激闘です。
競技大会の会場仕様に設営された修練場の、観客席の一番上にある本部へとやってきた。
全体が見渡せる実況席には拡声器が置かれている。
これはユリウスが生徒会長に就任した年に作ったものだ。風魔法の応用で音の振動を増幅し、会場の四隅に置かれたスピーカーへと伝えることが出来る。
しかしそんな便利な魔術式マイクも、元の声が小さければ意味がなくてですね。
「司会進行のノーマン・クルーニーです……よろしくお願いします……」
なんでこの人に司会任せちゃったんだろう。
なまじ見通しがいいせいで、ノーマン先輩は沢山の観客に圧倒されいつも以上に怯えている。
「……あれ、ユリウスは?」
「あ、その……ノストラダムス様に……ごはんをあげに……」
「はぁ?」
「ひぃっ、す、すみません!!」
一緒に実況解説をする予定のユリウスの姿が見えないと思ったら、あいつは……。
連れ戻してこなくちゃ。
「おい、腕を引っ張るな!」
「引っ張られるようなことしたのは誰よ!!」
生徒会室で呑気に餌やりをしていたユリウスを捕まえてきた。
あと、カリカリ食べてるノストラダムスは可愛かった。
「お、お待たせしました……では、改めまして……実況解説はロザリア・エルメライト様とユリウス・コールマン様が担当致します……」
「なんで俺が……」
「本来ここに座る予定だったはずのオリヴァー先生があそこではしゃいでるからよ」
会場へと入場して来るオリヴァー先生を見ると、気まずそうにこちらに手を振っていた。
そう、本当ならこの仕事はオリヴァー先生のものだった。
大会とはいえあくまで授業の一環なので、教師が解説をするのは当たり前だ。
それをあの人は駄々をこねたのである。
「アレンー!!遠慮せず倒しちゃっていいからねー!!」
笑顔で手を振ると、アレンも振り返してくれた。
会場に黄色い声があがる。
「実況が片方に肩入れするのはありなのか」
「女子生徒から姉弟愛が見たいとの要望が多かったので……ありかと……」
そして、試合開始のゴングがなった。
まずはお互い様子見のようだ。アレンは魔力の流れを読むのが上手いので、何かに警戒しているのかもしれない。
「えーと……解説のロザリア様……?」
「ねぇなんでユリウスの前にだけお菓子あるの?差別?」
「知るか、置いてあった。欲しいなら勝手に食え」
「わーいやったー」
「き、聞いてください……」
おっといけない、お菓子に目が眩んだ。
慌てて試合に目を戻すと、先に動いたのはアレンの方だった。
氷で無数の槍を作り、オリヴァー先生目掛けて撃ち込んでいく。
「あれは……氷槍×100、くらい……?」
「あそこまでいくと最早別の技名をつけた方がいいんじゃないか?」
終わらない連続攻撃。
オリヴァー先生は自身をぐるりと石のドームで囲い防御している。
「オリヴァー先生凄い!アレンの氷槍岩くらい砕いちゃうのに!」
「それはつまり防げていなければ死んでいたということだな」
確かに。
まぁでも流石にアレンもやばそうだったら寸止めするでしょ。
バキンッと崩れていくドームから、傷一つないオリヴァー先生が現れる。まだ余裕の表情だ。
「いきなりご挨拶だなぁ、まぁお姉さんの前で格好悪いところは見せられないよねぇ!」
「……っうる、さい!!」
次はオリヴァー先生の攻撃。
先程砕けたドームの残骸をアレンに飛ばしていく。
しかし石の塊はアレンに届く前に尽く爆破され砕け散った。
「見て!見て!!うちのアレン凄い!!」
「見えてるから叩くな」
「あの〜……解説を……」
正直もうそれどころじゃない。
可愛い弟の晴れ姿なのだ。あー、なんでビデオカメラ作っておかなかったんだ私!!!
