オーパーツに宿る聖霊の代理戦争
木の枝が折れる音で目が褪めた。
眠気眼をその方向に無理やり振ると虎がいた。
虎?このエリアには棲息していないはず。
しかも白と黒の斑。
虎白?伝承でしか聞いたことがない。
斑?想像の世界でも語られたことがない。
「弱き者よ。」
虎は問い掛けた。低い声だ。常に理性を保ち、
苦難を力で捩じ伏せてきたような貫禄を感じる。
「はい!?」
僕はただ反射的にそう声を上げるしかなかった。
「貴様に損はさせない。我の依り代となれ」
言われたことの意味が判らなかった。
というか、虎って喋れるのか?
一往復会話が成立してからそこを聞くのは躊躇われたし、
何より相手の威圧感がそれを許さない。
「アトラ。お前は家もなく、服も二着しかなく、その日の食べ物を
得ることに腐心する生活をこの先ずっと続けるのか。」
何故、僕の名前を、生活を把握しているのか。
「アドベンチャラーとして技量が伸びているなら、まだ救いもある。
歴2年にもなろうに、未だお前はプライマリークラスではないか」
「はい…」
訂正や反論できる部分がない。
「挙げ句、最近はアドベンチャラーとしての歴を聞かれたら半年と
偽っている。これ以上惨めな事を私は思い付けない」
何故自分の一番恥ずかしい部分を知られているのか。
視線を下げて赤面する他無い。
「なれば、」
そういった瞬間、回りの木々が一斉に揺れ動き始めた。
「私が力を貸そう。勿論交換条件はあるが」
木々を動かしたのは虎白のオーラだった。
オーラは現実の物体に影響することは原理上有り得ないと、
スクールで習ったのに。。
「返答は如何に?考える時間は十分与えたぞ」
虎白は今まで僕が逃げないよう、怯えないようオーラを抑えていたようだ。
拒否権は自分に無い気がする。
「分かりました。なり…ます。あなたの依り代?に…」
虎白はニッコリと笑い、
「それで善し。」
と言った