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文化祭準備が始まります。

 


 競技大会が終わったと思ったのも束の間、次は学園祭の準備が始まる。

 今はそのためのクラス会議の真っ最中。


 学園祭では劇や展示など、クラスごとで企画しなければならない。

 といっても、みんなで放課後ダンボールで工作したりなんてことがあるはずもなく、使うのは家の力とコネとツテ。

 そして来場するのは学園発行の招待状を持った保護者や有力者達だ。

 つまり、己の力量をアピールする絶好のチャンス。これも社会に出た時の練習なのである。


 クラス委員の取りまとめのもと、うちのクラスは劇をすることに決まった。

 創世記に脚色を加え、より物語として楽しめるようにしたこの世界では定番のストーリーだ。

 ここまではゲームの通り。だけどそこに一石を投じるため、私は手を挙げた。


「はい。私は脚本、演出を希望します」


「えっ……脚本、ですか?」


「はい。従来の台本でも充分評価は得られると思うのですが、このお話は学園祭でも幾度となく演じられてきた題材です。皆さんもそろそろ見飽きているのではないでしょうか?この機会に、創世記の新たな可能性を模索したいと思うんです。よく聞く話としてではなく、私達のクラスの劇として独自性を高めるためにも、脚本を少し改変したい……のですが……どう、ですかね……」


 私の話を聞いていたクラスメイト達が、こちらを向いたままぽかんと口を開けているので段々自信がなくなってきた。

 しまった、1人で盛り上がり過ぎたかと冷や汗をかいていたら、わっと拍手が巻き起こる。


「素晴らしいお考えです!!私感銘を受けました!!」


「流石ロザリア様、小さな時から色々な事業に携わっているだけある発想です!」


「あっ、そうですか……?えへへ……」


 大丈夫かなこれ、公爵家の令嬢に言われて断れないからとかじゃないかな。

 最近自分の立場を忘れ過ぎていてよろしくない。

「面白そう」とか「目立てるかも……」と言った声がちらほらと聞こえるので、一応賛成はしてもらえたようだ。


「……君がそういう話をするときは、何かを企んでいるときだね?」


 私のことをよく知っている隣の席のクラスメイトは面白いものを見つけた顔をしている。

 企むなんて失礼な。私の言ったことに嘘はない、ただちょっと、ちょーっと私的な理由が入っているでけで。


「それで、配役なども決めたいのですが……ロザリア様のご意見は……」


「それは有志か推薦で決めて頂ければ。登場人物は変更するつもりはありませんので」


「かしこまりました。では、主役の英雄役をやりたい方……」


 クラス委員が口にした途端、全員さっと目を逸らした。

 いや、うん、まぁこの役に関してはこうなると思ってたわ。

 キャスティングまで私が決めてしまうのは流石に……と思っていたが、これは私が言うべきだろう。


「……有志がいないなら、私がテオを推薦します」


「え、僕?」


「そりゃそうでしょ。本物の英雄の子孫を差し置いて英雄役を演じる猛者なんて、このクラスにはいないと思うわよ」


「うーん……ロザリアが光の聖女をやってくれるならいいけど……」


 出来るわけあるか。

 光の聖女役はもうまんまヒロインであるルチアのことだ。

 白の神のご加護を授かり、英雄と共に魔王を倒す少女。そして平和になった世界で結ばれた2人は、国を作り王と王妃として末永く幸せに暮らすのだ。

 私だってガチヒロインの前でヒロイン役なんて演じたくないわ。

 悪役令嬢がヒロインに成り代るなんて滑稽すぎる。


「私は脚本書くから嫌よ」


「じゃあ僕も裏方でいいよ」


 いいわけあるか。全員萎縮するわ。

 来客に「王子はどこに?」と聞かれて「あ、裏で小道具やってます」なんて言えるわけない。


「いいじゃない英雄。ご先祖様でしょ、建国して王様になりなさいよ」


「君が王妃になってくれるならね」


 全然折れてくれない。

 ……仕方ない、この手だけは使いたくなかったが……背に腹はかえられない。


「……私のことは、いつかテオが本物の王妃にしてくれるでしょ?」


「……くそ、今のは卑怯だろ……!」


 テオごめん。

 嘘だと分かってるはずなのに、にやけそうになる顔を必死で堪えて鬼の形相になっている。良心が痛む。


「分かったよ、引き受けるよ……!ロザリアは後で覚えておくように」


「はい……すみませんでした……調子に乗りました……」


「え、えーと、英雄役はテオドア様に決定ということで……それでは次に、光の聖女の役を……」


 再び明後日の方向に目を向けるクラスメイト達。

 こんな会話のあとに手なんて挙げられるわけないわよね。本当に申し訳ない。

 推薦させて頂きます。


「……いないなら、ルチアを」


「そんな!聖女なんてロザリア様にこそ相応しいような役、私には出来ません!!」


 ルチアが立ち上がり、珍しく声を上げた。

 いやこの世界にルチアより聖女役に相応しい人はいないわ。私はむしろ真逆の存在だし。

 立ち上がったルチアに歩み寄り、両肩に力強く手をかけた。


「ルチア、落ち着いて聞いて……私の書き上げる脚本は、あなたでなければ演じることが出来ないの。私のためにどうか、光の聖女という仮面を被ってちょうだい!!あなたなら演れるわ!!」