全ての残骸が砕かれると同時に、オリヴァー先生が地割れを起こし会場の床を割った。
多少の損傷なら土魔法で直せるとはいえ、容赦ないなあの人。
アレンはひび割れて足場の悪くなった地面を捨て空に浮く。
「へぇ、そんなことも出来るのか!!いいね!!楽しいよアレン君!!こんなに楽しいのはセレーネとの勝負以来だなぁ!!!」
オリヴァー先生、なんか顔が怖い。
アレンの放つ風の刃を石壁で防御しつつ軽快に避けていく。
ちょこまかと逃げるオリヴァー先生を、アレンが竜巻に閉じ込めた。
しかし内側から炎の渦で壊され脱出されてしまう。
「あれ客席大丈夫なの?」
「い、一応今日のために王宮魔導師の方々に来て頂いてますが……」
「安心したまえ!!そんなヘマをするような使い手じゃないさ!!!安全第一だよ!!!」
会場かち割った人に言われても説得力がない。
オリヴァー先生の放つ火炎放射にアレンの水魔法がぶつかった瞬間、爆発を起こし噴煙が会場を埋め尽くした。
「何が起こったの!?」
「……水蒸気爆発か。恐らく炎は囮で、お前の弟に水魔法を使わせることが目的だったのだろう。そこに超高温に熱した石ころでも投げ込めば瞬間的に蒸発し爆発が起こる」
「ユリウス君大正解、花マルをあげよう。アレン君は魔力と器用さは優れているけれど、圧倒的に経験が足りていないね。先生からのアドバイスだ、相性だけで魔法を選ぶとこういうことになる」
「このっ……!」
アレンが煙を晴らすと、すでにオリヴァー先生の操る鋭利な石に囲まれていた。
「いやぁ!!アレン!!」
「っおい、離れろ間抜け!!!俺の首を絞めるな!!!」
襲いくる石を風を纏い粉々にしていく。
小さな石のかけら一つでも、体に当たれば魔道具が発動しそこで試合終了となる。
嫌な戦い方ではあるけれど、効果的だ。アレンの動きを封じている。
「ユリウス!!どうしようアレンが押されてる!!」
「揺するな……っ貴様は!!大人しく見ていることも出来ないのか!!!椅子に縛り付けるぞ!!!」
応援に熱が入り過ぎて怒られた。
顔を鷲掴みにされ、視界をユリウスの手のひらに覆われる。
「やめてー!!前が見えない!!今いいところなのに!!」
「ふん、いい気味だ。一生そうしていろ」
「うう……解説を……してくださいぃ……」
ノーマン先輩が半泣きになってしまった。ごめんなさい。
どうにかユリウスの手を剥ぎ取って試合の進行を確認するも、常人には視認不可能なレベルの戦いに発展していた。わぁ、妖怪大戦争だ。
「早すぎてわかんない……」
「盆暗」
こいつ……自分だって分かってないくせに。
繰り出される魔法の応酬のなか、アレンが黒い炎を生み出しオリヴァー先生の土魔法を溶かし始めた。
「あ、はい!あれは分かる!魔界から黒い炎を召喚して操る黒炎です!」
「お前の弟は魔王かなにかか?」
邪王です。いや可愛い弟だけど!!
「凄いなぁ!!でも、オリジナルを持ってるのは君だけじゃないんだよ」
オリヴァー先生は最後の一撃に全てを賭けたらしい。
頭上に炎に包まれた岩石が出来上がっていく。
「なによあれ!?」
「オリヴァー教諭のオリジナルで火魔法と土魔法を合わせた極大魔法、流星だ」
流星って隕石じゃん!!天変地異じゃん!!
どう考えても学校の行事で出てくるような単語じゃない。きらきら星じゃないんだぞ。
アレンが怪我したらどうするのよ!!!
オリヴァー先生が手を振り下ろすと、それに呼応して隕石がアレンに降り注ぐ。
「……絶対零度」
アレンがそう呟いた瞬間、周りの空気が凍りついた。
燃え盛っていた隕石までもが氷に変わり、落下することなく動きを止める。
今、アレンが覚えている中で恐らく最強の技だ。
全てを凍らす絶対零度。本人にも負担がかかるのであまり使って欲しくはなかったが、アレンがそこまで本気になれたことを嬉しく思う私もいる。
最早オリヴァー先生の作った隕石もアレンの手中だ。矛先を変えた流星はオリヴァー先生へと墜落した。
「……決まったな」
「ど、どうなったの!?」
舞台は隕石墜落の衝撃で土埃が舞っていて見ることができない。
今、魔道具発動の管理をしていた審判から情報が入る。
「……判定は……引き分け!引き分けです……!」
「え……引き分け?」
「えっと……アレン様が氷を落とすのとほぼ同時に……オリヴァー教諭がアレン様へ土弾を当てた模様です……」
やっと開けた会場は、もうボロボロだった。
最後の隕石のせいで大穴まで空いている。
そしてその辛うじて残った舞台の上で、アレンは悔しそうに拳を握りしめていた。
「……っくそ!!」
「やれやれ、間一髪だったね。歳はとりたくないものだなぁ……」
ブックマーク&評価ありがとうございます。
感想も嬉しくて何度も読み返しております。
アレンは力技でごり押して勝ってきたので戦略とかろくに知りません。
なのでオリヴァー先生みたいな戦い慣れしたタイプだとただの中級魔法でも厄介だったりします。
まぁ本気を出せば会場ごと潰すくらいのポテンシャルはありますが。