尋問
それからしばらくして、クララはとある街に呼ばれていた。クララの表情は、少し暗い。その理由は、その街に呼ばれた理由にあった。
「クララちゃん、大丈夫?」
サーファが心配して声を掛ける。
「はい。大丈夫です。寧ろ、私で力になれるか分からないので、そっちの方が心配です」
「元仲間とはいえ、向こうはクララちゃんを捨てたわけだしね」
そう。クララが呼ばれた理由は、バネッサ達の尋問に同席して欲しいと言われたからだ。バネッサ達は、未だに黙秘を貫いていた。さすがに、人族に不利なるような事を、すぐに話す程愛国心がないわけじゃないようだった。
そうして、三人が掴まっている牢獄に着いた。入口では、ベルフェゴールが待っていた。
「変態紳士さん?」
「ほっほっほっ、お久しぶりですな。態々ご足労して頂いて申し訳ありません。中々強情ですので、聖女殿にもご協力頂きたいのです」
「でも、私、嫌われていましたから、話を聞けるか分かりませんよ?」
「ダメで元々ですので、お気になさらず。こちらへどうぞ」
クララ達は、ベルフェゴールに付いていく。ベルフェゴールの後ろを歩いている時、クララは一つ気になった事があった
「変態紳士さんは、大丈夫なんですか?」
ベルフェゴールもリリン同様に聖剣で斬られている。それでも、こうして平然としているので、もう治っているのかと思ったのだ。
「本調子ではありませんが、動く分には問題ございません。ただ、申し訳ありませんが、講義に関しては、お時間を頂く事になるやもしれません」
「あ、はい。そこは気にしないで下さい。色々とお忙しいですし、そちらが片付いて体調が戻ってからで構いません」
「お気遣い痛み入ります」
そんな会話をしていると、ある部屋に通されたそこには、バネッサとメラーラ、ネリが椅子に縛られていた。メラーラは詠唱が出来ないように口に布を噛まされている。メラーラは、無詠唱魔法が使えないので、これが一番の対処法だった。。
「クララか。お前が来たところで、私達は何も話さないぞ」
「話さないじゃなくて、何も知らないんじゃないの?」
クララは、サーファが引いてくれた椅子に座りながらそう言う。すると、バネッサが分かりやすく動揺した。
「やっぱりね。あなた達は、勇者の仲間ってだけで、国王や教会から、情報を得られているわけじゃない。そもそも国王や教会が何を考えているのか考えた事もないでしょ?」
「何が言いたい……」
「そのままだよ。ただ魔族を殺せと言われたから、殺していただけなんでしょ? 向こうが、それからどうするかは知らない。知ろうともしなかった。だから、あんな屑共に利用されるだけされるんだよ」
クララがそう言うと、噛み付いてきたのはバネッサでは無くネリだった。
「あなたは、聖女なのではないのですか!? 神に導かれる教会の人間で有りながら、教会だけでなく国王陛下への侮辱など許されるものではありませんよ!」
「へぇ~、教会の信者なんだ。いつから?」
「私が神の御心に導かれたのは、今から四年前の事です」
「じゃあ、相手にされないから、何も知らないのも頷けるか。いや、そもそもあなたが上層部に会うことなんて出来るはずもないか」
クララが何を言っているのか理解出来ず、ネリは眉を寄せていた。ネリは、クララよりも四つ以上、上の年齢だ。つまり、四年前でも今のクララより上となる。
「私が教会に攫われたのが、十一歳。聖女としてのあれこれを教えられている時に、枢機卿や他の司祭は、しつこく私の身体を触ってきた。なるべくさりげなく触っていたつもりなんだろうけど、胸やら太腿を触ってくるから、私は嫌がった。でも、大人の力と子供の力じゃ抵抗なんて無駄に決まっていた。ここまで言えば、全部理解出来るよね? 良かったね。子供の時に入信しないで」
「う、嘘です……」
「本当の事だよ。だから、皆に捨てられてから、教会に戻りたくなんてなかった。それに故郷も教会に焼かれてるから、帰る場所なんてないし、こっちにいた方が良いってわけ。分かった?」
ネリは、青い顔をして俯く。クララの言っている事を全部信じられているわけじゃないが、嘘だとも思い切れなかった。それだけクララの言っている事が具体的だったからだ。
「ん~っ!! ん~っ!!」
メラーラが唸って主張する。それを受けて、ベルフェゴールが布を外す。
「クララ、あんたの故郷が焼かれたって本当なの?」
「本当だよ。遺体も見てるから」
「……」
メラーラも黙り込む。ここでクララが嘘をついていないとは言い切れないが、クララの表情などを見ていると、本当の事だと思ってしまった。
「取り敢えず、この人達は何も知らないみたいです」
「左様ですか。無駄骨を折らせてしまい申し訳ございません」
「いえ、気にしないで下さい。何も知らない事を知れただけでも収穫だとは思います」
「そうですな」
これ以上話しても仕方ないと判断して、クララは立ち上がる。
「ま、待て!」
バネッサがクララを呼び止める。
「何? 知っている事でもあるの?」
「い、いや……このまま、私達をここに残して帰るつもりなのか……?」
バネッサは、縋るような視線で、クララを見ていた。クララは、そんなバネッサを冷ややかな目で見る。
「私を捨てた人が言う事?」
クララはそう言って、部屋を出て行った。その後にサーファが続いていき、クララを抱き上げる。
「大丈夫?」
サーファは、クララを心配してそう声を掛ける。
「大丈夫ですよ。ああいう人達だって事は知っていましたから。でも、このまま生かして帰すんでしょうか?」
「ええ、そのまま帰すつもりですよ」
クララ達の背後でベルフェゴールがそう言った。ベルフェゴールは、メラーラにまた布を噛ませて、魔法の詠唱を封じてから出て来たのだ。
「あっ、そうなんですか?」
「ええ。ここで殺してしまえば、また禍根を生むことになりますので」
「ああ、それもそうですね」
クララはそう言いながら、少しだけ安堵している自分に気が付く。嫌いな人達で殺されても文句など言えないような奴等とはいえ、知っている人が殺されるというのは、嫌だという気持ちが強いのだ。
「本日はご協力頂きありがとうございました。また、講義の際にお目にかかりましょう」
「あ、はい。また今度」
サーファもベルフェゴールに頭を下げて、帰路の馬車に向かって行く。その間、クララはサーファの肩に頭を付けていた。大丈夫だとは言っていたが、やっぱりあまり気分の良いものでは無かったからだ。
サーファは、そんなクララの背中を優しく叩きながら、馬車まで歩いていった。
その一週間後。バネッサ達は、人族領に帰された。魔族領に囚われていたというストレスで、少しやつれていたが、それ以外の健康状態は全く問題無かった。そこら辺もベルフェゴールが配慮した結果だ。この一件があり、バネッサ達の魔族への印象が少し変わった。