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保護されました。

 


 私は再び王宮へと向かって走っている。

 まだギリギリ日は沈みきっていないが直に夜になるだろう。

 比較的大きめの通りを選んで移動しているが、教団の誘拐事件が騒がれているせいで辺りに人は見当たらない。


  「ちょっと、そこのお嬢さん」


「はい?」


 どこからか聞こえてきた声にきょろきょろと周りを見回すと、家の窓からおばあさんがこちらを覗いていた。


「こんな時間に1人で歩いてちゃ危ないわよ、最近ここらでも誘拐事件が流行ってるって言うんだから」


「ご親切にどうも……でも、先を急いでるんです」


「駄目よあなた、そんないい服を着て狙ってくださいって言ってるようなものじゃない。せめてマントを貸してあげるから、玄関にいらっしゃい」


「……すみません、ありがとうございます」



 どうせ既に狙われているのだが、顔を隠すに越したことはないか。

 別の犯罪者を引き寄せても困るし、一般市民を心配させてしまうのも忍びない。


 玄関の前でおばあさんを待つ。

 しかし扉が開いたと思ったら、口を塞がれてあっけなく家に引き摺り込まれてしまった。

 私を引き摺り込んだ男と奥に見える3人は黒いローブを羽織っている。

 教団の人間で間違いないだろう。



「……悪く思わないで頂戴ね、教祖様があなたを欲しがっているの。これは光栄なことなのよ」



 ……なるほど。

 黒の神教は私達が思っていたよりもずっと深く根を張っていたようだ。

 あくまでも犯罪組織ではなく宗教団体だということを考えると、誰が入信していてもおかしくはないのか。

 普段は温厚なおばあさんでも、パン屋のおじさんでも教祖が言えば犯罪者に変わる。


 悪いが私はこんなところでグズグズしている暇はない。

 私の口を塞ぐ男を空気の衝撃波で吹っ飛ばした。


「ぐぁ!!!」


「どうした、何があった!?」


 あーあ、物音をたてたせいで玄関からも新手の集団が入ってきた。

 外にも控えがいたらしい。

 どんだけ厳重な体制なのよ!!!


 合計何人だこれ。10人くらいいるんじゃないか。

 上級魔法を使えば一発だけど、もれなくおばあさんは死ぬな。

 大津波タイダルウェイブは私も溺れるし、灼熱地獄インフェルノはここら一体が火の海になる。

 何で私がこんな気を使ってやらなきゃならないんだ!!!


 とりあえず二階へと駆け上がり部屋の中に立てこもる。

 これならドアの範囲で中級魔法を打ち続けていればそのうち全滅するだろう。

 入って来ようとする男達を突風で押し出した。



「壁に隠れて魔法を撃て!!殺さなければ多少傷付いても構わん!!!」


水球ウォーターボール!!」


土弾サンドショット!!!」



 正面から来る攻撃を風で作った壁で防ぐ。

 中には中級の魔法を使える人間もいるようだ。面倒な。


 人に向かって魔法を撃ったことがないから力加減に自信がない。

 火魔法は家が燃えるから駄目だし、カッター系やランス系は殺しちゃうかもしんないし……。

 ああ、もう!!考えながらなんて戦えない!!!



