1.覚醒
俺は白神 玄弥。
その日の朝、目を覚ました俺は、見知らぬ部屋のベッドに横たわっていた。
(えっと……?)
起き上がり、辺りを見渡す。
その部屋は女の子っぽいそれだ。
俺はベッドから降り、部屋にある鏡を覗く。
(嘘……?)
黒長髪の端正な顔立ちをした女性が鏡に映っている。
なぜこうなったのか、皆目見当もつかない。
「何があった?」
その口からはソプラノボイスが出る。
俺は部屋を出ると、家中を見てまわった。
どうやら、この子以外には誰もいないようだ。
「あ……」
催した俺は頬を赤らめる。
流石に女の子の体を見るのは恥ずかしさがある。
しかし、今は俺以外にこれをできる者はいない。
俺は用を足すため、便所に飛び込んだ。
用を足し、外へ出る。
部屋に戻り、室内を調べる。
女性の持ち物と思しきスマホを手に取る。
パスコードでロックされている。
パスコードは301163。
(あれ? 何で俺わかった?)
とりあえずパスコードロックを解除した俺は、スマホのデータを隅々まで調べた。
スマホ内の無料トークアプリに、友達と思しき女性から、彼女が付き合っていた男性のことで会話をしていた痕跡が見受けられた。
友人女性の話では、付き合っていた彼氏が実は二股をかけていた、ということが窺える。そしてそれを昨夜、彼氏に突きつけようとしていたことがわかった。
そう言えば、さっきから妙に頭が痛い。
もう一度、鏡で見ると、殴られたような痕があった。
(この子、もしかして……)
俺は彼氏の連絡先を探す。しかし。
「ない」
いくら探しても、彼氏の連絡先が出てこない。
俺は友人女性にトークをした。
すると、彼氏の連絡先をゲットできた。
俺はすぐさま彼氏に電話をかける。
呼び鈴が鳴り、男が出る。
「もしもし? 私」
「え!?」
電話の向こうで男が驚く。
姿は見えないが、恐らく戸惑っているだろう。
「お前、なんで……?」
「俺だってわかんねえよ。なんでこの中にいるのか」
「は? ああ! いたずらだな! 変なことはやめてくれ! あいつはもういねえんだよ!」
「殺した?」
「なっ! てめえ誰だ!?」
「彼女の家にいるわ」
「待ってろ!」
電話が切れ、少しすると玄関の扉が開き、彼女の彼氏さんがやってきた。
彼氏は俺を見るなり、幽霊でも見たような顔になる。
「お前、なんで生きて……?」
「私はね、人魚の肉を食ってるから不死身なのよ」
「盛大なボケをどうもありがとう。って、そうじゃなくて、お前は確かに殺したはずだ!」
「やぱっり殺したんだ?」
「それがなんで生きてる?」
「さあね」
「わかった。もう一度殺してやるよ。お前のような女は邪魔なんだ」
彼氏が折り畳みナイフを取り出すと、開いて襲いかかってくる。
俺はナイフを持つ手を掴んで押さえる。
もみ合いになり、男の腹部にナイフが突き刺さる。
「ぐ!?」
彼氏は驚いて腹部を見る。
「そ、そんな……」
倒れ、息絶える。
俺はスマホで警察を呼び、殺されかけたことと、それが原因で揉み合いの末、刺さってしまったことを説明した。
事件は正当防衛が成立し、逮捕はされなかった。
だが、そんなことは問題ではない。
なぜ俺が、殺害された女の子の中に入っているか、だ。
俺は謎を解くため、俺が住んでいた白神家のある世田谷に向かった。