能性を考えていた。だが、クララ自身にそのつもりは一切無かったので、少し安心していた。


「それじゃあ、私達もここで失礼するよ。私達がいると、遠慮して、他の人達が来られないだろうから」

「あっ、そ、そうですね。じゃあ、クララ、またね」

「うん。今日は来てくれてありがとう」


 サラとアリエスは揃って離れていった。

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