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行方を見つけました。

 


「私の友達のルチアが攫われたの……マオ君なら、白の神の力が宿ってるルチアのこと探せるんじゃないかと思って……」


「……我が半身の依り代であった娘か……力が、というと少し違うな。あの娘の魂の中には神そのものが眠っている」



 白の神は、どのエンディングでも最後まで出て来ることはなかった。

 てっきり力だけを適正のある人間に託して身を潜めているのかと思っていたら、ルチアの中にいたなんて。



「知らなかった……」


「私とあいつは表裏一体だ。光がなければ影は生まれない。逆もまた然りだ。私が封印されたことで、あいつも何かに頼らねば存在を保てなくなったのだろう」


「……それなのに、何で創世記は起こったの?」


「……お前はどこまで知っている」


「えっと……黒の神が……戦いを挑んできた人間の負の感情を取り込み過ぎて破裂寸前だったところに、白の神と英雄が自分を裏切ったと聞かされてそれを切っ掛けに暴走した……って……あっでも、本当は白の神も英雄も黒の神のことを裏切ってなんてなくて……」



 これは魔王ルートのエピローグで語られる創世記の真実だ。

 黒の神と白の神、そしてこの国の王となった英雄は元々とても仲が良かった。

 けれど他の人間にとって、負の感情を司る神は邪魔でしかなかったのだ。

 彼等は自分達の後ろめたい感情を全て黒の神のせいだと押し付けた。

 白の神と英雄はそれを良しとせず黒の神を庇い続けていた。

 しかし誰かが黒の神へ、白の神も英雄もお前を裏切って人間の側についたと吹き込んだのだ。


 それが引き金となり黒の神は魔王に身を落とすことになる。

 暴走してしまった黒の神を鎮めるには、もう封印してしまうしか方法がなかった。

 そして白の神もまた、魔王の封印に自身の力を使い果たし姿を見せることはなくなった。

 残された英雄だけが王に祭り上げられ、宝物庫の奥へ真実をしまい込んだのだ。



「2人とも、仕方なく封印したんだよ……」


「……そうか」


「……暴走したって、本当なの……?」



 私の知っている全てのルートでも魔王は自我を失って世界を滅ぼそうとしていた。

 けれど、今目の前にいるマオ君がそんなことをするとはとても思えないのだ。



「……本当だ。だが本来なら私が自分の統べる力で暴走することなどあり得ない……奴等が私を裏切ってなどいないことだって分かっていた……なのに、何故……今となってはもう、知るすべもない……」


「……そっか……」



 苦悶の表情で語るマオ君に、掛けられる言葉が見つからない。

 私の知っている知識はあれで限界だ。

 何千年も前のことなど調べようもないだろう。



「……せめて、お前の友は救ってやろう。娘の居場所は見つけてやる」



 言い終わると同時に、マオ君が私のおでこを突く。

 瞬間、ふっと心が軽くなった。


「えっ……なんか今……」


「お前の感情を貰った。微かな気配を探るのに力が足りなかったからな。安心しろ、死にはしない」


「そんなこと出来るんだ……」


 先程まで感じていた焦燥や悲哀が少しだけ和らいだ。


 ……黒の神が悪だなんて、誰が言い出したんだろうか。

 これはまるで救いの神のようだ。


 マオ君は宙に手をかざすと、黒い靄のようなものでこの国の地図を作り出した。

 一箇所にだけ、靄が渦巻くように集中している。


「ここだな」


 示された先はヴェリタス通り近郊のお屋敷だった。

 この周辺で犯行が行われていなかったのは、拠点が近くにあったからだったのか。

 人通りが多いことで逆に目眩しになっていたのかもしれない。


 流石にここまで走って行くのは無理だ。

 一度王宮に寄ってテオに相談しないと……。



「随分澱んだ魂の連中が集まっているな……気を付けろよ」


「……マオ君は、もう誰かと関わる気は無い?」



 この質問はしても良いものか。

 だけど過去に囚われて孤独のまま在り続けるマオ君のことが気になった。



「私は人間との戦いで、幾人もの命に手をかけた。ならばこの世界の悪として存在し続けるのは当然の報いだ……人を憎む気持ちがあるのも確かだからな。お前も仲間と共に生きたいのなら、もう私に関わるな」



 マオ君の後ろには、沈みかけの夕陽に照らされたステンドグラスが透けていた。

 友人であったはずの英雄と自身の対であるはずの白の神に断罪された、悪に仕立て上げられた可哀想な神様の絵。



「……1人だけ……異質でいるのは辛いよ……」


「……それは、自分に言っているのか?」



 わからない。

 たまに自分が本当にここで生きてるのか不安になる。

 考えないようにしていても、前世のことは捨てきれないままだ。

 何も言えずに俯いた私の頰に、マオ君の手が触れた。

 重苦しかった胸が楽になる。

 顔を上げると、酷く悲しそうなマオ君の顔があった。



「マオ君……」


「この世界と決別したくなったら、その時はまたここに来い。私がお前をこの世から隠してやろう」



 マオ君はほんの少しだけ、微笑んだように見えた。

 初めて見た笑顔なのに切なげだ。

 自分のことは諦めたように話していたのに、彼の目に私はどう映ったのだろうか。



「……覚えとくわ」


「ああ、早く行け。手遅れになる前にな」



 優しく背中を押してくれたマオ君に別れを告げて、教会を後にした。

ブックマーク&評価ありがとうございます。


マオ君はロザリアのことを別の世界から迷い込んできた可哀想な魂だと思っています。

迷える子羊ですね。

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