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提案

 リリンとサーファに告白し、良い返事を貰えたクララは、ご機嫌に絵を描いていた。その姿を見ていたサーファの元に、飲み物を持ってきたリリンが近づく。


「どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

「さて、これからどうしましょうか」

「結婚となると、式は挙げた方が良いですよね? でも、どういう方式になるんでしょうか? 犬族の結婚式はドレス着てキスをするだけなんですが」

「サキュバスやインキュバスに関しては、結婚式自体挙げませんね。場合によっては、十回以上も結婚式を行わないといけなくなってしまいますから」

「ああ、なるほど……人族の結婚式は、何をするんでしょうか?」

「そこまでは、私も分かりませんね。クララさん、人族の結婚式では、どのような事をするのでしょうか?」


 そう言われて、クララは紙から顔を上げる。


「えっと……指輪の交換とかって聞いた事があります。詳しくは分かりませんが」


 結婚自体に興味を持つ前に色々とあったので、詳しく調べる事はなかった。なので、クララは、人族の結婚式については全然知らなかった。


「話は聞かせて貰ったわ!?」


 そんな事を言いながら入ってきたのは、先程クララの部屋を覗き、執務室に帰ったはずのカタリナだった。大声での突然の訪問にクララは驚いて、肩を跳ね上げさせていた。リリンとサーファは、特に驚いた様子も無い。二人とも先程カタリナが覗いていた事に気が付いていたからだ。

 カタリナなら、どこかのタイミングで乱入してくるという事もお見通しだった。


「えっと……」

「ああ、求婚しているところも覗いていたから知っているわ。皆が悩んでいるのは、結婚式の事でしょ? 色々と調べたわ。式の方法は、魔族の基本方式に人族の指輪交換を合わせるのはどうかしら?」

「魔族の基本的な結婚式は、どんな感じなんですか?」

「基本的に、犬族のものと同じよ。親類や友人を呼んで、皆の前で永遠の誓いを立てるのよ。今回は、この前の宴で使った仮設の高台を用いて、街の皆に祝って貰うわ」

「うぇ!?」


 親類や友人と言ったので、カタリナ達やサラ達を呼ぶ形かと思っていたクララは、街にいる魔族達が参列すると聞いて、目を剥いていた。


「この前の宴で分かったと思うけど、クララちゃんの人気って、結構凄いのよね。それもクララちゃんの努力の成果なんだけど。まぁ、クララちゃんが結婚するって聞いたら、祝いたいって声が沢山届くだろうから、先にこうしておくのが楽なのよ」

「ものすごく恥ずかしいんですが……」

「分かるわ。私も魔王妃として、民の前で結婚式をしたもの。でも、結構嬉しいものよ」


 それを聞いて、クララはかなり迷う。小さい結婚式でも良いとは思うが、皆から祝われるのが嬉しくないと言ったら嘘になってしまう。自分だけの問題では無いので、リリンとサーファの事を見る。


「クララさんがやりたいのでしたら、私は構いませんよ」

「うん。私もクララちゃんを尊重するよ」


 二人は、クララがどういう選択をしても構わないと言う。どうでも良いと思っているのではなく、クララがやりたいというであれば、それを尊重したいと考えているだけだ。


「えっと……じゃあ、街の皆から、そういう声が上がったらやりたいです」

「分かったわ。早速触れを出すわね。それと他の街から結婚式に呼びたい人はいる?」

「えっと、マーガレットさんとユーリーさんとメイリーさんとニャミーさんに来てもらいたいです」

「ニャミー? ああ、マリンウッドで世話になった看護師だったかしら?」

「その通りです」


 カタリナの確認にリリンが答える。ニャミーに関しては、実際に知らないものの、リリンからの報告で名前だけ聞いた事があったのだ。


「分かったわ。ニャミーに関しては、メイリーに手紙を出せば良さそうね。マーガレットとユーリーに関しては、呼ばなかったら、一生恨まれそうだから、既に手紙を出しておいたわ。後は、サラとアリエスね。別席はこれくらいで十分そうね」

「何だか、友達が少ないって感じがします……」

「そうでもないわよ。こっちに来て、まだ一年だし、しばらくは私達の指示で軟禁状態だったわけだしね。取り敢えず、ドレスに関しては、ユーリーが来てから考えるとして、三人には、指輪の用意をしてもらうわ」

「指輪……でも、三人で指輪の交換って、どうすれば良いんでしょうか? 二人分ずつ買うのか、一人分を回すのかで変わってくると思うんですが」

「そうね……クララちゃんを中心とした結婚だし、二人はクララちゃんに、クララちゃんは二人にって、形が良いかもしれないわね。クララちゃんの負担が大きいけど」


 クララが二人に求婚しているので、クララが中心の結婚と捉えられるのは当然だった。クララは、それでも良いのかと思い、リリンとサーファを見る。


「クララさんが二つ用意するというのであれば、私達も互いに送りましょう。クララさんとの結婚というよりも、三人での結婚ですから」

「わ、私もそれが良いです」

「それなら、皆で一つの指輪に揃えたいです」

「互いにプレゼントってよりも、お揃いの指輪で一緒になったって事を示すのね。分かったわ。それじゃあ、皆で指輪を買ってくる事。買ったものは、私が預かって当日渡すわ。式は全員が集まりやすいであろう一月後にするから、それまでに決めなさい。それじゃあ、私は忙しくなるから、もう行くわね」


 そう言って、カタリナは忙しそうに駆けだして行った。


「私達よりも、カタリナさんが張り切っている気がします」

「それだけ嬉しいという事でしょう」

「喜んでくれるのは、私も嬉しいですけど、街の皆から声が出ないとやらないって事だったんですが……」

「カタリナ様は、声が出ると確信していらっしゃるようですね。かくいう私も同じように考えています」

「クララちゃんは大人気だからね。結婚ってなったら、皆、祝いたいって思うと思うよ」


 リリンもサーファもカタリナ同様、街の皆が望むと考えていた。さすがに、結婚式まではないだろうと思っているのは、クララだけだった。


────────────────────────


 クララの部屋から執務室に帰ったカタリナは、メイリーに手紙を書く。


「そういえば、メイリーがここまで来るのは、厳しいわよね……」


 人魚族であるメイリーが、水路のないデズモニアに来るのは、かなり厳しい。それが理由で、クララの歓迎パーティーにも欠席したくらいだからだ。


「いや……あれがあるわね!」


 どうしたものかと考えていたカタリナは、天啓を得たりといった風に立ち上がって、執務室を出て行った……と思いきや、すぐに部屋に戻って来て、メイドに


「これを触れとして出しておいて。大事なものだから」


 と言って、再び出て行った。


「か、かしこまりました」


 メイドはそう言いながら、渡された紙を見る。そこには、クララが結婚するため、その式を前の宴のように開きたいという旨が書かれていた。住人の賛成が、式を開けるかどうかを左右するという大事な事も書かれていた。


「……これ、魔王様に許可は取っているのでしょうか……」


 メイドは、少し心配になりつつも、カタリナの命令なので、すぐに掲示板に貼り出しに向かった。

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