第2回女子会です。
「皆様、ようこそおいで下さいました!」
「テオドア殿下に御足労頂けるなど、光栄の至りにございます」
「ロザリア様にアレン様も、どうぞごゆっくりしていってくださいませ」
週末、約束通りクレスウェル家を訪れると、庭から屋敷までの道に使用人がずらりと並んだ、一家総出の手厚い出迎えを受けた。
あからさまに歓迎されている。
「本当に殿下と公爵家の方々が我が家に……!よくやったぞ!!流石は私の娘だ!!」
「偉いわハルオーネちゃん!!!」
「当たり前ですわ!!!!」
両親に褒められてハルオーネは高笑いをしている。喜んで頂けて何より。
娘を褒めちぎっていたクレスウェル伯爵が、ちらりとルチアに視線を移した。
「しかし、こちらのお嬢さんは……」
「ああ、この平民は……」
「ベルハート男爵家の娘で、ルチアと申します。どうぞ宜しくお願いします」
「あ、ああ、よろしく頼む……」
ハルオーネの言葉に被せてルチアが自己紹介をした。
先程まで訝しげな目でルチアを見ていたクレスウェル伯爵は呆気にとられている。
「いま私が紹介しようとしましたのに!」
「すみません、出だしの時点でもう想像がついたので余計なことを言われる前に終わらせようかと」
◇◇◇◇◇◇◇
「それでは、第2回女子会を始めます」
気合の入ったお茶会セットが用意された部屋に通され、それを取り囲むように席につく。
男子諸君は外野なのでひとつのソファに押し込んどいた。
「ロザリア様、私から今回の議題について提案がございますわ。発言の許可を」
「認めます」
「思ってたのと違う……」
ぽかんとした顔のテオが呟く。
どんなのを想像してたのか知らないけど、私達の女子会はこんなんだよ。
「傍聴人は静粛に」
「も、申し訳ありません……」
「気を取り直して、ハルオーネさん」
「はい、私が提案致しますのはズバリ、ロザリア様の好みの殿方についてですわ!」
「俺パス!」
「私もパス!」
恋バナの気配を察知した純情ボーイが逃亡を図った。
私も後を追わせてもらう。さらばだ!
脱兎の勢いで出口へと駆け出すが、座ったままのテオに片手で軽々と捕まった。反射で目の前のオズの服を鷲掴む。
「おっと、ロザリアは参加者なんだから逃げちゃダメだよ」
「いやー!離してー!」
「お前も手ぇ離せ!!俺は関係ないだろ!!!」
「1人だけ逃げようなんてさせるわけないでしょ!!道連れよ道連れ!!」
「……ロザリア、ここにいて」
えーん、なんでこんな力強いのこいつ。
ペンより重いものは持てませんみたいな顔してるくせに。金髪ゴリラじゃん。
アレンも表情はシュンとしてるけど、断ったら扉封鎖する気満々だわ。
「いつもこんな感じですの……?」
「いつもこんな感じですよ」
ルチアは微笑ましいものを見る目でニコニコしている。
見てないで助けて!!!
ひと通り暴れて疲れたので諦めて元の席へと座り直した。
オズだけ解放なんて許すはずもなく、逃げ出すようなら凍らしてでも座らせてとアレンにお願いした。
「ロザリア様は皆様のような素敵な殿方といて何とも思いませんの……?こう、胸がときめいたりとか、どきどきしたりとか……」
「は……?と、ときめく……!?どきどき……っ!?私が!?」
彼氏いない歴24+16歳にはワードのパワーが強すぎる。
心臓がびっくりして別の意味で動悸がしてきた。
「ロザリアにそんなまともな感性があったらこんなに苦労してないよ」
テオうっさい。傍聴人のくせにペラペラしゃべりおって。
私だって乙女ゲームやってきゅんきゅんするくらいの感性は持ち合わせてたわ!!
「私よりルチアの憧れの人はどうなったのよ……」
「私は今、猛省している最中です。自分の身すら守れない足手まといなんて、隣どころか側にいる資格もありません。もう二度とロザリア様を危険に晒すことがないよう、己を鍛えるところから始めます」
あれ、これひょっとして、女騎士フラグ?
