彼女との出会い
史と文との出会いは、高校入学時だった。
「みなさん、高校入学おめでとう。今から出欠を取ります。高校生になった自覚を持って、しっかりした声ではっきりと返事をしてください」
永本と名乗った40代前半とおぼしき男性教師が、そう言って出欠を取り始めたのを聞きながら、史はぼんやりと
(高校生になった自覚、ねぇ)
などと考えていた。
「おがさわらあや」
「はい」
史の前の席の生徒が返事をした。
(この人、すっごいいい香りする。小笠原さんかー)
「……ふみ。緒方史! 居ないのか?」
「あっ、はっ、はい!」
いつの間にか名前を呼ばれていて、慌てて返事をした史。
今日からの同級生たちは、淡々と教師の声に返事をしていく。
出欠確認が終わると、入学式のために体育館に移動だった。
史は、「小笠原さん」に話しかけてみた。
「初めまして」
くっと後ろを向いた「小笠原さん」も、「初めまして」と返した。
「あの、『あや』って、どんな漢字書くんですか?」
史はさっき聞いた彼女の名前が気になって尋ねてみた。
「タメなんだからタメ口でいこうよ。 私のあやは文章の文だよ」
意外と気さくな女の子だ、とうれしくなった史は、
「えー、文で『あや』? その読みの有名人居るよね?」
と言ってみた。
すると、文の顔に笑みが広がり、
「一発でその話出した人に初めて出会った。うれしい」
という言葉が返ってきた。
「はーい、ここでいったん整列ー!」
体育館前まで来て、隣のクラスの教師が大きな声で新入生に整列を促した。
史と文の会話も、そこで途切れた。