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普通に思春期でよくあるやつ

 むかしむかし、あるところに一人の男の子と一人の女の子が生まれました。


 奇しくも同じ病院で、数日違いで生まれた二人は、同じマンションに住むご近所さんでした。


 ご両親は階違いということで、今までニアミスしたことはあったかもしれませんが、面識を持ったのは子どもが生まれてからの事でした。


 同じ病院、同じ時期に出産した二人の母親は、自然と会話をする機会が生まれました。


「お疲れ様でした」


「そちらはどうでしたか?」


「ご主人は……」


 などと会話をしている内に、自分たちが同じマンションに住んでいることを知ります。


 同じ病院で、同じ時期に出産し、同じマンションに住んでいる。


 お互いに嫌い合う要素もなく、性格的にも問題がなかった二人は、共通点の多さもあり、自然と仲良くなって行きました。


 そうなると、二人の父親も自然と会話をする機会が生じ、お互いに嫌い合う要素もなく、性格的にも問題がなかった二人は自然と意気投合していきました。


 もう、こうなると家族ぐるみでの付き合いが発生します。


 七五三に入園式、キャンプやバーベキューなど、イベントごとが共同で開催されます。


 どうしても予定で子どもの面倒が見れないときには、相手の家に預けるなんてこともありました。


 当然、このような環境で育った二人は、一緒に行動する機会が多くなります。


 小さい頃には、一緒に手を繋いで登園するという仲のいい光景を度々目撃することができましたが、小学校の高学年にもなるとある問題が生じます。


 そう、同級生によるイジリです。


 やれ仲良しだの、やれ夫婦などとからかわれた二人の仲には、亀裂が生じてしまいました。


 男の子の方はメンタルの強さが振り切れていたので。


「別にいいじゃん。何か問題なの?」


 などと全く意に介していませんでしたが、女の子の方はそうもいきませんでした。


 いちいち同級生の発言に反応し、その反応に気を良くした一部のお調子者たちに煽られた女の子は。


「もうあたしに近寄らないでっ!」


 と男の子に言い放ってしまいました。


 男の子は突然の女の子からの拒絶に少しだけ傷つきましたが、生来の物分りの良さを発揮してしまい。


「うん、わかった」


 とあっさり承諾してしまいました。


 当然、このことは二人の両親の知るところとなりますが、そんなことは知らねぇとばかりに交流を続けます。


 何故なら、普通に親同士の仲が良かったから。


 子どもたちも、別に相手の親を嫌っているわけではなかったので、エレベーターなどで会えば、普通に挨拶する関係が続きます。


 しかし、小学校の高学年にもなると、男の子の多くはパッパラパーですが、女の子の多くは色恋に興味が出始める頃です。


 そして、この時期の男の子は足が早いとモテる。


 そう、男の子は足が速かった。


 別に学年一や学校一速いわけではなかったが、普通に注目される程度には足が速かった。


 そう、足の速い小学生男子はヒーローなのである。


 最近、近所の女の子が側からいなくなった男の子の周りには、自然と女の子が近づくようになります。


 カッコイイ男の子と話したい、好きな男の子と話したい、その程度の感情だと思います。


 え、そうだよね?


 女の子の成長は早いといっても、この程度だよね?


 しかし、これに面白くない感情を抱いた子がいました。


 そう、同級生にからかわれるのが恥ずかしくて、男の子を突き放してしまった女の子です。


 自分が突き放した男の子に、同級生の女の子が近づくのが普通に面白くない。


 何故なら、別に女の子は男の子のことが嫌いになったわけではないからです。


 なんなら好きである。


 今まで自分がいた位置に、違う女の子がいる。


 この状況に、女の子は普通に嫉妬した。


 自分の方が早く男の子と仲良くなったのに!


 自分の方が男の子のことをよく知っているのに!


 自分の方が男の子とおしゃべりしたいのに!


 しかし、女の子は素直な性格をしていなかった。


 そしてプライドが無駄に高かった。


 たまに性格の悪い子が、これ見よがしに男の子と話す姿を見せつけてきましたが、私は気にしていませんよという体を貫き通しました。


 内心は悔しくて仕方がありませんでしたが。


 そして、そんな感じで中学に入学した二人は、その感じのまま中学を卒業することになります。


 しかし、二人を取り巻く環境は変化していました。


 まず、男の子たちにも色恋に興味を持つ連中が現れ始めたのです。


 そして、女の子は普通に可愛い容姿をしていました。


 学年で一、ニを争うレベルです。


 つまり、モテた。


 告白されること十数回。


 しかし、全ての告白を断っています。


 何故なら、好きな人がいるから!


