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台本で練習します。

 


 ダグラスからの助言の意味がわからないまま、文化祭の準備は着々と進んでいった。

 私の改造した台本も全員分刷り上がり、今日から読み合わせが始まる。

 本当の敵は己自身みたいな内容に仕上がっているので受け入れてもらえるか不安だったのだが、『現代社会への風刺』として思いのほか好評価をしてもらえた。

 台本作成者である私は続けて監督に就任した。

 アレンは演出担当、オズが英雄と光の聖女を護衛する騎士の役だ。

 オズは物語に登場する騎士のファンだったようで、本人の立候補による配役である。



「ルチア、ちょっと台本貸して」


「はい」


 読み合わせの前に、ルチアの台本をバサバサとページを揺らすように振った。

 何も落ちてこないのを確認する。


「よし!チェックオーケー!!返す」


「今のは……」


「『硝子の破片』チェック」


 兎にも角にも、『硝子の破片』と『照明』と『階段』に気を付ければいいのだろうと、ルチアに厳重体制を敷くことにしたのだ。

 用心するに越したことはない。


「ダグラスの言ったこと、本当に信じてるの?」


「念のため、よ。硝子は体の中に入ったら怖いんだから!」


 物言いたげな目で見てくるテオにビシッと指をさして、ついでにテオの台本も振っておいた。

 よしよし、大丈夫だ。


「僅かな可能性の芽すら摘み取るその姿勢……流石ですロザリア様!」


 ルチアが何やら感動している。ツボがよくわからない。

 私の分の台本を貸して欲しいと言うので渡すと、バッサバッサと盛大に振り始めた。


「ロザリア様の台本の確認は私が致します!」


「ありがと、これで安心ね」


「……本当に事件が起きたらあの男を捕らえた方がいいんじゃない?」


 未だ不服そうなテオは置いておいて、一応アレンとオズの台本も振っておこう。

 オズは大好きな騎士役が出来るのでやる気満々である。


「オズって演技とか出来るの?」


「ったりめーだろ、昔の俺とは違えんだよ。ちゃんと嘘つけるように練習したからな!」


 嘘つく練習ってなんだ。

 オズは正直過ぎる男なので疑問をぶつけてみたが、そんな練習をしてる時点ですでに心許ない。

 だが本人はえらい得意げな顔をしている。


「じゃあここのセリフ読んでみて」


「おー……俺が!お守り、致っ、しマス!!」


「下手」


 びっくりして本音が出たわ。

 普段と言ってることは変わらないのに、なんでこんなにガッタガタの挙動不審になるのやら。

 棒読みにすらなってない。とことん嘘のつけない奴だ。


「オズはまともにセリフを言えるようにするところからね……」


「あ?なんでだよ完璧な演技だっただろうが」


「どっから出てくるのよその自信は……」


 本人に全く自覚がないのが不思議だ。

 何が駄目なのかも分かっていないっぽい。

 テオはなんでも出来るし、ルチアもゲームでちゃんと演じてたところを見たから上手いのを知ってたけど、思わぬ伏兵がいた。

 ゲームの方のオズ、騎士役やってなかったのってこれが原因か?


「なんでだ……?テオの真似してるからか……?」


「ちょっと待って、今のどこが僕の真似だったのかな」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇




 次の日、例によってまたルチアの台本をバサバサ振っていた。

 今のところ硝子が落ちてくる気配はないなと油断していたら、教室の隅で何かが散らばる音がした。



「っ、いたっ……」


 声を上げたのはミーシャ・メリノイア男爵令嬢だ。

 赤く筋を残す指先に、机には無数の『硝子の破片』が落ちている。

 どうやらダグラスの予言が始まったらしい。


 でも何故、彼女に……?

 ミーシャは爵位こそ低いが、目立ったトラブルもなく友人関係も良好なように見えた。

 今になって急に、人に恨みや妬みを買った?

 それにしたって偶然でこの時期にロザリアと同じやり方で危害を加えられたとは思えない。

 被害者がルチアじゃないのも謎だ。何か意味があるのか、それとも私の考え過ぎ……?


 ……いや、今はそんなことよりミーシャだ。

 手を抑えたまま、怯えた顔で硝子の破片を見つめている。


「ミーシャ、指切ったのね。念の為医務室に行きましょう」


「ロ、ロザリア様……」


 声を掛けられて安心したのか、ミーシャの口元に薄く笑みが浮かんだ。

 自分のものから明らかに悪意のあるものが出てきたら誰だって怖いに決まってる。

 このまま一人にさせるわけにはいかない。


「私はミーシャに付き添うから、テオとルチアで読み合わせ進めててくれる?」


「はい!お任せ下さい!」


「いってらっしゃい」


「アレンも待ってて、すぐ戻ってくるから。ちゃんと流れを覚えてね」


 ついて来ようとするアレンを押し留めて、ミーシャと医務室へ向かった。

 幸い傷口に硝子も残っておらず、浅く切った程度で済んだようだ。

 医務員の方に手当てをしてもらって、ひと段落したところでミーシャが頭を下げた。


「あの、一緒に来てくださってありがとうございました……!」


「いえ、いいのよ、あんな事があった後に1人は怖いもの。……気分を悪くしたら申し訳ないのだけど、その……思い当たる節とかは……」


「ありませんっ!」


 ミーシャは即座に否定した。

 やっぱり心当たりはないようだ。


「……そうよね、変なこと聞いてごめんなさい。無差別に仕掛けられたのかもしれないし、あまり気にしない方がいいわね」


 そうだ、何もミーシャを狙った犯行とは限らない。

 意図は分からないが、私達のクラスに対する嫌がらせの可能性もあるのだ。

 とにかく、今まで以上に気を引き締めなければ。



「ここは!!俺が!!守るッ!!!」


 教室に戻ると、読み合わせどころかオズが剣を持って騎士役を熱演していた。

 昨日の大根っぷりが嘘のようだ。


「なんか劇的に上手くなってるー……」


「あ、おかえり。オズは演技が苦手だから、これは実戦を想定した鍛錬だと思い込むように言ったら迫真の演技になったよ」


 あー、鍛錬だと思うと感情を込められるのか。

 テオはオズの演技に満足したようでニコニコしているが、これは……


「逃げてんじゃねえ!!かかって来い!!」


 迫真過ぎるわ。

 相手役がびびってる。あと全然セリフ違うし、ていうかキャラも違う。

 これ、どっちがマシなんだろうか……。

ブックマーク&評価ありがとうございます。

がんばります!


テオはクオリティが上がるなら多少のことは気にしません。

クラスメイトが怯えてても気にしません。

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