騎士様とご対面です。
あれからテオドア様とはうちと王宮を行き来するくらいの仲になっていた。
やれ一緒に勉強だダンスのレッスンだと理由をつけられ、断ろうものなら笑顔で婚約を仄めかしてくる。
自分との結婚を盾にするってどうなんだろう。
今日も今日とて、わざわざうちまでお迎えに来たテオドア様に馬車に引きずり込まれたところだ。
「そろそろロザリアは僕のことテオって呼んでもいいんじゃない?敬語もやめて」
「いえ……そんな……私はあくまで王子のご学友という立場ですので……」
「それは愛称で呼べる立場にして欲しいってことでいいのかな?」
「うっ……テオ様……」
「テオ」
「……テオ」
そういうとテオドア様改めテオは嬉しそうに笑った。
美少年の天使のような笑顔は眼福ものだが、やってることは恐喝である。笑えない。
もう諦めて従順な犬に成り下がったほうがいいような気がしてきた…。
下手に逆らおうとして反逆の意思あり、なんて認識されたら目も当てられない。
「今日は不本意ながらロザリアに紹介したい人がいるんだよね」
ふぅ、とため息をつきながら話し始めるテオ。
「紹介したい人……ですか?」
「敬語」
「はいっ!えっと……紹介したい人って誰なの?」
「僕の友人でね、近衛騎士団長の息子で昔からの付き合いなんだ。悪い奴じゃないんだけど……」
近衛騎士団長の息子。ついに来たか。2人目の攻略対象だ。
王子のもとに通っている時点で接触は避けられないと思っていた。
彼、オズワルド・ルーンナイトは父の背中を見て育ち騎士に多大な憧れを抱いている。
そのため王子に側近として紹介された際、自分は彼を守るのだと必要以上に燃え上がってしまうのだ。
愚直で正義感の強い彼は、悪の権化ともいえるロザリアととにかく相性が最悪だった。
正面からロザリアに敵対する唯一の人間で、それ故泥沼に落とされていくロザリアの被害者パート2である。申し訳ない。
彼のストーリーはまさに純愛といった感じで、ヒロインに出会い愛することを知った彼は守るということの本当の意味を知るのだ。
「……でも、不本意なのよね?」
「そう、不本意。いつかは紹介することになると思ってたんだけど、あいつ何か勘違いしてるみたいで……会わせろって聞かなかったんだ」
「はぁ……」
「まぁ君に危害を加えそうになったら容赦なく縛りあげるつもりでいるから安心していいよ」
それのどこに安心すればいいのでしょうか。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「お前がロザリアか」
サラサラの赤い髪に獅子のような金色の瞳でこちらを睨んでくるオズワルド。
さすがロザリアの顔を見るだけで剣に手をかけたくなると豪語していた男。
どうやら私という存在が遺伝子レベルでお気に召さないようだ。帰りたい。
「はい。私がエルメライト公爵家の娘でロザリアと申します」
「オズ、失礼だよ。君は本来なら彼女とは口を利けるような身分じゃないんだからな」
「ふん」
オズワルドは眉間にしわを寄せたまま不機嫌そうに顔を逸らした。
「あの、オズ様……」
「オズワルドだ!!!」
「………オズワルド様? 私が気に入らないのでしたらすぐに退室致しますので……」
だから機嫌を直してね、間違っても剣の錆にしないでね、という気持ちを込めて話しかけるとオズワルドは一瞬驚いた顔をしたもののすぐにまた敵意を剥き出しにし別にいいと答えた。
前世含めて38歳。最近の若い子の考えることはよく分からない。
「そうだよロザリア。退室するならオズの方だ。オズ、君が無理に会わせろって言ったんだろ。あまり彼女に失礼な態度を取るなら2度と会わせないよ」
「なっ……俺は! お前が急にそこの女と親しくしだすから!! 騙されてるんじゃないかと思って……」
「ロザリアはそんな子じゃないし僕だってそこまで愚かじゃないよ」
「そんなのわかんねーだろ!!!」
おっと不穏な空気。
これがヒロインなら私のために争わないで!となるのかもしれないが、構図が悪い女に騙された王子とそしてそれを阻止したい騎士様では完全に私が悪役である。
「お前俺が誘っても全然来ねーし、会ってもその女の話しかしねーし!!! 今までそんなことなかったのにおかしいだろ!!」
主に自分の命を想ってハラハラ見守っていたらオズワルドはそんなことを言い出した。
うーん? ……これはあれでは?要するに今まで友達だった子が急に離れて行って寂しいってことでは?
やたらと敵視されていたのも友達をとられたことによる嫉妬なのではないだろうか。
テオが大人びていて忘れてたが小学生男子なんてそんな感じだろう。やだ可愛い。
「はいストップ!!!」
「……は?」
「……ロザリア?」
にらみ合っていた2人の間に割って入った。
ここは私がひと肌脱いであげましょう!!!
テオと頻繁に会うことになってしまった以上オズワルドを遠ざけるのも危険だしね。
それこそ原作通りになってしまう。
「オズワルド様は仲良しだったテオが離れていって寂しかったんですよね?」
「はぁっ!? 何言ってんだお前!!!」
「うんうん、誰だってお友達に仲間はずれにされたら寂しいに決まってます! というわけで、今度からオズワルド様も一緒にお勉強しましょう、ね!!」
「は!? はぁ!?」
オズワルドの手を取って笑いかけると真っ赤になってしまった。
図星を突かれて恥ずかしかったのか、なにやらあたふたと落ち着かず視線を彷徨わせている。
「………しょうがないから、俺も一緒に勉強してやる……勘違いするなよ!!! 俺は騎士としてお前を見張るだけだからな!!!! 寂しいとかそういうんじゃない!!!!」
「はい! わかってます!!」
赤い顔で言い訳をするオズワルドが可愛くて思わず笑顔になる。
ほっこりしていると握っていたオズワルドの手がテオによってはたき落とされた。
「いつまで手を握ってるのかな?オズワルド」
「にっ握ってきたのはそいつだろ!!」
「あ、すいません」
いきなり手を握るのは淑女としてよろしくなかったか。
テオが呆れた顔でこちらを見ている。
「……だから会わせたくなかったんだ」
「テオ?なんか言った?」
「なんでもないよ」
そうしてお勉強会に参加者が増えたのであった。