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婚約なんてお断りします。

 


 テオドア様とお会いしてから数日、王家から正式な婚約の申し出がきた我が家は再び城を訪れる予定であった。

 が、私はそれを拒否した。それはもう全身全霊で。

 私が処刑エンドからを逃れるために、なによりも重要なことだ。ここで粘らなければのちの頑張りも全て無駄になるかもしれない。



 恥も外聞もなく床に寝そべり婚約なんていやだと泣き喚き、それでもなだめすかそうとしてくる両親にそれならば1人だけでも国から出て行くと窓から身を乗り出したところでようやく折れてくれた。

 とはいえ、王族からの婚姻を一方的に断るわけにもいかないので今日は本来の予定通り王宮を訪れ話し合いをするのである。



「私だってロザリアを嫁になんてやりたくはないさ……しかも王家なんて……折角ロザリアが領地に興味を持ってくれたというのに……」


「あなた、しっかりなさってください。私達はロザリアが幸せになれるように尽力するのみですわ」



 王城に向かう馬車の中で泣き言を漏らすお父様とそれを嗜めるお母様。

 お父様にはもっとしっかりしてもらいたいけど、いい両親だなぁと思う。

 私だって結婚したくないわけではないのだ。相手がすこぶる悪いというだけで。

 あの完璧主義な王子様のことだ。今はまだ幼いからたまたま目に付いた私を婚約者に選んだのだろうが、絶対に後悔するに違いない。



「お父様、ロザリアはずっとおうちにいます」



 領地経営の勉強も楽しくなってきたところだしね。許されるならそれもありだ。むしろ私はそちらを推したい。

 感動で泣き始めたお父様の背中を支えながらお母様が話しかけてきた。



「ねぇロザリア、あなたがどうしても嫌だと言うなら無理強いはしたくないけれど、どうしてそんなに嫌がるのかしら? テオドア様がお嫌いなの?」



「いいえ、テオドア様が嫌なのではないのです。ただテオドア様には他にもっと相応しい方がいると思うだけですわ」



 ヒロインちゃんっていうね!




 ◇◇◇◇◇◇◇◇




 王城に辿り着いた私たちは豪華な部屋に通され王族一家と対面している。

 もちろんテオドア様も一緒だ。こっちを見て手を振るのをやめて欲しい。



「テオドア、ロザリア嬢にお城を案内してあげてちょうだい」


 王妃様が私とテオドア様の退室を促した。

 これは予定通りだ。流石に王子に婚約拒否されてるなんて話を聞かせるわけにはいかないので事前に陛下へ書状を送り、ある程度話をつけていたのだ。


 絶対に回避したかったとはいえ、王族からの婚約の申し込みを拒否できるのかと思ったがお父様はやる時はやる人だった。


 陛下との話し合いはお父様とお母様に任せて私はテオドア様と話を付けなければならないのだ。

 前回は強引に話を進められてしまったが、今回はそうはいかない!

 何が何でもお断りさせて頂きます!



「わかりました母上。ロザリア嬢、行こうか」


「ええ、よろしくお願いします」



 スッとこちらに手を差し出してくるテオドア様。

 まだ8歳とはいえこれぞ王子といった見た目をしているだけあり物凄く様になる。


 差し出された手を取った私はテオドア様と部屋から退出した。




 ◇◇◇◇◇◇◇




 前回私が彷徨った庭まで出てきた私たちは未だに手を繋いだまま歩いている。

 いい加減離して欲しい。



「あの、テオドア様? そろそろ手を離して頂きたいのですが」


「なぜ? 僕達はこれから婚約者になるんだよね?このくらい普通じゃないかな」


「そのお話なんですが! 今日はお断りしに来たんです!!」


「は?」



 ひぃっ! 怖い!!

 笑顔のまま黒いオーラを纏ったテオドア様に手を握り締められた。

 完璧主義なテオドア様は、やっぱり申し込んだ婚約を断られるなんて失態が許せないのだろうか。

 でもこれはあなたのためでもあるんです!



「この間僕はよろしくねって言ったよね? 忘れちゃったのかな?」


「ちっちちち違うんです! これには理由があるんです!」


「ふーん、理由ね」


「はい!! テオドア様は16歳になったら学園で運命の相手と会うことになるんです!! そのために婚約者はいない方がいいと思います!!」



 そういうとテオドア様はその綺麗なご尊顔を盛大に歪めた。セリフをつけるなら何言ってんだこいつ、である。

 こんな形で素のテオドア様を見ることになるとは思わなかった。



「つまり……そんな妄言を吐くくらい僕のことが嫌ってことでいいのかな」


「信じてもらえないでしょうが、テオドア様のことが嫌いなわけじゃないんです!でも、テオドア様にはもっといい方が現れるので私は婚約者になることは出来ません……」



 テオドア様はこの作品のメインヒーロー。

 一番ヒロインと恋に落ちる可能性が高いのだ。

 その時に私がいたら邪魔にしかならないだろう。

 今彼を傷つけてしまうことになるのは心苦しいが、この先にはお互いもっと辛いことしか待ち受けていないのだ。

 ならばここできっちりと決別しておいたほうがいいに決まってる。



「ほんとに?」


「へ?」



 さっきまで苦虫を噛み潰したような顔をしていたテオドア様が今度は心なしか嬉しそうな顔になった。

 未来のヒロインの存在に希望が出てきたのかな?



「僕のこと嫌いじゃないって」



 あっそっちか。

 なるほど、テオドア様としてはこの国に自分のことを嫌ってる人間がいるということが許せなかったのか。



「えっと、はい……嫌いじゃない……です……」


「好きって言って」


「え?」


「嫌いじゃないんでしょ? なら好きって言って」


「いやそれはまた別の話と言いますか」


「言わないなら今すぐ婚約押し進める」


「好きです!!!!」



 強制的に好意を口に出させたテオドア様はそれはもう美しい笑顔を浮かべた。

 ひとりの反抗的な令嬢を躾けられたのがそんなに嬉しかったんだろうか。恐ろしい…。



「ん。ならしょうがないから、学園を卒業するまでは婚約を待ってあげるよ」


「婚約自体は無くしてはくれないんですね……」


「なにか言ったかな?」


「いえ!! なにも!!!」



 満足そうに笑うとテオドア様はまた私の手を引いて歩き始めた。

 ひとまず婚約は延期されたけれど処刑エンドから遠ざかった気がしません……。

 むしろ隙あらば別件でしょっぴかれそうな気がする。前途多難……。

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