駅での二人。ソノニ。
「ふうん、マサやんとやらも物好きねぇ、『スミ』は集まる何かがあるから、それか『入り口出口』が有るのは必須なんだけど……」
目的地へと向かいながら話す虹子さん。はい?隅に?そんな事現実にあるのか?そう聞いてみるとあっさりと答えてくれる。
「そうよ、何かしら存在しているの」
「部屋のど真ん中でも、おかしいとは思うけど。座敷で暴れるなってのは、畳が傷むからだと思ってた。へえ……そんな事したら怖いのが出てくるのか」
家で試して……、と思ったがマンション暮らし。家具が置かれていない、四隅が開いてる旅館の様なお座敷は無い。田舎の爺ちゃんの家に行かなきゃ無理だな、と考え歩いている。
「今、試してみようとか考えたでしょう」
「ええ?何でわかるの?」
「ふふん!分かるわよ。そうねぇ、今度別の仕事で、いい場所に行くからその時に試してみたら?」
別の場所。どこだろ?四隅をぐるぐる出来るのだから、お寺とか、旅館?お金持ちの家とか?
――「ああ!玉虫さん!待っていたんだよ」
それなりに行き交う人が多い中で、そう声をかけてきた駅員の姿。遅くなってすみません。斎藤さんと挨拶を交わす虹子さん。
「いやぁ、困っていたんだ、変えても変えても……あれ?そちらのお方は?お友達?」
「助手です。これで斎藤さんにお忙しい中、お手伝いしてもらわなくても、大丈夫になりました」
ほおお!それは何より。二人で話す後ろをついて歩く俺。突然!おっとぉ!何もない場所で、突然何かを踏むのを避ける素振りを見せた斎藤さん。そして衝撃の場面に出くわした。
斎藤さんが足元を見下ろし『おやっさん』、こんな所でにまた来て、好きだねぇ。何もない場所に、声をかけているのだ!
え!何があるの!俺は俄然盛り上がってきた!今の状況を分析をする。虹子さんもそこをじっと見ている。そして斎藤さんも……、仕事を頼んでいるらしいおっさんなのだが、おそらく怪奇現象についての仕事だろう、とすると二人が見ているのは!
「あら、こんな所に出張って来てるの!」
「ああ、このおやっさんは、ええっと、9号になるか、最近産まれたばかり、だからプラットフォーム、階段、エスカレーター、改札口、自販機には新入りは場を取れないからね」
「ふうん……、それにしても運がイイ奴よね。私が跨いでいれば、呪いを受けて消滅していたのに、ウフフ」
何もない下を見ながら話す駅員さんと虹子さん。俺は根性入れて、二人の視線が落ちているそこをじっと見つめる。見えろ、視えろみえろミエロ……
うぉぉぉー!見えろ俺ぇぇ!みたいぞぉぉ!俺ぇぇ!
「もう!般若みたいに睨まない。君ここにあるモノ視える?」
「う?見えない」
「側に来てみれば?」
手招きされたので、言われた通りに虹子さんの側にしゃがんでみた。左手には斎藤さんの革靴。右手には虹子さんのローファー。間に挟まれる俺。
「目の前には痴漢の妄執の結晶体、助平妖怪『目だけのおやっさん9号』がいるんだけど、わかるかな?」
はひ?何それ、聞いたこともないのが出てきたし!そして9号?1号から順にいるのかな?
「そう、1号は3番線のプラットフォームを縄張りにしてるの、ここは『私立 聖白百合乙女学園』の生徒が多いから。二号はそれに続くエスカレーターね!」
「そうそう、おやっさんはね、うーん、痴漢の妄執体でね。主に女子高生のスカートの中を見たい、みたいってのが集まって形成された存在で。まあ、『見る』だけで人畜無害だからいいけどね」
はい?なんですと?『目だけのおやっさん』とは、その名の通り、目玉だけで床に住んで、日々『覗き』を堪能している存在なのか?そして放置で良いのか?斎藤さん。
……、そんなの見たくねぇな。でも背に腹は代えられん!意地でも見たい!
「えーと?俺の目の前には、床」
いくら目を凝らしても床だよな。床だよ。他に何があるの!
「うーん、これは強敵だわ。いいこと?よくお聞きなさい!君の目の前に、人間の目玉をえぐりだして、一回り大きく膨らんだ、ぷよぷよとしたのが、ぺったんこと貼り付いてるの」
ええ?そんなのないぞ?
「ギョロリとしていて、キョトキョト黒目を動かす、血走った目玉が見えない?そこそこに大きいのよ?そうイメージを持ち目の前を見たら、幽霊も枯木のお花効果で何か見えるでしょう?」
「くゔぅぅ!無い!」
懸命に目を凝らすがさっぱり見えない。頭の中には生物図鑑に載っていた、眼球の図がバッチリあるのだけど。それか妖怪アニメの有名な親父さん。
「もう!想像力や、妄想力を働かせなさい!目の前を指でツンツンしてみたら?何か気配が分かるも」
「ぐぅぅ!二人とも見えてるのなんかズルい!ツンツンってこの辺?」
目の前の床の上数センチを、言われた通り人差し指でツンツンしてみるが……何も感じない。
「そうそう、ありやだ、『おやっさん』が君の清らかなる気に、あてられちゃってる」
「おおお!『おやっさん』が、ぷるぷる震えだしたぞ!うるうる瞳が可愛いなぁ、涙浮かべてるぞ」
虹子さんと斎藤さんの声が、頭の上から降ってくる。しかもむき出しの目玉が可愛いって何!
「……君は人の持つ業、妄執、怨念とかが、見えないのかしら?記念撮影のカップルは見えてたのよね、まぁ彼等は驚かす事を目的に、変化しているコ達なんだけど」
「ほお?僕みたいに幽霊も、妖怪でも怨霊でもバンバン見ないの?『藤棚の首無しカップル』、まだ居るの?いやぁ懐かしいねえ、アハハ」
はい?あのカップルって首無しだったか?ちゃんと頭が胴体とくっついてたような気がするけど。斎藤さんも俺と同じ高校だったのかな?
ツンツンと繰り返してみる。つんつん、ツンツン……!!ツツツツツ!キツツキの様に、突き刺し攻撃をしてみたが、空間にはなんの異常も現れ無い。
が!俺の攻撃は効いていた様だ。
「おお!『おやっさん』が逃げて行くぞ!」
どんな風に逃げてくんッスか!と俺は慌てて斎藤さんに聞く。
「そうだな……スライムが敵前逃亡をする様に、涙を振りまきながら、スサササーって、床を滑るように進んで行ったぞ」
「どっちに!」
立ち上がると、あっちと指差す方向に、俺は全力疾走で走る!
「くそぉぉ!姿ぐらい表してから逃げろよな!どこだ!どこに行ったんだ!目玉!」
階段やエスカレーターにはまだ入れないとか、なんとか言っていたから、この先で止まるに違いない!そう考え、俺はとりあえず真っ直ぐそのままに走った。