2.由美、西へ
世田谷に着いた。
着いたのはいいが、俺が住んでいた世田谷とはとてもかけ離れている。
俺が住んでいた世田谷は、もう少し田舎のような街並みであり、こんな都会じみた街ではない。
当時、俺が住んでいた白神家の住所を探す。
白神家はすぐに見つかった。
俺は扉を開けようとしたが、人の気配を感じて慌てて身を隠した。
白神家から、若い女性が出てくる。
「すみません」
俺は女性に声をかけた。
「はい?」
「こちらに白神 玄弥さんはいらっしゃいますか?」
「玄弥は私の曽祖父よ。でもね、私が幼稚園の時に亡くなったわ」
「え……」
「ひいお爺さんに何か?」
「いや……」
俺は死んでいる?
「玄弥さんが亡くなった時の状況を知りたくて」
「どうして?」
「え?」
「どうしてそんなことを聞きたいの?」
「や、やっぱりいいです!」
俺は白神家を後にした。
大体読めてきた。
今のこの体は俺自身のもので間違いないだろう。
となると、俺は彼氏に頭を殴られた衝撃で記憶を失い、転生前の記憶が蘇ったということか。
俺は自宅へ戻るため、駅に移動して電車を待つ。
電車はすぐにやってきた。
俺は電車に乗るが、座りそびれて立位の状態になった。
車内は混み合っている。
「……!?」
何者かに尻を触られている。
これが痴漢というやつか。
俺は咄嗟にそいつの手首を掴んだ。
「こいつち……!?」
言いかけて、慌てて別の車両に移ろうとする男を見つける。
「ごめんなさい」
俺は男を追った。
次の停車駅で男が降りるのを確認した俺は電車から出た。
「ねえ?」
「え?」
何事もなかったように振る舞う男が反応する。
「今、お尻触ったでしょ?」
「は?」
「私のお尻よ」
「さ、触ってねえよ」
「じゃあなんで慌てた様子で車両を移ったのかしら? 警察、呼びましょうか?」
「ご、ごめんなさい! 出来心だったんです! なんでもするから許して!」
「なんでも? 今、なんでもって言った?」
「はい」
この男、顔は悪くない。
ただ行動がなあ。
(まあいいか)
俺は男にこういう。
「あなた、私の彼氏になりなさい」
「は、はい?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる男。
「あ、私……」
(しまった)
今の俺の名前がわからない。
(そうだ!)
俺はスマホを取り出すと、プロフィールを開いた。
川島 由美。そう書かれている。
「川島 由美よ。由美って呼んでね。あなたは?」
「ぼ、僕は平賀 康太です」
「康太さん」
「はい?」
「あなた、家はどこなの?」
「京都です」
「き、京都?」
「はい」
「東京には何をしに?」
「出張」
「なんの仕事?」
「僕、京都府警なんだ」
「警察官?」
「はい」
「警察官が痴漢を? そりゃ不祥事ものだね。私の一声で君は職を失う。ていうか、何歳?」
「二十歳です。二年目です」
「ふーん。ま、いいや。そうと決まれば、引っ越さないとね」
「え?」
「同居するって言ってるの」
「え……」
「元カレが死んだ家になんか住めないわ」
俺は康太に住所を聞くと、一旦帰って荷物をまとめ、引越し業に頼んで運んでもらった。
そういえば、由美ってなんの仕事してたんだ、疑問符。