雑貨屋「夜露堂」 #3
ああ、こら。狭い所で走り回るんじゃありません。おとなしくしないと、おやつ抜きにしてしまいますよ。まったく。
……おや、いらっしゃい。今日も素敵な雨の日ですね。三度あなたに会えるとは……いやぁ、嬉しいものですねぇ。
ところで、今日はどういった御用でいらっしゃったのでしょう? いえ、素敵な傘を持っていらっしゃるので、今回は雨宿りではないのでしょうが……やっぱりお買い物ですかね? うちは雑貨屋ですので。
でも、もし、私とおしゃべりするために来てくださったのなら、とっても嬉しいなぁ。なんて、思ってしまうのです。
……フフ、そうでしたか。いえいえ、ここに来る理由なんてなんだっていいのですよ。どんな理由でも、大切なご縁ですから。
さぁさぁ、せっかくいらしたのです。今日もゆっくりしていってくださいな。飲み物をお出ししましょう。何がいいですか? ……わかりました。すぐに用意しますね。
それにしても、今日は一段と素敵な雨の日ですねぇ。わからない、ですか。それは残念です。あなたはなかなか頑固な人ですねぇ。私はそう思います。
はい、どうぞ。今日は私もご一緒していいですか? ……ありがとうございます。では、失礼して。
これですか? これはよもぎのお茶です。ええ、ハーブティーというやつです。綺麗な色でしょう? さっき摘んだもので入れました。植物を育てるのは私の趣味でして。
味、ですか? 美味しいですよ。おや、微妙な顔をなさる。フフ、いいのです。誰だって、未知のものは恐ろしいものですから。
はぁ、子ども、ですか? ……あぁ、もしかして、外まで聞こえてしまいましたか? やんちゃなのがいまして。人見知りするので、すぐ引っ込んでしまいましたが……。いや、お恥ずかしい。
あぁ、いえ。私には子どもはいませんよ。お客さん……まぁ、そんなところです。
おやつ抜き。おや、そんなことまで聞かれてしまいましたか。この頃言うことを聞いてくれなくて、困っているんですよ。どうしたらいいのでしょう?
……罰が軽すぎる? そうでしょうか。おやつ抜きは悲しくありませんか? 全然そんなことない、ですか。そうなんですね……。私、ちょっと驚いてしまいました。
でも、それならどうすればいいのでしょう。……え? それは……ちょっと厳しすぎないですか? そんなことない? それが普通、なんですか? なるほど……気は進みませんが、一度試してみることにします。気は進みませんが……。
……それにしても、今日は本当に素敵な雨の日ですねぇ。雫をつけた紫陽花を見たくなりませんか? 実は、うちの裏にも咲いているんですよ。綺麗な蒼色の紫陽花が……。別に見たくない? ……そうですか。ちょっぴりもったいなく思えてしまいます。
今日は、いつ雨が止んでしまうのでしょう。止んでしまったら、あなたは帰ってしまいますよね。
止まなくてもそのうち帰る、ですか。フフ、それもそうですね。
それでも、時間が許す限り、私はあなたとお話ししていたいです。……なんて。
でも、あなたとのお喋りが楽しいのは、嘘ではありませんよ。
雨が降ったら、あなたはまたここに来てくれるのでしょうか。
雨の日がもっと楽しみになってしまいますね。
夜も更けに更けた時間の投稿ですが、みなさまこんにちは。夜露堂の3話目はお楽しみいただけたでしょうか。
私は雨が好きなのですが、それでも実際に降ると感傷的な気分になってしまいます。それがまたどこか心地よく、創作意欲も不思議と湧いてくるのですが、そんな時に生まれた物語達はやはり桔梗色に染まってしまいます。
それもまた気に入ってはいるのですが、肌に合わない、なんて方もいるのかもしれませんね。
とはいえ、それが私の描く物語なので、どうすることもできないのですが。
だいぶ唐突な語りが入ってしまいましたが、ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
読んでいただけるだけでも十分嬉しいのに、評価までつけてくださる方がいらっしゃって、心からありがたく思っています。創作をする者として、評価をいただけるというのはやはり嬉しいものなのだと、毎度実感しています。
読んでくださる方々のために、もっと腕を磨いてまいりますので、今後ともどうぞ宜しくお願いします。
またいつかの雨の日に、あなたに出会えることに期待を込めて。
夜露堂は、あなたのご来店をいつでも心より歓迎いたします。