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万事休すです。

 




「さて、出来れば大人しく協力して頂きたいのですが……」


「ふざけないで、お断りよ。沢山の人達を騙して犠牲にした罪を償ってもらうわ」


「騙したとは心外ですな。現に彼らは救われている。恋人を友人に奪われた男に、子供を事故で亡くした母親……私は彼らの憎む人間に相応の罰を与えてやった。世の中には法で裁けない悪もあるのです。私が黒の神に代わって、鉄槌を下してあげたのですよ。魔王にまで堕ちた神に信仰を取り戻してあげたのだから、感謝してほしいくらいだ」


「黒の神は、そんなこと望んでいないわ……」



 彼はむしろ自分が悪役であることを受け入れていた。

 そうあるべきだとすら思っているようだ。

 そんなマオ君がこの自分本位な男のせいで、また謂れのない非難を受けることになってしまった。



「あなたのやってることなんて、悲しんでる人の弱みに漬け込んで正義の真似事をしてるだけじゃない。それはその人達が自分で乗り越えていかなきゃいけないものよ、どれだけ辛くてもね」


「……小娘が、知った風な口を……」


「あなたは崇められてる自分に酔っているだけでしょう?そんな矮小な人間が神に取って代わろうだなんて、笑わせるわ。器じゃないのよ!!」


「っ黙れ!!!私こそが正義なのだ!!!私はいつだって正しかった!!!それを認めない世界など、私の手で壊してやる!!!」



 ……本性を表したわね。

 耳触りのいい言葉を剥がしてしまえば、残ったのは酷く醜い承認欲求だけだ。


「出来れば穏便に済ませたかったが仕方ない、少し痛い目をみせてやろう」


 デリクトラ卿が合図を送ると、どこに潜んでいたのか黒ローブの男達が姿を見せた。

 背中を檻越しのルチアに近付ける。



「……ルチア、なるべく私から離れないで」


「私のことは大丈夫です!!ロザリア様はご自分の身を守ってください!!」


「お友達想いなお嬢様方にひとついいことを教えて差し上げましょう。その檻は特別製でしてね、少しでも魔力が触れようものならたちまち燃え上がる仕組みになっているのですよ。果たして守り切ることが出来ますかねぇ」


「……ご忠告ありがとう。最悪な趣味ね、虫唾が走る。尚更あなた達を倒したくなったわ」



 人数は5人。私でもギリギリ対処できる数だ。

 檻に魔力を触れさせられないというハンデはあるが、昨日散々アレンとオズに対策を練ってもらったお陰で冷静に動くことができる。

 先ずはルチアに害が及ばないよう檻の周りを壁で囲おう。


 そう思って魔力を込めたはずなのに、全身から力が抜けてその場に崩れ落ちた。



「っ、なに……力が……!?」


「あなたが優秀だということは聞いておりましたのでねぇ、早めに魔力を奪わせて頂きました」



 デリクトラ卿の視線の先には、薄暗がりで光を放つ魔術式の描かれた石板があった。

 その後ろには隠れていた6人目。

 やられた……初めからこれを狙っていたのね。



「魔力を吸い取る魔術式……!」


「ええ、お陰様であとは発動を待つのみとなりました。無様なものですなぁ、万全の状態なら切り抜けられたというのに……偉そうな口上を述べておきながら、呆気なく膝をついた気分は如何ですかな?」


「……あなたの過ちを正すのが、私の手じゃなくなることだけが残念だわ」



 にやにやと私を見下ろしていたデリクトラ卿が悔しげに歯をくいしばる。

 乾いた音と共に、頰に鋭い痛みが走った。



「っ!!!」


「ロザリア様!!!」


「……檻に入れろ」



 デリクトラ卿は私に平手を振り下ろすと、そのまま床に投げ捨てた。

 震える足で無理やりに立たされ、檻まで引き摺られる。



「よくも、ロザリア様を……!」


「ふん、貴様はもう用済みだ。賤しい平民の娘が……ああそうだ、良いことを考えました。ロザリア嬢に逆らう気がなくなるように、あなたには彼女の目の前で炎のダンスを踊って頂きましょうか。さぞかし愉快なんでしょうなぁ!!!ははは!!!」


 悔しい、こんな卑劣な奴の思い通りになるなんて!!!

 ルチアのことだけは死んでも守る。

 私の命が盾になるのなら、いくらでもしてやる。


「ルチアに手を出したら舌を噛んで死ぬわ……そうなったら困るのはあなたじゃなくて」


「……あなたにそんな度胸があるのですかな?」



 ルチアの檻に伸ばしかけたデリクトラ卿の手が止まる。

 私が死ねば計画の全てが無に帰すのだ。少しでも可能性があるなら、そう易々と迂闊なことは出来まい。

 魔力さえ回復したら、檻を燃やしてでもここから脱出する。

 それまでどうか、時間を稼がせて……!


 沈黙が続く地下室に、爆音が鳴り響いた。

 階段から吹き飛ばされたと思しき人の塊がバラバラと散らばる。

 その後ろから、血相を変えたアレンが駆け込んできた。



「ロザリア!!!」


「アレン!!」


「悪りぃ、上の連中の相手してたら遅くなっちまった……!!」


「オズ……!!」



 ボロボロなオズの様子から、上は上で結構な戦いが繰り広げられていたことが見て取れる。ここが大詰めだ。

 私が捕まりさえしなければ、終わらせることが出来ていたのに。



「おや、思ったより早かったですな。まぁいいでしょう、ロザリア嬢は既に私の手の中です。さぁ、アレン・ミリオン。姉君の命が惜しければ、その魔術式を発動させ魔力の結晶を取り込むのです」


「言うことを聞いちゃ駄目よアレン!!私のことは気にしなくていいから早くそいつらを倒してルチアを!!」



 オズとアレンならこんな奴らすぐに蹴散らすことが出来るだろう。

 私は多少焦げるかもしれないが、そのくらいどうってことない。

 必死に叫ぶ私の顔を、アレンは悲しそうな目で見つめていた。



「ロザリア……顔、赤くなってる。そいつに殴られたの……?」


「えっ……そうだけど……そんなことより早く……!」


「アレン・ミリオン!!速やかに魔術式を発動させねば次は彼女の身体に消えない傷が出来ることになるぞ!!!」



 痺れを切らしたデリクトラ卿が怒鳴る。

 アレンは未だかつて見たことがない程の怒りの眼差しでデリクトラ卿を睨みつけていた。



「……死ぬほど後悔させてやる」



 その台詞とは裏腹に、大人しく石板の方へと歩み寄っていく。


「待ってアレン!!行かないで!!!そいつはアレンを魔王にして操る気なの!!!」


「……大丈夫だよ、ロザリア。僕が全部終わらせる」


 アレンはこちらを振り向いて安心させるように微笑むと、魔術式に手をかざした。

 激しい光が術式を伝うように輝いている。


「おお……!なんと神々しい……!」


「お願いもうやめて!!!アレン!!!」


 眩い光がその強さを増すごとにアレンの表情が険しくなっていく。

 どうにかして止めなきゃ、このままじゃアレンが……!!

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