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幕切れです。

 


 檻を出ようにも鍵が必要だ。

 腰から鍵を下げていた男はルチアの檻の近くに立っている。

 こっちに誘き寄せなければと声を上げようとすると、ルチアが男の腕を掴み檻の中に引き込んだ。



「なんだ貴様……!」


「この檻、魔力が触れると燃えるんでしたよね」



 にっこりと笑ったルチアが言い終わった途端、檻が燃え上がる。



「ルチア!?」


「があああっ!!!火が!!!この、離せえええ!!!」


「離して欲しければ鍵を渡してください」


「っそんなこと、出来るわけ……!!!」


「ならこのまま私と心中するんですね」



 男は腕を引き抜こうともがくが、ルチアに全身で押さえつけられ燃える鉄格子から離れることが叶わない。

 辛うじて男を守っていたローブに火が燃え移った。


「あああぁ!!!渡す!!渡すから離してくれ!!!」


 パニックになった男がとうとう檻に鍵を投げ入れる。

 素早くそれを拾うと、ルチアは炎を物ともせず鍵を外し扉を蹴り開けた。



「何をしてる!!捕らえろ!!!」


「させるかよ!!ルチア、行け!!」


「はい!ありがとうございます!」



 デリクトラ卿が呆然と見ていた他の手下に指示を出すが、オズがそれを通さない。

 手下達は剣を持ち戦うが敵うはずもなく、次々と倒されていく。

 一目散に来てくれたルチアが私の檻の鍵を開けてくれた。



「ルチアっ!!手、火傷が……!!」


「水魔法で防御してたので大したことはありません。それより、早くアレン様を止めてください!!」


「っ、うん、ありがとう!!」



 無茶をしてまで助けてくれたルチアに感謝して走り出す。

 倒れそうになる足をどうにか前に出し、魔術式と戦うアレンの背中に縋り付いた。



「……っ、ロザリア、危ないから下がってて」


「危ないのはアレンの方よ!!もうやらなくていいの!!早くやめて!!!」


「平気、もう少しだから……」


「もう少しって……!」



 もう少しで完成してしまうってこと!?


