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記録05 リサ嬢とメイサ嬢

 先程は、ユーレティシア嬢の激昂が“王太子殿下のお言葉を遮り”園遊会に水を差しましたが、今度はリサ嬢が“王妃陛下のお言葉を遮った”状態でございます。

 その状況に気がついたメイサ嬢は、真っ青になりながら、妹君をそっと諌めようと致しました。

「リサ、王妃陛下や王太子殿下が驚かれているわ。シュルメーナ侯爵令嬢も仰っていたでしょう。突然飛びついたりしてはいけないわ。少し落ち着いて、控室まで参りましょう?」

 そう小さめの声で言いながら、リサ嬢の肩に手をおいたのです。


 その途端、リサ嬢はメイサ嬢の手を振りほどいて、更に王太子殿下の手にしがみつきました。

「お姉様まで酷い!いつもわたくしが悪いとお小言ばかり。確かにお姉様よりも聖女の能力はございませんから、出来が悪いと謗られても仕方がないのかも知れません。でも、このようなところでそんなことを仰らなくても……!」

 そう言って、更に涙を流し始めました。

 その声は、ユーレティシア嬢ほどの声ではなくとも、王妃陛下の言葉を聞こうと静まった会場全体に、聞こえるには十分な声量です。

 メイサ嬢の気遣いも虚しく、全ての目線が集まり、白い目を向けられることとなりました。

 リサ嬢は、確かに何かしら可哀想なのかも知れません。しかし王妃陛下のお言葉を遮ることがあってはなりません。これは先程のユーレティシア嬢以上に問題視されることでございます。

「そういうことではなくてね……リサ、お願いだから周りを見て頂戴」

 状況が理解できているメイサ嬢の顔色は、真っ青を通り越して真っ白になりつつありました。


 そこまで言われても、リサ嬢はメイサ嬢の言葉を理解しようとせず、自分の利になると勘違いした言葉を続けました。

 ユーレティシア嬢を退場させることが出来た自分に酔っていたのかもしれませんし、先程のカントル伯爵がもう一度味方になってくれると思ったのかも知れません。メイサ嬢をも陥れるこれ以上ないチャンスだと感じていたのでしょう。いずれにせよ、周囲の異様な雰囲気を感じ取れなかったのだと思われます。


「お姉様がわたくしを疎んじていることは存じております。聖女としてお姉様の後を追う私がおきら」「メイサ嬢、リサ嬢。二人共体調が芳しくないようだ。控室に行くといい」


 そのように言い募るリサ嬢の言葉を遮って、状況に見かねた王太子殿下が発言なさいました。

 リサ嬢は、自分の言葉を遮られたことに驚いて、王太子殿下の顔を覗き込みましたが、殿下が笑顔を浮かべているのを見て勘違いしたらしく、嬉しそうな表情を浮かべました。


「エドワード様……お優しいのですね、リサ感激でご」「ご厚意感謝致します、王太子殿下。会の途中ではございますが、御前失礼致します。さ、リサ、一緒に控室に参りましょう」


 対してメイサ嬢は、笑顔を浮かべていても眼が笑っていない殿下に気が付き、これまたリサ嬢の言葉を遮り、両肩を掴んで、引きずってでも控室に連れて行こうとします。


「ちょっとお姉様、わたくしの言葉を遮るなんて!エドワード様に失礼で」「グラシアス、君、付き添ってあげて。それからレンドール子爵夫妻も控室に」


 王太子殿下は、リサ嬢の言葉も無視して後ろを振り返ると、控えていた護衛騎士に声を掛けてレンドール子爵姉妹を連れて行くようにと指示をだし、またレンドール子爵夫妻にも会を退室するようにと促しました。


「えっ、えっ?エドワード様?」

 理解の追いついていないリサ嬢を、メイサ嬢と護衛騎士が引きずるようにして中央庭園から出ていき、その後ろを、身を縮こませながら追いかけるレンドール子爵の姿を皆で見送ると、王太子殿下は残った方々に頭を下げて、謝罪の言葉を述べました。


「主催である王妃陛下並びに、ご参加された皆様にはお騒がせ致しましたこと、心よりお詫び申し上げます。私が至らぬためにこのような騒ぎになり、園遊会に水を差してしまったこと、大変申し訳ございません。どうか今回は私の顔に免じてお許しいただけますと幸いにございます。王太子としてもまだまだ若輩の身ではございますが、今後ともご指導のほど、よろしくお願い致します」


 王族の謝罪など、本来あってはならないことではございます。

 まして今回は、殿下が何か問題を起こしたわけではございません。

 謝罪すべきはユーレティシア嬢とリサ嬢ということになりますし、そのご両親たちと言うことになりましょう。

 しかし、彼らは会場にもうおらず、リサ嬢に至っては、状況を理解しきれていない状態。

 王妃陛下主催の園遊会を荒らした諍いの根本は、王太子殿下の婚約者候補たちなのですから、王太子殿下の謝罪でことを収めよう、と考えられたのだと思われます。

 成人してまだ一年、十六歳になったばかりの少年が、なんとも素晴らしい立ち回りではございませんか。

 わたくしは、同じ年頃の貴族子女に、このような行動が出来るとはとても思えません。たとえb(関係の無い内容のため、省略)



 王妃陛下は、王太子殿下の言葉を受けて園遊会を再開、その後王太子殿下は、側近方と共に園遊会を抜けられ、国王陛下へのご報告とその後の打ち合わせに向かわれました。

 その際に、メイサ嬢の体調を慮って宮殿医を控室に向かわせたご配慮も、素晴らしい対応と言えましょう。


 控室で会話された内容の詳細は、わたくしは存じ上げません。

 これにつきましては宰相閣下が付き添われたはずですし、なんでしたら書記官殿も同行していたのでは?

 ああ、もうそちらの調書は仕上がっているのですね。

 それではわたくしが申し上げることはこれ以上ございません。


 御存知の通り、後日にユーレティシア嬢もメイサ嬢も婚約者候補をご辞退なされ、他のご令嬢たちも選外であったと伝えられました。

 そうそう、そう言えばリサ嬢は、聖女の位も剥奪され、修道院に入れられることになったと風の噂で聞きました。

 甘やかしていた子爵夫人も見放したそうですが、そもそも子爵夫人の立ち回りにも問題があったご様子で、離婚の危機が訪れているとかなんとか?

 因果応報でございますね。


 さて、以上にございます。

 聞き取りご苦労様でしたね。

 この後も政務にお励みなさませ。

これにて女官長の語り部分は終了となります。

書記官お二人、お疲れさまでした。

ここまでお読みくださった方もありがとうございます。


ラスト一話ございます。

王太子殿下のために、最後までお付き合いいただけると幸いです。

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