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帰ってきました。

 


 ルチアの出てきたゲートを潜ると、薄暗い地下室に繋がった。

 蓋の開いた黒の棺が出口になってくれたようだ。そしてその棺を囲むように、テオ達が待っていた。


「……あ……えっ、と……」


 気まずい空気が流れる。

 どうしよう、どうやって謝ればいいのか分からない。どこから説明しよう。


 そもそも私の話なんて聞きたくもなかったら……嫌われて当然のことをしたわけだし……それでも諦めないけど!!

 でもあまりにも自分勝手過ぎるよね……考えれば考えるほど私ってば最低なことを……。

 とにかく、まずは謝ろう。謝って、わけを話して、許してくれるまで何度でも。



「あのっ、ごっ、ごめんなさ……え?」



 下げかけた頭を、誰かの手が鷲掴んで受け止めた。あぁこれ、凄く嫌な予感がするなぁ……。

 次の瞬間、予想どおり容赦無く締め上げられた頭に悲鳴を上げる。


「この、大馬鹿者が!!!貴様の分際で俺の脳に干渉していいと思ってるのか!!!詫びろ!!!百遍詫びろド低脳!!!」


「あぁぁ痛い痛い痛い!!!ちょっ、待っ、謝る!!謝るからぁ!!!ごめんね!!!!」


「申し訳ありませんでしたユリウス様、だろうが!!!」


「申し訳ありませんでしたユリウス様!!!!」


 真面目に考えてたのに!!今これやる!?

 お陰で何もかも吹っ飛んだわ。でも悪いのは私だから、これで気が済むのなら……。

 あぁあやっぱり痛い!!!


