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攫われた聖女~魔族って、本当に悪なの?~  作者: 月輪林檎
可愛がられる聖女

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マーガレットの美術講座(2)

 クララが絵の具選びに夢中になっている間に、リリンはマーガレットの傍に移動する。


「最初から自由にやって頂く形で大丈夫なのですか?」

「大丈夫。正直なところ、クララには凝り固まった意識を持って欲しくないの。最初からただ模写を続けるよりも、何も考えず無心で筆を走らせて、描く事の楽しさから知って欲しいってわけ。美術も芸術も本来は自由なもののはずだから」

「なるほど。そういう事ですか」


 マーガレットの話に、リリンは納得する。そんなリリンにサーファが耳打ちする。


「どういう事ですか?」


 サーファには、マーガレットの言っている事がよく分からなかったのだ。


「クララさんは、現在固定観念がない状態です。ここに美術とはこういうものだという意識を植え付けてしまえば、クララさんに固定観念植え付けられてしまう事になります。マーガレット様は、その状態を良しとはしないようです。もっと自由に美術を楽しんで欲しいとお考えのようですね」

「応用が利かなくなる可能性があるという感じですか?」

「似たようなものです」


 リリンの説明で、完全に理解したわけではないが、何となくのことは理解出来ていた。

 そんな三人が見守る先で、クララは筆に絵の具を載せ、紙に走らせていく。若干の迷いなどが見て取れるが、何か形あるものというよりも抽象的な何かを描いていた。様々な色が紙の上で交じり合う。


「出来ました」


 クララが完成を宣言した時には、紙の上に余白はなく、全てが様々な色で埋められていた。


「どうだった?」

「初めて使いましたけど、結構楽しかったです。絵の具の混ぜ具合で、色が全然違うので、これとこれを混ぜたらどうなるんだろうと気になったりしました」

「そこが絵の具の楽しさでもあるから、気に入ってくれて良かった。それじゃあ、今度はこれをやってみて」


 マーガレットはそう言って、クララを机の前の椅子に座らせる。机の上には、鉛筆で描かれた風景画が置いてあった。ただ線だけで描かれているので、影などはない。


「それに、クララが思った色を付けていって。出来るだけ現実に近い感じにしてみて」

「わ、分かりました」


 クララは、ジッと絵を見て、必要になる色を考えていく。自分が思った色を付けるという事は、朝や夜などの時間帯すらも自分で考えろという事。クララは、筆を持って、慎重に色を付け始めた。


「リリン達もやってみる?」


 ジッと見ているだけじゃつまらないだろうと気を利かせたマーガレットが訊く。


「では、サーファがやると良いでしょう」

「え!? わ、私ですか!?」

「はい」

「それじゃあ、さっきクララがやっていた事と同じ事からね」

「は、はい!」


 サーファは、マーガレットから画材を借りて、クララ同様に何も考えずにひたすら筆を走らせる。そうして、二人同時に完成した。

 サーファの絵は、緑と青が多く使われていた。その絵は、どこかの草原に見えなくもない。


「心のままに色を使ったクララと違って、サーファは無意識に草原を思い浮かべたって感じかな。好きなの?」

「はい。実家の近くに気持ちいい風が吹く平原があって、よく走っていたので」

「なるほどね」


 マーガレットは、サーファの絵をイーゼルに置いてから、クララの絵を見る。クララの絵は、少し濃いめの色が多かった。だが、空は薄い水色で描かれている。その事から、クララが描いたのが、朝の風景というのが分かる。それも、日の出直後の風景だ。