ストイックな戦士の目をしている……。
「身を守る術を持つのはいいことだと思うけど……そんなに思い詰めなくてもいいのよ?」
「いえ、これは私の矜持の問題なので。応援してくださいますか……?」
「ルチアが頑張るって言うなら勿論」
「ありがとうございます!すぐにロザリア様のような強い女になってみせます!」
「さ、次はロザリア様の番ですわよ」
「うぅー……嫌だ……もうなんでもいいよ……金銭感覚がまともで賭け事に依存せずお酒を飲んで豹変しなければ……」
「ロザリア様……お願いですからもっと理想を高く持ってください……それは人として最低限です……!」
ルチアが涙目で口元を抑えた。
心なしか全員から同情の目で見られている気がする。
「……では質問を変えて、ユリウス様含む皆様の中から誰か1人を選ぶならどなたですの?」
「え……絶対その中から選ばなきゃだめなの?」
「この中以外はありえないと思いますわ」
「他の選択肢は作らせても貰えないでしょうね」
「なにそれこわい」
って言われてもなぁ……。
私はルチアを口説いていた彼らを知っている。
ていうか私が口説かせた。
だからなんかこう、ヒロインポジを自分に置き換えるとなると、微妙な、微妙〜な気持ちにさせられる。
いや好きでプレイしてたくらいだから推しはいた。
一番顔が好みだったのはテオで、シナリオが好きだったのがアレンだ。
でもなんかんや馬が合うのはユリウスだし……
「意外と長考してらっしゃいますね」
「待ってロザリアどこで悩んでる?何が決め手なの?それ全部叶えてあげるから僕にしよう」
「必死ですわ」
「そういうところが逃げられる原因だと思いますよ」
「……君たち、段々遠慮が無くなってきたね?」
女性陣の言葉の刃えげつないな。
あ、凄い。あのテオがへこんでる。
「……オズはいい旦那さんになりそうよね」
「だっ……!?は!?はぁ!?旦那って……!!」
ちょっとデリカシーがないところはあるけど、絶対浮気とか出来ないだろうし、子供とも仲良いし、家事……はこの世界でやることは無いだろうけど、頼まれたら抵抗なくやってくれそうだ。
「……オズワルド、表へ出ろ。決闘だ」
「ああ!?待て待て落ち着け!!!ただの冗談だろ!?だからこんな話嫌だったんだよ……!!」
「あら、でもいつかはロザリア様だって誰かを選ぶことになりますのよ?まぁロザリア様なら独り立ちも出来そうですけれど……」
いつかは、かぁ。
そうだよね、ずっとこのままではいられないもんね。
みんなも卒業したら就職とか結婚とかで、今みたいに頻繁に会うことは出来なくなるんだろうなぁ。
高校の同級生そうだったもん。
なんか知らないうちに結婚どころか子供までいるのをSNSで知るのが怖くて見ないようにしてたのを思い出す。
つらい、今まさに乙女ゲーやりたい、一生学生みたいな甘酸っぱい恋愛を応援する観葉植物になりたい。
「……急にしんどくなってきた……みんな結婚しても私と遊んでくれなきゃ泣く……」
「しっかりしろ!気を確かに持て!!そんでテオを止めてくれ!!」
それは知らないわ。自分でどうにかして。
真顔でオズに詰め寄るテオを置いて、アレンが私の前に跪いた。
「……僕は永遠にロザリアと一緒にいるよ」
えっ私の弟いい子すぎ……!かわいい……!
今、今キュンとした!!それはそれで心配になるけどありがとう!!
「アレン優勝!!大好き!!」
「当然」
椅子から膝立ちのアレンに飛びついた。
うんうん、やっぱこれよね。私にはアレンしかいないわ!!
私が独り身でアレンがお嫁さん連れてきても一緒に住まわせてくれるかな……最悪な小姑だろうか……。
「結局こうなりましたね……あ、この紅茶美味しい」
「平民のくせにこの味が分かるんですの?私のお気に入りの茶葉ですのよ」
「茶葉のことはさっぱり分かりませんが味は美味しいですよ」
「ふふん、帰りに包んで差しあげてもよろしくてよ!平民如きには手の届かない品ですもの!」
「いいんですか?じゃあ有り難く。お礼にクッキー焼いたら食べます?」
「そ、そんなに言うのでしたら仕方ありませんわね!!食べてあげてもいいですわよ!!」
「喜んで頂けたようで良かったです」
「いいなー私もルチアのクッキーまた食べたい。茶葉はないけどオススメのバターとかなら……」
「ロザリア様にならいつでもいくらでもお作り致します!」
やった!
今度は学園にお菓子とか持ち寄ってパーティーしたいなぁ。
ユリウスにも分けてあげたら生徒会室使わせてくれないかしら。どうせ私物化してるし。
「待てロザリア!!爆弾だけ投下して平然と戻って行くな!!」
「えー、だってそっち傍聴席だし。自力で頑張ってよ」
「そうだよオズ、邪魔しちゃ悪いし僕らは僕らでお話しようか。ハルオーネ嬢、庭をお借りしても?」
「ええ、お好きなように使って下さいませ」
ハルオーネの許可を得たテオは笑顔でオズの肩を叩いた。
多少は悪いことしたなーと思うけど、聞かれたことに答えただけだから許してね。
ブックマーク&評価ありがとうございます。
まだまだ頑張ります。
会話文書いてるのが一番楽しいですね。
ハルオーネちゃんとっても気に入ってます。