 頭蓋骨を割られる覚悟を決めたとき、ユリウスの手からふっと力が抜けた。


「馬鹿のくせに、難しいことを考えるな。お前が滅茶苦茶なことをするのは今に始まったことじゃないだろう」


「ユリウス……」


「……但し、次は無いからな」


「……うん!」


 素っ気なく後ろを向いてしまったけれど、ユリウスなりに気を遣ってくれたのが伝わった。

 私が『いつも通り』でいることを許してくれる、ユリウスなりの優しさだ。



「んじゃ次は俺かな」


 名乗りをあげて、オズが一歩前にでた。

 軽い口調だが、その表情はどこか切なげに見える。


「……お前さ、死のうとしてただろ。違うか?」


「……大げさよ、へたしたら処刑されるかもしれないとは思ったけど」


 いきなり核心を突かれて、どきりとした。

 あの時、私はもう運命に抗う気を無くしていた。ただ終わりを望んでいたのだ。


「俺は、お前の笑顔が好きだから。お前のしたいことはなんでもさせてやりたい。でも、これは違うだろ!!自分を犠牲にしようとすんなよ……」


「うん……いつも守ってくれたのに、ごめんね」


「謝んな。そういうのも含めて、全部俺が守ってやりたかったんだよ!!だからこれは、ただの俺の後悔だ……お前はそんな顔すんなよ」


「でも……ごめんなさ、いっ……たぁ!!」


 また謝ろうとして、頬っぺたを両手で引っ張られた。なんかさっきから痛い目にばっかあう。

 驚いて目を見開くと、オズが可笑しそうに笑っていた。


「謝んなっつったろ……ブサイク。おかえり」


「ふふ……一言余計なのよ。ただいま!」


「やっと笑ったな、俺の好きなロザリアだ。ほれ、あいつらんとこ行ってやれ」


 オズが親指で指した方を見ると、暗い顔のまま動かないアレンとテオがいる。

 テオはともかく、いつも私の後を着いて歩いていたアレンへの衝撃は計り知れない。

 オズに従って、アレンへと歩み寄る。


「アレン、その……」


「……捨てられたんじゃないかと思った」


 手を伸ばしかけて、止めた。

 アレンが、初めて会ったときのように泣きそうな顔をしていたから。


「……アレン」


「……ロザリアを忘れて生きるくらいなら、死んだ方がマシだ……っ!」


「アレン」


 叫ぶように吐き捨てるアレンを抱き締めた。

 謝りながら、何度も頭を撫で続ける。


「……悲しませてごめんね……」


「……っ、もう、二度と居なくならないで……!!」


「うん、絶対」


 縋りつくように抱き返されて、アレンを傷付けた自分に怒りが湧いた。

 家に連れて来た日に、あんなに大事にしようって決めたはずなのに。駄目なお姉ちゃんでごめんね……。


「……もしロザリアが帰ってきてなかったら世界を滅ぼしてた……」


「うん……うん?」


「ロザリアのいない世界なんていらない……」


「……うん、未来永劫いなくなりません」


 不穏な単語に青ざめた。アレンなら本気でやりかねない。

 取り返しのつくうちに帰ってこれて良った……。


 私の答えに納得してくれたのか、アレンは少し微笑んでからテオの方へと私の背中を軽く押した。


「……今回だけだから」


 最後はテオの番。アレンが回してくれた。


「テオ……」


 呼びかけると、少しだけ肩が跳ねる。

 顔を上げないまま、テオはゆっくりと口を開いた。


「……君がいない間、ずっと考えてた。何も言わずに姿を消す程、僕は信用出来なかったのかなって」


「……ごめんなさい……」


「同じ時間を生きてきたつもりだったけど、君にとっては簡単に捨ててしまえるものだったんだね」


「違っ……!!」


「違わない。君がしたのは、そういうことだよ」


 くしゃっと掻き上げた前髪の隙間から、揺れるテオの瞳が覗く。

 ……そうだ、テオの言う通りだ。私がしたのは、私を好きだと言ってくれた人への裏切り。

 それに私はまだ、肝心なことは何も話していない。


「……聞いて欲しいことがあるの。前に、前世の話をしたでしょう。憶えてる?」


「……信じないと、一蹴したね」


「そうね、信じられなくて当然だわ。でも、少なくとも私の中では全部本当だったの」


 私にとってはこの世界が決められたシナリオ通りに進むことが当然だった。そうなると盲信していたから、変えようと思ったのだ。

 テオ達にだって自分で選び取る未来があったのに、私は勝手に彼らの運命まで決め付けた。

 それも、今日で終わりにする。


「テオ達の話はしたけど、私のことは話したことがなかったでしょ?私はね、みんなに嫌われていたわ。ルチアに嫉妬して散々虐めた挙句、処刑されるはずだったのよ」


「……そんな、こと……」


「テオなら昔の私の噂、聞いたことあるんじゃない?高飛車でキツい性格の子供だったって。前世の記憶が戻らずにあのまま成長していたら、きっとその通りになっていたでしょうね。だから未来を変えようとしてたのに、今度はそれを知られるのが怖くなって全部投げ出したの。逃げてしまって……本当に、ごめんなさい……」