「珍しい」

「そうなんですか?」


 よく分かっていないクララは首を傾げている。


「初めてこういうのを描いてって言われたら、昼か夜になりがちだから。でも、朝方ねぇ……どうしてこの時間帯にしたの?」

「この風景が、家から見た風景に似ているなって思ったので。その時に一番好きだった風景を思い出して塗りました」

「へぇ~、いいじゃん。それじゃあ、最後にクララの好きなもの、好きな風景、好きな人、何でも良いから形あるもの描いてみて」

「わ、分かりました」


 マーガレットから真っ白な紙を渡されたクララは、少し考え込み始めた。それを見てから、今度はサーファにも真っ白な紙を渡す。


「サーファは、さっき言っていた草原を描いてみて。なるべく正確に」

「は、はい」


 紙を向き合った二人を見ながら、マーガレットはリリンの横に移動する。


「どうでしょうか?」

「結構才能あると思う。朝の風景で、ここまで色の調整が出来ているし。後は、表現の方法を色々教えていかないとって感じ。サーファは、この草原がどのくらい表現出来るかってところ。リリンはやらないの?」

「私はそのような時間はありませんので。クララさんのお世話が趣味みたいなものです」

「どんな趣味してんの」

「楽しいですよ?」

「でしょうね」


 そんな話ながら、リリンとマーガレットは、クララとサーファが絵を描き終わるのを待った。そうして二時間程すると、サーファの方が描き上げた。


「出来ました」


 サーファは、出来上がった絵をマーガレットに手渡す。そこには、柔らかな陽光が降り注ぐ草原の絵があった。細い筆を使って草の一つ一つを丁寧に表現している。


「意外と細かい作業が出来るのね。うん。暖かくて涼しい草原って感じが良く表現されてる。良い絵だと思う」

「ありがとうございます」

「さて、クララの方はどうかな?」

「出来ました!」


 マーガレットが声を掛けたのと同時に、クララの絵が完成した。


「どれどれ」


 クララから絵を受け取ったマーガレットは、思わず口角が上がった。


「あははは! そういう事。良いじゃん。とても良い絵だと思う」


 マーガレットはそう言いながら、クララの絵をリリンに渡す。サーファもリリンの後ろから絵を覗き込んだ。そこには、拙い筆使いで描いたクララとリリン、サーファの三人の姿があった。


「私達ですか」

「わぁ、ちゃんと特徴が描かれてる。クララちゃん、凄い!」


 褒められたクララは、嬉しそうに笑う。


「これを目標にするか」

「目標ですか?」

「そう。私が帰るまでに、リリンとサーファの絵を描く。勿論私が合格を上げられるようなね。厳しい目で見れば、今回の絵は不合格ってところ」

「なるほど……わ、分かりました! 頑張ります! ところで、お二人って、どのくらいこっちにいるんですか?」


 二人が元の街に戻るまでの話だったが、そもそもいつ帰るのか訊いていない事に気付いたクララが訊く。


「二、三ヶ月かな」

「えっ!?」

「やっぱ短いか。本当は一年くらいいようかと思ってたんだけど、四ヶ月後に展示会があるから、帰らないといけないの。ごめんね」

「あ、えっ?」


 色々と情報が詰め込まれているため、クララは困惑していた。そこにリリンが耳打ちをする。


「長命の魔族の中には、時間の感覚がズレている方もいます。マーガレット様やユーリー様も少しズレていますので、覚えておいてください。実際、二、三ヶ月はそこそこ長い休みです。場合によっては、何ヶ月も休み無しという事もある仕事をしていますので、そのせいもあります」

「そうなんですか?」

「展示会の種類によりますが、マーガレット様だけの作品を展示する事もあります。そうなれば、作品を多く作らなければいけませんので、そうなってしまうのです。ユーリー様も同様に服の展示会などがあります。ですが、ユーリー様の場合、季節に合わせた服を多く用意するためというのもあります。加えて、これはお二人共通ですが、いつもいつも作品のアイデアが出る訳ではありません。何ヶ月も悩む事もあるのです」

「へぇ~……やっぱり大変なんですね」

「大変じゃない仕事などありませんよ」


 クララ達がそんな話をしている間、マーガレットは、クララの絵を額縁に入れていた。


「さてと、ちょっと遅いけど、お昼を食べて、彫刻をやるか」

「では、クララさんは部屋に戻りましょう。サーファ、付いていってください」

「はい」

「私もクララの部屋で食べようかな。一人だと寂しいし」


 四人は揃ってお昼を食べて、もう一度マーガレットの部屋に戻っていった。

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