彼女の気持ち
史の言葉を聞いた文は、にっと笑った。
「やーい、ふりょーふりょー」
と言いながら、一本の煙草とライターを差し出してくる。
それを受け取り、煙草をくわえる史。
ライターがうまくつけられず、かちかちしていると、文が
「やってあげるよ」
と、火をつけてくれた。
深く吸い込む。
「……っ!」
ごほっごほっごほっ!
激しく咳き込む史。
「やっぱりそうなるよねー、無理に吸うことないよ」
文が笑いながら言う。
ひゅーひゅーひゅー、ごほごほ。
「? 史?」
苦しみだした史を見て、文がうろたえる。
「ご、ごめん、喘息の発作みたい」
「なんて言った?史、喘息持ちだったの?ちょ、ちょっと!」
ごほごほごほ、ひゅーひゅーひゅー。
「だ、大丈夫。吸入薬あるから」
鞄を探り、吸入薬を取り出す史。
規定量吸入して、史の呼吸は落ち着いた。
「ははは、やっぱり煙草なんて吸うと発作でちゃうよね……文?」
顔を真っ赤にして涙目になっている文を見て、史は驚いた。
文が口を開く。
「どうして言ってくれなかったの?喘息持ちだって知ってたら絶対に吸わせなかったの
に!どうして?!史が死んじゃったら私……」
わーっ!と文は泣き出した。
「あ、文?死ぬなんて大げさだよー。泣かないでよ」
「大げさじゃないよ!私の従妹、喘息で死にかけたから知ってるもん!」
そう言いながら泣きじゃくる文を宥めながら、史は戸惑っていた。
文にとって、自分はそんなに大切なのだろうか、と。
まだ出会って日は浅い。お互いのことで、知らないこともまだまだある。それでも、煙草
を吸う姿を見せて、死んじゃったらどうしようと泣いてくれて。史は正直、文がそこまで
自分を思ってくれる心境がわからなかった。
「文、ごめん。びっくりさせて本当にごめん。だから泣き止んで」
史は、なかなか涙が止まらない文の背中を一生懸命なでた。
「ううう、ふみぃ」
文はそう言うと、がばっと史にかぶさってきた。
「ちょ、ちょっと文! ……仕方ないなあ、もう」
密着した文から香る、コロンの匂い。そして、煙草の匂い。もう発作が出ませんように…
…と祈りながら、史は文の背中をぽんぽんし続けた。
やっと泣き止んだ文が、口をとがらせて言った。
「もー、泣かせた罰!ファミレスでパフェおごって!」
「わかったわかった」
文が泣き止んだ安堵で、史はおごりを二つ返事で引き受けた。
(文に悪いことしたな)
まだ赤い目をした文が先に歩くのを追いかけながら、史は胸がちくちく痛むのを感じていた。