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その頃王子様は。

 


 僕はレイジア王国に生まれた王子、テオドア・ラングドールだ。

 物心がついた時にはもう周りから求められるままに王子としての振る舞いを身に付けていた。


 文武両道で礼儀正しく穏やかな笑みを浮かべた完璧な王子。

 窮屈で仕方がなかったが自分は王族に生まれたのだからこうしなければならないのだと、ずっと思って生きてきた。



 そしてやってきた婚約者を選別するためのお茶会。

 いつも通り微笑めば僕を取り囲む令嬢達は皆黄色い声をあげた。

 正直うんざりだ。この中から生涯の伴侶を選ぶなんて、憂鬱でしかない。

 僕の隣に立って彼女達は完璧な王妃を演じることが出来るのだろうか?答えは否だろう。



 ふと視線を向けると1人、王子である自分に全く目を向けないどころか茶菓子に目を輝かせている令嬢がいた。

 あれはエルメライト公爵家の令嬢だったはずだ。

 エルメライト家の令嬢といえばわがままでプライドの高い面倒なご令嬢だと王宮にまで噂が流れてきていたが、あれはわがままというか……。

 自由過ぎるんじゃないだろうか?



 あまりにも噂と違う彼女の姿に呆れよりも笑いが込み上げてきた。

 普段なら嫌悪していたはずの公爵令嬢としては全く相応しくない態度なのに、嬉しそうにお菓子を食べる彼女が眩しくてなぜか目が離せなかった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇



 その後、席を外したと思ったロザリア嬢が一向に帰ってこない。


 王城で事件に巻き込まれたなんてことはないと思うが……体調を崩したか道に迷ったか、とにかく何かがあったのは間違いない。

 探しに行くのも不躾かと思ったが、いい加減ご令嬢に囲まれているのも疲れてきたところだ。

 適当に理由をつけてお茶会を抜け出した。



 探しには来たもののあてがあるわけでもなく、いつもの癖で裏庭まで歩いてきた。

 ここは1人になりたい時によく来る場所だ。

 ふらふらと歩いていると人影を見つけた。黒髪に映える真紅のドレス。ロザリア嬢だ。



「ロザリア嬢……?」



 声をかけると彼女は怯えたような困惑したような顔で振り向いた。

 道に迷ったことが怖かったんだろうか?

 ここがお茶会をしていた中庭とは反対方向であることを伝えると、慌てて頭を下げて走り去ろうしたのでつい咄嗟に手を掴んでしまった。



「えっと……テオドア様?」



 彼女は先程よりもわけがわからないといった顔をしていたが、まだ離してしまいたくはなかったので疑問に思っていたことを聞いてみることにした。



「君は僕の婚約者になることに興味はないの?他の子達はずいぶん熱心だったみたいだけど」



「ありません!! 全く、これっぽっちも興味なんてありません!!! 少しも!!!」



 あまりにも堂々と宣言するものだから面食らってしまった。

 どこの世界に王子に向かって興味がないと断言する令嬢がいるのだろうか。いっそ笑えてきた。

 そして僕は彼女を婚約者にしようと決めたのだ。


 型にはめられた生き方をしてきた僕は自由な振る舞いをする彼女に惹かれた。

 けれど彼女は自分に興味がないと言い切ったのが気に食わなくて、少し意地悪く婚約を取り付けてしまった。

 怯えてる顔も可愛かったなぁなんて、今まででは考えられない思考回路に自分でも笑ってしまう。

 また会える日が楽しみだ。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇





「テオドア様は16歳になったら学園で運命の相手と会うことになるんです!! そのために婚約者はいない方がいいと思います!!」



 あれほど楽しみにしていた再会の日は思ったよりも早くやってきた。

 彼女が婚約を断ってくることなんて想定済みで、どんな理由が出てこようと説き伏せて婚約を承諾させる。それが出来る手腕が僕になければ諦めて別の婚約者を探せ、というのが父である陛下から与えられた結論だった。

 当然僕はその自信があったわけだが、出てきたのがこれである。


 そんな話を聞いてはいそうですかと諦めるとでも思ったんだろうか。

 それとも、それ程までに追い詰められるくらい僕のことが嫌いなのか。

 そんな考えに至って自分でも顔が歪むのがわかった。



「つまり……そんな妄言を吐くくらい僕のことが嫌ってことでいいのかな」


「信じてもらえないでしょうが、テオドア様のことが嫌いなわけじゃないんです!でも、テオドア様にはもっといい方が現れるので私は婚約者になることは出来ません……」



 嫌われているわけじゃないと知って少しだけ心が軽くなった。

 しかしロザリアは頑なに僕の婚約者になることを認めようとしない。

 その表情を見る限り嘘を言ってるようにも見えない。というか、嘘をつくならもう少しマシな嘘をつくだろう。

 つまり彼女は本気で僕の運命の人とやらを信じているのだ。

 ならば証明しようじゃないか。

 僕の運命の相手はロザリアしかありえないということを。

 学園を卒業するまでに君の憂いを晴らしてあげよう。



 そのための前借りとして少し強引に好きだと言ってもらった。

 本心じゃないことを分かっていてもこんなに幸せな気持ちになると思わなかった。

 今はまだ無理やりでも、そのうち君の方から好きだと言わせてみせよう。


 婚約自体は無くしてくれないんですね、なんて彼女の言葉に聞かなかったふりをして、もう絶対に逃がさないと心に決めて手を引いた。

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