「初級魔法でいい!!とにかく手数だ!!一斉攻撃を仕掛けろ!!!」



 防御に徹していた私に畳み掛けるように魔法が放たれた。

 咄嗟に土で厚めの壁を張ったが、向こう側からは鳴り止まない攻撃の音がする。

 あ、これちょっとやばいかも。



「ロザリア!!飛べ!!!」



 いざとなったら上級魔法を撃つしかないかと思っていたら、名前を呼ばれた。

 振り返ると窓の下にオズがいる。


「えっオズ!?飛べって、ここ二階……!」


 土壁にぴしり、とひびが入り始めた。

 もうあまり持ちそうにない。悩んでいる暇はないようだ。


「受け止めてやるから早く来い!!」


「っ、信じたからね!」


 覚悟を決めて窓枠を乗り越えた。

 浮遊感に耐えながらオズの腕の中に飛び込む。

 一瞬の衝撃のあと、浮いていた足がやっと地に着いた。


「っはぁ、怖かった……!」


「馬鹿、俺のが怖かったっつーの。どんな気持ちでお前のこと探したと思ってんだ……」


 しっかりと受け止めてくれていたオズは、そのまま私をきつく抱き締めた。

 少しだけ声が震えている。


「……ごめん」


「お前が無事だったからもういい。けど、今度また俺のこと置いてったら許さねぇからな」


「うん、約束する」


 顔をあげたオズと目が合うと、安心したように微笑んだ。



「っと、話してる場合じゃなさそうだな」


「えー、さっきより増えてるんだけど……」



 どこから湧いて出てきたのか、ぞろぞろと団体さんのお出ましだ。

 今度は武器まで持って周りを囲まれている。

 うんざりしていると、また私の足が宙に浮いた。


「わっ、なに?」


「お前はそのまましっかり捕まってろ」


 オズは私を片腕で抱き上げて剣を構えた。


「待ってこれで戦うの!?私降りる……!」


「却下だ。テオ達のとこまで突っ走る!」



 本気で片手で戦う気のようだ。

 諦めて首元に腕を回すと、満足そうにぐっと抱き寄せられた。

 オズは剣に炎を纏う。



「こいつに手を出した礼をきっちりしてやるよ!」



 オズが剣を振ると、炎が地を這い火柱が上がった。

 教団の人間はひび割れた道路の脇で腰を抜かしている。



「何してんの!?」


「なんだよ、道開けただけだ」


「街が壊れてるでしょ!!!」


「しょうがねーだろ、テオがどうにかする。……よっ、と!」



 どこからか飛んできた水球ウォーターボールまで一刀両断だ。

 全然気付かなかった……。


 果敢にも向かってくる男達を軽く払いのけ、オズは走り出した。



「追ってきてるんだけど!」


「そりゃそうだろうな。よし、ロザリア撃て!!お前も頭にきてんだろ?」



 確かに頭にきてるけど……どうしよう、やっちゃう?

 ここ外だし、もうオズが大分破壊してるし。

 やっちゃおうか。


灼熱地獄インフェルノ!!!」


 叫ぶと同時に、道路は端から端まで炎に包まれた。

 追っ手は慌てて引き返していく。

 ごめんなさい、この辺にお住いの皆さん。

 でもレンガ造りだから火事にはならないと思うので許してほしい。


「……ちょっとすっきりしたわ」


「よかったな」





 暫く街を駆け抜けていると、何人かの兵士の姿があった。


「オズ!!ロザリア様が見つかったのか!!」


「ああ、向こうで何人か伸びてるから、回収しといてくれ」


 どうやらオズの知り合いの兵士さんのようだ。

 私の捜索に駆り立てられていたらしい。お手間をおかけして申し訳ない。



「よしきた!お前は早く彼女を安全なところに運んでやれ。落とすなよ!!」


「死んでも落とさねーよ!」



 私を抱き上げる腕に力がこもる。

 兵士さん達は私たちが来た道を戻って行った。


「……ねぇオズ、聞くのが怖いんだけど、私の捜索ってどのくらい騒がれてる……?」


「……俺からは覚悟しとけとしか言えねえな」


「……だよね……」


 全身の力を抜いてオズに身体を預けた。

 このあとの展開のために、今は大人しく運ばれてよう。

ブックマーク&評価ありがとうございます。

励みになります。



「……オズ、重くないの?」


「あー、まぁ鍛錬で使ってる丸太よりは軽……いってえ!!」


「何と比べてくれてんの??ん??」



オズに悪気はありません。

明日もよろしくお願いします。

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