 男の子に意識してもらうために勉強も頑張って、学年でも五本の指に入る程の成績を誇っています。


 しかし、当の男の子は。


(頑張ってんなぁ)


 程度の認識でした。


 何故ならこの男の子、女の子の言ったことを律儀に守っていたからです。


 マンションのエレベーターでカチ会えば階段を使い、学校でも目を合わせない徹底ぶり。


 女の子が勇気を出して声をかけても塩対応で応じる。


 これには女の子もショックを受け、枕を濡らしたこともありました。


 何故、男の子はここまで徹底した対応を取ったのか。


 それは男の子も中学校に上がり、思春期特有の気恥ずかしさに気づいたからです。


 男の子の方は特にそういった感情は抱きませんでしたが、そういう感情があることは理解していました。


 つまり、女の子の心の機微を理解し、行動してしまったのです。


 しかし、男の子は一つ重大な間違いを犯していました。


 それは、女の子の感情を、からかわれていた当時のもので理解していたことです。


 残念ながら女の子の現在の気持は、その地点ではない。


 女の子は焦る一方です。


 何故なら男の子は、相変わらずモテていたからです。


 男の子は、勉強はできなかったが、顔が良かった。


 別にめちゃくちゃイケメンなわけではありません。


 街を歩けばそれなりにいる、クラスでも二、三番目くらいの顔の良さです。


 しかし、それくらいの顔の良さの方が、女の子としては声をかけやすかったのか、男の子はそこそこ告白されていました。


 しかし、男の子が告白に応じることはありませんでした。


 何故なら色恋に興味がなかったからです。


 何故あたしはこの男を好きなのだろうか。


 自問すること幾星霜。


 女の子は考え続けましたが、恋は理屈じゃないので答えは出ませんでした。


 しかし、この男、何故モテるのか。


 答えは簡単です。


 普通に気遣いができた。


 黒板の高いところを代わりに消してあげる。


 プリントを運んでいたら手伝う。


 などの微妙に困っていたら助けてくれたというエピソードがてんこ盛りなのでした。


 他の男の子が思春期を拗らせて、女の子に声をかけられないでいる中、サラッとそんなことをしていたのです。


 それは男の子を突き放した女の子にも例外ではなかった。


 普段は避けている癖に、困っているときは助けてくれる。


 全く持ってけしからん奴ですよ。


 そんな感じで困っていれば、男女関係なく助けの手を伸ばす奴でした。


 そんなわけで、潜在的な者も含め、ライバルが多い。


 ましてや春からは高校生です。


 もしかしたら男の子も恋愛に興味を持つかもしれない。


 地元の高校に通えば、校区も広がり、ライバルが増える可能性も非常に高い。


 中学の先生としてはもう少し偏差値の高い高校に進学してほしかったですが、女の子は男の子が受験する地元の高校を受験しました。


 相当なアホでもなければ、まず落ちない高校だったため、二人とも無事に合格します。


 まずは第一段階クリアです。


 第一段階とは何か。


 そう、女の子は告白しようとしていました。


 男の子と同じ高校に通い。


 男の子と同じ高校の制服を着て、一緒に登校したい。


 そして散々煽り散らしてきた同級生たちに反撃したかったのである!


 この女の子、普通に負けず嫌いだった。


 しかし、そんな女の子は目撃してしまいました。


 中学の卒業式の日に、男の子の学ランの第二ボタンを要求する後輩を。


 そして、要求通りに渡してしまう男の子を!


 これには素直じゃない女の子も堪忍袋の緒が切れた。


 モタモタしていては、盗られる……!


 そこからの女の子の動きは早かった。


 男の子の母親に協力を取り付けると、男の子しかいない自宅へと突撃します。


 困惑する男の子。


 しかし、女の子はそんなことはお構いなしです。


「あたしの彼氏をやりなさいっ!」


 玄関に踏み込んで扉を閉めると、顔を真っ赤にして男の子に言い放ちました。


 果たして、男の子の返答は。


「どうした、気でも狂ったか? まあ、とりあえず落ち着けよ……」


 普通にドン引きしていました。

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