ドレス
それから一ヶ月の時が流れた。その間にあった出来事は、まずユーリーが魔王城に来て、三人を採寸。それぞれに合うドレスをデザインし、制作した。何度か試着しているので、全員自分達のドレスがどのような感じになっているのか分かっている。
次に指輪も完成したので、カタリナが預かった。結婚式で三人に渡す手筈だ。
最後に、デズモニアの景色も若干変わった。街中に簡易的な水路が出来て、魔王城前にこの前も使った仮設の壇上が置かれている。この壇上は、前の時よりも豪華な結婚式仕様になっていた。何なら、ガーランドやカタリナの結婚式よりも豪華だった。普通であれば、不敬となるところだが、この手配をしたのがカタリナ達なので、何も問題はなかった。
クララ達も少し変わった点がある。それは、あの話し合い通り、毎日添い寝をしているという事だ。クララが対象になっている日は、クララの部屋、リリンとサーファの日は、リリンの部屋で寝ている。リリンが最年長という事もあり、基本的にはリリンに寄り添うようにクララ達が寝る。だが、三人で寝る時は、クララを真ん中にして、リリンとサーファが寄り添うようにして寝ていた。こういう事もあって、三人の仲は、前以上に良くなっていた。
そして、結婚式当日。クララ達は、それぞれの部屋でドレスに着替えていた。クララにはカタリナが、リリンにはマーガレットが、サーファにはユーリーが付いて、着替えを手伝っていた。
「やっぱりユーリーの仕事は完璧ね。クララちゃんによく似合っているわ。お姫様みたいよ」
クララのドレスは、プリンセスラインのドレスで、肌の露出は控えめになっている。要所要所で、クララの祭服を思わせるような装飾がされており、クララらしさが際立っている。
結婚式当日という事もあって、少し緊張しているクララは、返事も出来なかった。それを見て、カタリナは苦笑いをしながら、クララの頬を摘まむ。
「むっ……!?」
「顔が強張ってるわよ。私が結婚したいくらい可愛いんだから、自信持って」
「それはそれで、魔王様に申し訳ない気が……」
思わず笑ってしまったクララに、カタリナは優しく微笑む。
「ほら、笑った方が可愛い。主役って言っても。クララちゃんが緊張する必要はないのよ。段取りとかも気にしないで良いわ。クララちゃんは、ただただ幸せを噛み締めながら、皆に祝って貰いなさい」
「はい!」
「よし! じゃあ、お化粧もしちゃうから、大人しくね」
カタリナのおかげで、緊張が解れたクララは、少しウキウキとしていた。
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一方でリリンの方はというと、特に緊張した様子も無くマーガレットに着替えを手伝って貰っていた。
「態々手伝っていただきありがとうございます」
「そんな水くさいこと言わない。これからは姉妹になるんだから」
「サーファも増えて、一気に五人姉妹ですね」
クララと姉妹になったマーガレットからしたら、クララと結婚するリリンとサーファも姉妹同然となる。マーガレット的には、小さい頃から知っているリリンと、さらに近い関係になれるというのは、結構嬉しい事だった。
「本当はもっと早く五人姉妹になると思っていたけど、クララは思っていたよりも奥手だったみたいだから」
「はぁ……あまりクララさんを困らせないでください」
クララと一緒に寝ていた時に唆したと気が付いたリリンは、ジト目でマーガレットを見る。その視線を受けても、マーガレットは平然としていた。
「でも、必要な事でしょ? 人族であるクララの人生は短い。人魚族の血を飲んだからと言って、あなた達が死ぬまで生きているわけじゃないわ。あの子の人生を彩ってあげるためにも、あなた達がより近くにいた方が良いだろうってね」
「マーガレット様のお考えも分かりますが、クララさんのペースがありますので」
「まぁ、ここからは口出ししないから、安心して。まぁ、サキュバスのリリンがいれば、そんな心配ないと思うけど」
「マーガレット様。品の無い話はお控えになった方が良いかと」
「友人同士なんだから、良いじゃない。ほら、ドレスは終わったから、次は化粧をするよ。座った座った」
リリンのドレスは、スレンダーラインのドレスで、細身のリリンには良く合っていた。シンプルな装飾で、派手な印象はない。そのようなものが無くとも、それだけでリリンが元々持ち合わせている美しさが際立っていた。
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もう一方で、サーファは、別の意味で緊張していた。それは、態々ユーリーに着替えを手伝って貰っているからだった。
「うん。サーファは、身体のラインを強調した方が似合う」
サーファのドレスは、サーファの豊満な身体を強調したマーメイドラインのドレスになっている。
「そ、そうですか?」
「うん。私にはないものがあるから……」
サーファの周囲が一気に暗い雰囲気になる。ユーリーが、自分の体型とは正反対のサーファの体型を見て、落ち込んでいるからだった。年齢的に考えると、ユーリーが今後成長する可能性は低いと思われる。それ故に、余計に落ち込んでいた。
「クララもいつか私を越すのかな……」
「ど、どうでしょうか? クララちゃんも成長期に入っていますが、背の高さ以外は、あまり変わっていませんし」
「それを祈る。着付けは終わり。次は化粧」
「あ、はい」
着付けになれているためか、カタリナやマーガレットよりも早かった。
「クララもリリンもだけど、顔が整っているから、化粧も最低限にする」
「よろしくお願いします」
ユーリーは化粧品を取り出して、丁寧に施していく。
「サーファもクララと一緒になってくれて良かった」
「えっ?」
唐突にユーリーにそう言われたので、サーファは目だけでユーリーを見る。
「サーファは、リリンやクララに遠慮しそうに思ったから、もしかしたらって思ってた。でも、三人で一緒になってくれて良かった」
「多分、一年前だったら、リリンさんに遠慮して、断っていたかもしれません。でも、クララちゃんとリリンさんが昏睡状態になって、ようやくクララちゃんだけじゃなくて、リリンさんも同じように好きになっているって気付いたんです」
これは、サーファの本心からの言葉だった。初めて家族以外で、毎日一日中一緒にいるようになり、段々とリリンに惹かれている自分がいた事に、その時気付いた。これがあったからこそ、クララからの三人での求婚を受けたのだ。
「そう。クララは言うまでもないけど、リリンもとても良い子だから、仲良くしてあげて。サキュバスだから、夜が大変かもだけど」
「は、はい!」
そういう意味の夜という言葉を聞いたサーファの顔が赤くなるのを見て、
(この子……大丈夫かな……? リリンに優しくするように言っておいた方が良いかも……)
と、ユーリーは心配になった。