記録01 事の始まり
これは私、女官長サマンサ・ベルティバの記憶に基づく公式記録でございます。
我が国の王太子殿下、エドワード・フォルト・フェゼン殿下は、昨年十五歳のお誕生日に成人の儀を行われました。
それはそれは健やかにお育ちで、文武両道であり、殿方を表すには少々使う言葉が違うかもしれませんが、才色兼備でもいらっしゃいます。
陛下に良く似た金の髪に高身長、細身ながら安定した体格と穏やかな性格、王妃陛下から受け継いだ翠の瞳に白磁のような肌、中性的なお顔立ち。
幼い頃から天使のようと讃えられ愛されて育ち、そうは申しましても、殿下ご本人には我儘や傲慢な部分は欠片もなく、周囲への慈愛を忘れず思慮深く…………(数ページに渡るため、省略)
さて、その成人の儀をお済ましあそばされてから後、未だ決まらぬご婚約者様を見繕うためにと、候補者方を集めたお茶会を、毎月二、三度開催するようにと、陛下からご命令が下されました。
元々は王妃陛下の主催なさる定例茶会が月に一度、季節のお茶会などが年に数回執り行われておりましたが、それらの茶会にご婚約者候補様方を招待するようにと指示があり、加えて月に二、三回になるようにと追加調整が行われ、重要な政務が重ならなければ必ず出席するようにと、王太子殿下にお達しがあったのでございます。
期限はご婚約者様が内定なされるまで。
通常、成人されましたら夜会への参加が可能となり、婚約者探しの現場は夜会が中心となりますが、年齢的に言えば王太子殿下と同じ年頃、または年下の女性が好ましく、該当する少女達の殆どが未成年のため、お茶会を基本とした出会いの場を設けることとなったのでございます。
元々、帝王学などの座学や剣術などの実技、両陛下とご一緒の視察などを分単位でこなされていましたが、成人なさったことから実務に当たる政務も増えており、大変忙しいスケジュールとなっておりました。
そのような状況で、月に二度以上、日中に開催されるお茶会に参加なさることは、中々に大変なことでございます。
それでも、真面目で真摯な王太子殿下は、両陛下の意向を汲むべく、なるべく参加しようと努力なされていらっしゃいました。
ある日など、十三歳になられた王女殿下が、プレデビューとして初めてお茶会に参加なされることとなりました。
その日、実は熱を出されていた王太子殿下は、兄としてサポートしてあげたいと体調不良を隠されて参加なさったのです。
誰にも気づかれず、ご参加の皆様には終始笑顔でご対応されていましたが、やはり無理をしていらっしゃったのでしょう。王女殿下の側仕えである女性騎士の一人が気づいて退出を促されると、退出直後に倒れられて、わたくし共はひやりと致しました。
ご一緒に下がられた王女殿下と護衛騎士が居なければ、恐らく顔面から床に強打されていたのではと思われ、王太子殿下の美しいご尊顔に……(数ページに渡るため、省略)
回数をこなせば、離脱するご令嬢、新しく参加するご令嬢、常連化されるご令嬢と見分けがついてくるものでございます。
基本、ご招待されるご令嬢方は、伯爵家以上の家格をお持ちの方を中心に選定されておりましたが、やはりその中でもお父上の宮廷内での地位や財力がお有りのご令嬢方が残りやすく、それ以外のご令嬢は、早々に身の丈にあったご婚約者を見つけられては、お茶会への参加はされなくなって参りました。
そんな中……そう、王太子殿下のお従姉妹でもあり、筆頭公爵家ご令嬢であらせられるエリザベス・フィア・ゴルゼン様が、隣国の王太子殿下の婚約者に内定された頃でしょうか。
王太子殿下のご婚約者第一候補と目されていたエリザベス様がご候補から外れられ、それまであった勢力図が変わってしまったのでございます。
それまで、幼馴染でもあり、王家の一角を担っていらっしゃったエリザベス様が、第一候補として鎮座なされていたお陰で、ご令嬢方の争いも表面的には落ち着いたものでございました。
少なくとも王太子殿下の前で争ったり、マナー知らずな行動をなさったりするご令嬢はおられず、王太子殿下のご心労もそれ程までではございませんでしたでしょう。
それもこれも、王太子殿下のお心を理解なさっておられました、エリザベス様の働きによるものでございます。
かの方は幼い頃からお美しく、それこそ才色兼備であらせられ、王族特有の金の髪に蒼き瞳の佳人でいらっしゃいました。幼い頃から王太子殿下とお並びになると対になるお人形のようだt……(数ページに渡るため、省略)
結局のところ、一番のご候補であられたエリザベス様が、隣国の王太子などに見初められなければ、何事も問題なかったのでございましょうが、そこに国交と言う横槍が入ってしまったものですから、殿下も一から候補者を探さなくてはなりません。
こうなりますと、ご令嬢方の頭を抑えていた存在がなくなって、以前より皆様積極的に行動なさるようになり、再戦を狙うご令嬢方も増え、お茶会は混沌となって参りました。
また、お茶会以外では、個々の面会を希望しないようにとルール付けられておりましたため、代わりに王宮の開放区画に頻繁に足を運ばれるご令嬢が増え、王太子殿下の姿を少しでも目に入れようと待機されるご令嬢、偶然出会えば腕を絡ませようとするご令嬢、刺繍をさしたハンカチーフを手渡そうとするご令嬢などが現れ、ご公務のためにと移動する王太子殿下の道々に現れては、スケジュールを狂わせていくご令嬢方が多くなり、側近や侍従たちが苦労するようになっていったのでございます。
そんな中、教会からの推薦として、ある貴族家のご姉妹がご婚約者候補として、お越しになられました。
本来であれば候補から外されていたはずの子爵家ご令嬢、メイサ・レンドール子爵令嬢と、リサ・レンドール子爵令嬢でございます。
確か当時は十五歳と十三歳でいらっしゃいましたか。
お二方とも治癒魔法をお使いになられ、教会基準での第三級聖女様としてご活躍予定でいらっしゃいました。
特に姉君であるメイサ嬢は、第二級の聖女様にも匹敵するお力を持っていると将来を期待され、また、公に出ても問題のないマナーと思慮深さをお持ちと判断され、子爵家のご令嬢とは言え、強力なご婚約者候補様となられたのでございます。
物静かな方だったため、他のご令嬢方の気迫に負けてしまい、王太子殿下とのご会話が殆どなされなかったことは少々残念ではございましたが、その分聖女様らしい清楚で凛としたお姿は、成程王太子妃に推薦されるにふさわしい方だと納得しておりましたよ。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
ストーリーラストまでUPしておりますので、くどい(苦笑)女官長の語りに付き合ってもいいよ、と言う優しい方は、どうぞ宜しくお願い致します。