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薬作り

改稿しました(2022年6月6日)

 ライナーからの説明を受け終えたクララは、早速薬室を使用してみる事にした。ただメモを見返しているよりも実際に操作をしながらの方が覚えると考えたからだ。


「えっと……取りあえず、基本的な消毒薬を作ろう。まずは、薬草を選ぶところから……」


 クララは、備え付けの栽培プランターに向かう。小さなプランターだが、薬室内でも栽培できるように備え付けされていた。何を栽培するかは、クララ自身が決められるが、今はカタリナとライナーの独断で、普通の薬草が植えられている。薬草の名前は、消毒草。名前の通り、毒と成り得るもの消す効能を持つと言われている。実際、これによって傷が化膿しにくくなるので、効能としては正しい。


「あっ、でも、乾燥させた方が、効能が高いんだっけ? でも、さすがに乾燥させたものはないよね」


 クララは、沢山の引き出しが付いている棚を開けていくが、中には何もない。


「うん。やっぱり入れては無い。じゃあ、まずは乾燥させるところからかな」


 クララは、消毒草の葉をいくつか毟ると、ライナーから説明された器具の一つである乾燥機の前に立つ。


「えっと、これも魔道具なんだよね。容器に消毒草を入れて、容器ごと乾燥機の中に入れる。それで、ここに手を掛けて魔力を流す。横の光が赤から青になったら、補給完了。最後に、ここのボタンを押すと、乾燥が始まる」


 クララは、メモを見て、声に出しながら乾燥機を使用した。声に出すことで、使い方の復習も兼ねているのだ。初めて使うものなので、しっかりと使い方を頭に入れたいという考えからだった。


「乾燥をしている間に、乳鉢とかを用意して……あっ、濾過器っていうのも用意しないと。これで固体と液体に分けられて、ゴミとかも取り除けるんだよね……向こうだと、ただすり潰して水に入れるだけだったけど……」


 薬作りをしながら、クララは、人族領にいた頃を思い出していた。


「あれ? でも、お母さんが、布で濾すと良いって言っていたっけ? 今、思えば、あれが濾過って事だったんだ。やっぱり、お母さんは凄かったんだなぁ」


 クララは、濾過の仕組みが、実は母親から教わった事と同じだという事に気が付いた。人族領では、すり潰したものをただ水に入れて振るだけで出来るお手軽品と言われていた。だが、それだけでは、粗製品も良いところだったのだ。


「人族って、向上心がなさ過ぎだったんだ。目指そうと思えば、もっと上を目指せたのに。なんで、歩みを止めたんだろう……教会や国のせい? 何か、伝統やらなんやらを優先して、新しいことを認めようとしていない節はあった気もするし」


 クララが過ごしていた人族の国では、伝統などの代々受け継がれてきたものを重んじる傾向が強かった。それはそれで大事な事なのだが、そのせいで、新しいものを嫌う事も多かったのだ。下手すると、それだけで処罰を受ける事もあった。


「伝統が間違っているとも思っていないんだろうなぁ。まぁ、それで生活出来ているんだから、疑う余地もないんだろうけど」


 クララがそんな事を言っている間に、乾燥機からピーッという音がする。


「あっ、乾燥が終わった。うんうん、きちんと乾燥してる。これを乳鉢に入れて、粉々になるまで潰していく。そこに、水を少しずつ入れて混ぜる。色が水に移ったのを確認したら、濾過器に掛ける。濾過器には、濾紙? っていうのを配置しておく。ここに不純物が残って液体だけが出て来る……んだよね?」


 慣れない器具に、悪戦苦闘しつつも、一歩ずつ、丁寧に工程を重ねていく。


「濾過も終わり……これで、完成?」


 濾過されて出て来た溶液は、最初の透明な水から緑色の溶液になっていた。消毒草の成分が、水に溶けた証拠だ。


「いつも作っているやつより、澄んだ感じがする」


 クララは、薬室で初めて出来た薬を見て、目を輝かせた。人族領にいた頃は、ただすり潰して水で溶くだけの雑な薬しか作れなかったので、こうしてちゃんとした薬を作れた事が嬉しいのだ。