 そう思ったとき、突然バキンッと大きな音と共に石板の真ん中に大きなヒビが入った。

 魔術式は光を失い、魔力の残滓だけが時たまパリッとヒビから漏れ出ている。



「え……これ、どういう……」


「魔術式の中に無理やり魔力を注ぎ込んで壊した……はぁ、流石にちょっと疲れた……」



 どうやら許容量以上の魔力を押し込まれてオーバーヒートしたようだ。

 それだけのことをするのに、どれ程の魔力を使うのか……。

 当の本人はちょっと疲れた程度の疲労しか感じていないらしいが。

 とにかく、これでデリクトラ卿の謀略が達成されることはなくなった。


 安心したら気が抜けた……今度こそもう一歩も動けない。



「……よかったぁ……」


「っと、ふふ、よしよし」



 倒れそうになったところを、アレンが受け止めてくれた。

 いつもとは逆に、頭を撫でられている。癒し……。



「……なんてことだ、私の、長年の夢が、これまでの苦労が……!!よくも……よくもやってくれたな!!!この化け物が!!!貴様の姉ごと切り刻んでくれる!!!!」



 激昂したデリクトラ卿が剣をとる。

 他の手下は全てオズが倒した、残るはこいつだけだ。



「そこまでだよ、デリクトラ卿」


「テオ!!……と、ユリウス?なんでここに……」



 デリクトラ卿を捕らえるための準備をしてから来る、と言っていたテオが到着した。

 腐っても高位の貴族である彼に最後の一手を決めるのはテオしかいない。


 そして何故だか一緒に来ていたユリウスが私に近づいて来た。



「これを飲め」


 差し出された手のひらに乗っていたのは、紫色に怪しく光る綺麗な菱形の結晶だった。


「これ……なに?」


「魔力の結晶だ」


「えっ、それってまずいんじゃ……」


「安心しろ、大した量の魔力じゃない。だが今のお前には必要だろう」



 そういう問題じゃないんだけど。

 なんとなく私の状況を察してくれてるのはわかるけど、何の説明もなく飲めって言われて素直に飲むわけがない。



「……なんでユリウスがこんなもの持ってるの?」


「王宮の禁書庫を漁ったら魔力で作った結晶を人体に取り込ませ、人工的に魔力を増大させる禁術の記録が出てきてな。詳しいことは書いていなかったので実践で試そうとしたら、魔力の必要量が多過ぎて発動条件を満たせなかった。なので改良し人体に影響が出ない程度の魔力を結晶化する簡易版を作った。理論上はこの結晶を飲めば魔力が回復するはずだ。よかったな、これも売れるぞ」


「あなたそんなことしてたの……」



 売れるどころか、これは世界を変える発明になるだろう。ていうかそんな簡単に売っちゃダメ。

 特に魔導師なんて魔力のストックを用意しておけるなら劇的に戦略の幅が広がる。

 下手したら戦争が起きる代物だ。

 多分これを試したくて来たんだろうな……目が早く飲めと言っている。


 結晶を受け取って大人しく飲み込んだ。

 ゆっくりと体に魔力が戻っていく。


「どうだ?」


「さっきよりだいぶ楽になった……」


「よし、人体実験も成功だな」


 人体実験言うな。一応信頼して飲んであげたんだからね。

 結果に満足したユリウスはさっさと壊れた魔術式へ関心を移してしまった。


 そうこうしているうちに、テオの方もけりがついたようだ。



「デリクトラ辺境伯、これはお前から身分を剥奪する旨をしたためた書状だ。領地の本邸にはエルメライト公爵が向かった。今度こそねずみ1匹逃がさない。8年前の罪もあわせて償わせてやる」


「くそ、くそっ、くそおおおお!!!!!」



 自棄になったデリクトラ卿は絶叫をあげると、私とアレンに走り寄り剣を突き付けた。



「はぁーっはっは!!!動くなよ虫ケラども!!!こいつらさえいれば何度でも立て直せる!!!私はこんなところで終わるような人間じゃない!!!!アレン・ミリオン、貴様にはあとでたっぷり灸を据えてやる!!!化け物と言えど、あれだけ魔力を使ったあとなら手も足も出まい!!!」



 最後の悪あがきのようだ。

 見苦しい。もうどうやったってここからは逃げられないし、逃す気もない。

 この期に及んでまだアレンを利用する気でいるデリクトラ卿に腹が立った。



「ですってよ、アレン」


「……手も足も出ないというより、手すら出す必要がない、かな」



 アレンが冷たく言い放つと、凍てつくような吹雪が剣を持つデリクトラ卿の腕を凍らせた。



「ああああ!!!!私の腕がぁ!!!!」


「うるさ……ロザリアの鼓膜に響くから黙って。それと、僕の名前アレン・エルメライトだから。いつの話してるわけ?次間違えたら凍死させる」


「ひぃ、冷たい、寒い!!!助けてくれぇ!!!」



 デリクトラ卿は凍った腕を庇うようにしゃがみ込んで助けを乞うている。

 自分はもっと酷いことをしてきたくせに、情けない。


 私もユリウスに貰った結晶のお陰で多少魔力が回復している。

 散々不愉快な目にあわされたのだ、少しくらい意趣返しをしてやらなければ気が済まない。



「あら大変、温めないといけないわね」


「ああ……ああ!!!熱い!!!熱いぃ!!!」



 寒さに震えるデリクトラ卿の頭上から熱湯をぶっかけてあげた。

 氷も溶けたようでなによりだ。喜びでのたうち回っている。

 ……あー、すっとした。



「……えぐいな」


「ああいうとこ、姉弟って感じするよなー」


「ロザリア様に手を挙げたのですから、あれでは優しいくらいです」


「折角渡した魔力を無駄遣いするな、全く……」


 こうして、長かった事件は終局を迎えた。

ブックマーク&評価ありがとうございます!

元気になります!


この話がこんなに長くなるとは思いませんでした。

もう少しだけ続きます。

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