はじめての領地視察です。
拝啓、過去の私へ。
攻略対象と関わらないように生きるのは難しいみたいです。
先日勢いでついうっかりオズに自分から友人になってくれと申し込んだ私は、前世の記憶を思い出した当初の自分に想いを馳せていた。
だって素直で純粋なオズワルドが可愛かったんだもの……。
私はやっぱりこの作品のファンなのだ。
好きだった作品のキャラ達と良好な関係が築けるならそれに越したことはない。……はず。
学園でヒロインと出会ったら私はきっとお役御免になるだろうが、処刑エンドが国外追放エンドくらいになる恩情はかけてもらえるかもしれないしね。生きてさえいればいくらでもやりようはある。
安泰な老後のためにも!気を取り直して、今日は待ちに待った領地視察の日なのだ!!!
お父様と約束をした日から楽しみにしていたので嬉しくて手紙に書いたら何故かテオとオズもついてきた。
ほんとに何故。
「私のロザリアはモテモテだなぁ、くっ……しかし嫁には……」などと宣うお父様を無視して領地に向かう馬車へ乗り込んだ。
「2人は別について来なくてもよかったんだよ?」
「……俺はこいつがついてくっていうから来ただけだ」
「ロザリアが考えたっていう医療施設は王宮でも話題になっているからね、僕も後学のために見ておきたかったんだ」
そうなのだ。前にお父様に頼んでいた大学病院もどきは思いの外早く実現し、それが結構話題を呼んでいるらしいのだ。
公爵家が全面的にバックアップします!というクチコミが効いたのか町医者の息子がこぞって集まり、そこに更に薬や人体を研究している研究者達が鼻息荒く参加し出したのだ。
うちで雇ったベテランの医師達のもと、若手の医師を育て新しい薬の開発をする。
そして患者には新しい医療法を試すことになるのでこの病院に限りだが、治療費の一部を税金から負担することになっている。医療保険みたいなものだ。
娘を溺愛し過ぎているお父様により「聖ロザリア記念病院」なんてトチ狂った名前が付けられたこと以外はなかなか良い出来なのではと思っている。
「でもまだ色々と問題はあるのよね。治療費は税金から負担してるからあまりエルメライト領以外の人に来られると困るのだけどそれを判別する手段がないし、他の場所に病院を増やしたくても医療を嗜んでる人が圧倒的に少ないし、だからって1からそのための勉強をしようにも基本的な学力が足りてないし、小学校は建てたけど子供も労働力として認識されてる今の世の中じゃ中々勉学に時間を割いてもらえないのよね…………って、どうかした?」
まだまだ尽きない今後の問題について思案していたら、2人は目を丸くしてこちらを見ていた。
「いや……随分色々と考えているんだなと思って」
「お前ほんとに俺らと同い年かよ……」
「流石私達のロザリア……! なんて賢いんだ……!!」
やばい油断してた!
お父様は私が何をしてもこの調子で感動に震えるだけだが私はまだ8歳の子供なのだ。
どこの世界に医療と教育の充実に関心を寄せてる8歳児がいるというのか。
どう考えてもおかしい。
「テッ、テオだって王子としてこの国のことを考えているでしょう? 私も領地のために何かできないか沢山本を読んで考えただけなの!! 口を出すだけで実際に動いてくれたのはお父様だし!!」
「確かに僕も国について勉強はしてるけど……それにしても……ロザリアは、本当にこの領地が好きなんだね」
「え? まぁ、そうね。」
というか自分のところの領地が嫌いなんていう人がいるんだろうか?
テオはなにやら「これは弟か妹が必要かな……」と呟いている。何故急に兄弟愛に目覚めたのか。
「やっぱお前すげーな、ロザリア……」
「そんなことないわ! 普通よ普通!!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
病院や小学校を回り、初めて見る街並みは新鮮で領地視察は物凄く充実したものだった。
あまり家から出たことがなかったけれど許されるなら頻繁に来たい。
やっぱり直接見て経験してみないと分からないことってあるものね。
日本にいたときのような政治家にはなりたくないわ。
そして最後はいよいよ私名義で支援をした孤児院である。
お父様が寄付してくれた孤児院はアメリア孤児院といって、うちの領地でも一番大きな孤児院だ。
ほんとは全部の孤児院に寄付できればよかったんだけど、流石にそれは無理だからね。
追々この辺の運営もどうにかしたいところである。
病院も小学校も散々口を出しはしたけれどあくまであれはお父様が主体の領地経営の一環なので私の名前が出されているのはここだけなのだ。
「まぁまぁ、皆さんよくおいでくださいました。どうぞ、こちらへ」
孤児院を訪れると優しげなおばあちゃんシスターがお出迎えしてくれた。
この辺で一番大きいというだけあって随分と歴史を感じる建物だ。というかわりとボロい。
小さい子供が何人も住んでいたらまぁこうなるよね……。
私たちはぞろぞろと応接室まで通された。
どうやらこの孤児院はおばあちゃんシスターセレッサとお手伝いができるくらいの年齢の子供達何人かで回しているらしい。
うーん、ここでも人手不足か。
「ロザリアお嬢様、この度は孤児院への寄付誠にありがとうございました」
「いえ、未来ある領民のために尽くすことは公爵家の娘として当然のことですから」
「まぁ……素晴らしいお考えですわ」
「ロザリアはうちの自慢の娘だからね」
そこから始まるお父様の娘自慢。
本人を目の前にして語るのは本当にやめてほしい。
ていうか孤児院への支援だって本来ならお父様が自主的にやんなきゃいけなかったものなんだからね!わかってんのか!
そろそろ脇腹をど突いて止めるべきかと思っていたら応接室の扉が開いて2〜3歳くらいの可愛らしい子供達が顔を出した。
「あらあら、お客様が気になってしまったのね」
シスターが大人しく待っているように宥めるもぐずり始める子供達。
子供に大人しくなんて到底無理な話よね。
「シスターセレッサ、よかったら私がこの子達の相手をしていてもよろしいでしょうか?」
「それは……私としてはとてもありがたいことですけれど……」
「お父様、いい?」
寄付への感謝を受けた段階で私の仕事は終わったも同然だ。
本来ならこの後諸々の近況報告などの話し合いにも参加しようと思っていたがお父様に丸投げしよう。
ついでに自分の目で孤児院がどんなものか見てこようと思う。
「僕からもお願いします、僕とオズもついていくので」
「それなら構わないが……くれぐれも気を付けるんだよ?孤児院の敷地内とはいえなにがあるかわからないからね」
「はい!お父様!!それじゃ、お姉さん達とお外で遊ぼうか!!」
そう言うとはしゃぎ出す子供達。うんうん、無邪気で可愛いね!
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