「出来上がりですか?」


 薬室の端っこで、椅子に座って見守っていたリリンが近づいて来た。クララが見るからに喜んでいたので、完成したと判断したからだ。


「はい! ちゃんと使えるはずです!」


 クララは満面の笑みで、リリンに消毒薬を見せる。リリンは、そんなクララに、微笑ましく感じる。そして、一つの提案をする。


「せっかくですので、鑑定でもしてみますか? 出来上がったものが、何か分かりますよ」

「鑑定……ですか? 確か、人族領でも、王城の秘宝か何かが、そんな能力を持っていました。私も、それで鑑定されたはずなので」


 人族領では、鑑定が出来るものを秘宝として扱い、普段は、あまり使われる事はない。クララが見た事あるのは、自分に対して使われた時だけだ。鑑定の能力によって、クララが聖女であると確定させるという作業があった。

 聖女と勇者は、その役目上、鑑定での確認が必須とされていた。兆候が見えた子供は、必ず鑑定を受けている。クララも他者を回復させる能力があると知られ、王城で鑑定を受けていたのだ。


「そこまで珍しいというものでもないですよ。魔族領には、各城に置いてありますし、簡易的なものであれば、市販もされています。精度で言えば、城に置いてあるものと比べものになりませんが」


 人族領では、王城にしかない貴重なものでも、魔族領ではどこの城にも置いてあり、且つ市販までされていた。これも、人族領と魔族領の違いだった。何においても、魔族は人族の上をいっていた。


「やっぱり、色々と進んでいるんですね。是非、お願いします!」

「分かりました。では、道具を持ってきます。少々お待ちください」

「はい」


 リリンは、鑑定が出来る道具を取るために、部屋から出て行った。リリンが帰ってくるまでの間、クララは出来上がった消毒薬をじっと見て過ごした。改めて自分が作ったという事を実感して、にやにやと笑っていた。ここまで品質が良いものは、人族領に居たときには作れなかったからという事もある。


「お待たせしました」


 リリンは、ルーペのようなものを手に持ってきた。


「それが、鑑定が出来る道具ですか?」

「はい。市販されている方の道具です。さすがに、精密な鑑定が出来る方は、使用申請などが必要ですので」

「そうなんですね。私が見たことがあるのは水晶型だったので、ちょっと驚きました」

「水晶型もあるにはありますが、こちらの方が使いやすいので。どうぞ、これで覗けば、その消毒薬が本当に消毒薬か分かります」


 クララは、リリンが手渡してくれた鑑定付きのルーペで作った消毒薬を覗く。


『消毒薬:傷口を洗う事に適している』


 クララが覗いたルーペに、鑑定結果が表示された。だが、表示されたのは、ルーペのレンズ部分だった。


「文字ちっちゃ!!」

「レンズの部分に表示されますから、大きな文字で見るには、大きいガラスが必要になります」

「作らないんですか? 結構不便なんじゃ……」

「ええ、鑑定結果を見るために、ルーペを用意する必要が出て来ますね。ですが、使い勝手の良さを追及すると、どうしてもそのくらいの大きさになってしまうんですよ」


 鑑定用のガラスを大きくすれば、当然文字も大きく表示できる。しかし、それにはかなりの大きさが必要となる。そうすると、持ち運びが難しくなってしまう。利便性を優先すると、必然的にルーペや水晶玉などの手に持ちやすいものになってしまうのだった。


「専用の鑑定部屋を用意はしていますが、そもそも鑑定したいものを映すという事も難しくなってしまったということもあります」

「ああ……」


 鑑定用のガラスが大きくなれば、映る範囲が広がる。全体が映っているもの全てを鑑定してしまうため、扱いが難しくなってしまったのだ。


「今、職人達がどうにか使いやすく出来ないかと、研究を続けているところです」

「使いやすくなると良いですね」

「そうですね。それよりも、どうでしたか?」

「はい。ちゃんと消毒薬でした!」

「それは良かったですね」


 嬉しそうに笑うクララの頭を、リリンが優しく撫でる。


「今日は、これで終わりますか?」

「いえ、もう少し続けようと思います」

「分かりました。私は、隣の部屋にいますので、何かあればお呼びください」

「はい!」


 リリンはクララの部屋に戻っていった。先程のドアを開通させる工程で、床が汚れてしまったからだ。

 クララは、また別の薬草の元に向かった。

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