「ロザリア様……そこまで私のことを……!はい!!ロザリア様の期待に応えられるよう頑張ります!!」


「ええ、一緒に頂点を目指しましょう!!」


 手と手を取り合う私達に、教室は再び拍手に包まれた。

 早速茶番を繰り広げてしまった感は否めないが、全体がやる気になったようなので良しとする。


 そして残りの配役が滞りなく決まり、クラス会議が終わった頃、私は学園祭の招待状を手に教室を出た。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 古びた教会、その扉を少しだけ開き、隙間に学園祭の招待状を差し込む。

 私が脚本を書きたかった私的な理由、それは本当の創世記をみんなにも知ってほしかったからだ。

 元から学園内にいるマオ君には必要ないのだが、その劇を観てもらいたくて招待状を持ってきた。

 口で上手く言えない分、これでマオ君の中の何かが少しでも変わればいいなと思う。

 来てくれるかな……そう思った矢先、扉がバタンッと音を立て勢い良く開いた。


「きゃあっ!!?」


「……すまん、加減に失敗した」


 開いた扉の前には、気まずい顔をしたマオ君が立っていた。

 力加減が下手らしい。手じゃなくて魔力を使ってるからだと思うよ。


「びっくりした……おばけでも出てくるかと思った……」


 ポルターガイストには違いないか。

 この扉が外開きだったら、思いっきり顔を打ち付けていたところだ。


 顔を合わせるつもりはなかったのだが、入れと促す視線に従って教会へ足を踏み入れる。

 マオ君は祭壇に腰を降ろすと、静かに口を開いた。


「……それで、ついに現世に別れを告げる気になったか」


「違う違う違います」


「ふ……冗談だ」


 そういえば前にそんなこと言ってたな。

 ブラックジョークをかましてきたマオ君は愉しげに笑っている。

 しばらく見ないうちに、随分と表情が豊かになったものだ。


「今日はね、これ持ってきたの。えっと……学園祭って言って、生徒達でやるお祭りみたいなものなんだけど……私のクラスは劇をやるから、よかったら観に来てくれないかなーって」


「劇……」


 マオ君は差し出した招待状を受け取ってくれた。

 訝しげな目で封筒を眺めている。


「台本を私が書くの。私の知ってる、本当の創世記。受け入れられるかは、わからないけど……」


「……何故、そこまでする?私に関わらず平穏に生きればいいものを」


「……ほら、私がこうしてここにいるのも、真実を伝承するため〜とかかも知れないじゃない?」


 おどけてみせるがそんなのは言い訳だ。

 何故と問われれば、それは完全に私の自己満足でしかない。

 放っておけないから、傷付いたままでいてほしくないから、そして……彼が倒されるところなんて見たくないから。

 正直、末路はともかく私がマオ君のせいでルチアに刃を向けることはもうないと思っている。

 もしかして魔王に会っていたことがバレたとしても、それは私の責任だ。

 だけど、最後の世界滅亡の危機だけはまだあるんじゃないかと疑っている。

 マオ君にそんな気がなくても、創世記の時のような暴走が起きてしまう可能性は捨てきれない。

 原因が分からない状況で私に出来ることなんて、少しでもマオ君の負の感情を無くしておくことだけだ。

 マオ君にとってはただのお節介、大きなお世話。

 だって、結局私は全部自分のために……。


 無意識にしわを寄せていた眉間に、ドスッと指が刺さった。


「あいてっ」


「お前は……すぐ暗くなるな、気を付けろ」


「……ありがとう……でも次はもう少し優しくしてほしい……」


 ふわっと軽くなった心と、ズキズキする眉間に苦笑した。

 この感覚ももう3度目だ。


「用が済んだなら早く帰れ、あまり長居すると神域に連れて行くぞ」


「ふふ、マオ君が優しいの、私もう知ってるから怖くないよ。劇のこと、もし気が向いたら……考えてみてね」


「……気が向いたら、な」


 そっぽを向いて答えたマオ君は、ぶわっと巻き上がった黒い靄と一緒に消えてしまった。

ブックマーク&評価ありがとうございます。

誤字脱字報告大変助かっております。申し訳ありませんでした。


次回はアレンの話です。

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