 言い終わる頃には、抱き寄せられていた。

 顔は見えないが、私を抱き締める手は震えている。


「……ごめん、もっと、ちゃんと話を聞いていれば良かった」


「ううん、悪いのは私だもの……あの、ね、私はテオ達の未来も、変えちゃって……」


「それはいいよ。ずっと言ってるだろ、運命なんてどうでもいいって。不確かな未来よりも、目の前の君が大切なんだ」


「……っ、ありがと……っ!」


 笑ってお礼を言いたかったのに、それは叶わなかった。

 助けてと言えなかった自分への後悔と、それでも手を差し伸べてくれた嬉しさが溢れて止まらない。

 テオは泣きじゃくる私の頰に手を添えて、親指でそっと涙を拭ってくれた。



「……好きだよ、ロザリア」



 テオの顔が近付いてくる……と思ったら、間に入ってきた掌が高らかな音を立てて張り手を決めた。


「……今ロザリアに何しようとした」


 アレンが胸ぐらを掴んでテオに詰め寄る。

 あーあ、折角の綺麗な顔が赤くなってるわ。


「えぇ……ちょっとテオ、大丈夫?凄い音したけど……」


「いいんだ、今のは僕が悪い……。こういうのはちゃんとしたいから……」


 本人は納得しているようだからいっか。

 何をちゃんとしたいのかは知らないが、気の済むようにやってくれ。


「ロザリア様、ハンカチお使いください」


「あ、ありがとルチア」


 びっくりして涙も止まってた。

 差し出されたハンカチで顔を拭いて、仕切り直しだ。

 ……テオとアレンは私が止めた方がいいんだろうか。なんだか、帰ってきたって感じがするな。





「改めまして、こちらが黒の神ことマオ君です」


 シーン。

 お互いに無言。なんでだ。

 もっとこう、和気藹々と自己紹介とかすればいいのに。テオとオズとルチアは表情が強張っているし、アレンは全く興味が無さそう。

 ユリウスに至っては棺を隅々まで調べるのに夢中だ。


「なんで黙ってるの?」


「……いや、神様を君付けとか無理だろ普通……」


「失礼を承知で聞くけれど、本当に危険はないんだよね……?」


 うーん、元魔王の印象が強くていきなりフレンドリーにとはいかないか。

 話してみるとイメージ変わると思うんだけどなぁ。


「……ロザリア、私のことは気にするな」


「でもマオ君がいい神様だってこと、みんなにも知ってもらいたいもの」


「私にはお前がいればそれでいい」


 そう言うとマオ君は私の手を自分の頰に当て、掌に口付けた。

 本当、いつからこういうこと出来る様になったんだろうね。昔はこれが普通だったりしたのかな?


「は……?」


「へぇ……随分仲良くなったみたいだね」


「……物凄く邪気のこもった視線を向けられているな」


「テオ!!アレン!!マオ君を睨んじゃダメ!!」


 仲良くなるのは暫く無理そうだなこれ。

 マオ君に一般常識を教えるところから始めなくちゃかな……。

 なにせ何千年分の遅れがある。



「ところで、このケサランパサランはなに?ルチアのペット?」


 手のひらで触れてみたらぺそぺそ当たってきたのでドリブルしてる。

 ふわっともぶにっともしている不思議な触り心地だ。


「ケサ……?ロザリア様の仰るものが何かは分かりませんが、そちらは白の神様だそうです」


「嘘」


「本当だぞ」


 マオ君が言うなら本物……!?

 でも白の神は最後まで出てこないはずなのに……あーだめ、またシナリオを意識してる。

 色々変わってるんだから白の神くらい出てくるわよね、うんうん!!


「えっと、白の神様はマオ君みたいに人型じゃないんですね……?」


「私も人型になれますよ」


 うわぁ、ケサランパサランがしゃべった。

 しかも人型になれるんだ……。


「マオの封印を解くのに力を使ったので今は無理ですが、いずれお披露目しましょう」


「え……待って?マオ君、封印解けてるの?」


「解きましたよ?神域に踏み込むのに邪魔だったので」


 そんな、さらっと……ていうかもっと早く言ってよ!!

 白の神、中々テンポが独特だ……攻略しづらそう。

 いやでもマオ君の封印が解けたということは、マオ君の未来も変わったということだ。


「マオ君!!暴走回避しようね!!」


「その件も含めて、ロザリアには聞きたいことが山程ある。そろそろ場所を移動しようか」


「アッはい」


 ポンと肩に置かれた手に振り返ると、いい笑顔のテオが立っていた。話すつもりだったけど、全部話すけど、怖いもんは怖い。

 あー……そういえば私、殺人未遂の罪もあるじゃん……。

 まぁ、考えてても仕方ないか。みんなと一緒ならどうにかなるでしょ!!


 上に行く階段へ歩き出したところで、足元で発動した魔術式が身体の自由を奪った。

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