救出作戦です。
男を尾行すること暫く、街外れの廃屋までやってきた。
益々怪しい。というか、ほぼ確定でしょこれは。
「アレン、テオに居場所を教えてくれる?」
アレンは頷くと空に向かって発煙弾を撃った。
こんな真似が出来るのはアレンくらいだし、テオなら多分わかってくれるだろう。
「ここで待機すんのか?」
「……出来ればさくっと奪い返したいなーと思っています」
「だよな、言うと思った」
オズは呆れたように笑った。
いつもこうやって私のわがままに付き合ってくれるから感謝してる。
「それはいいけど……ロザリアは僕から離れないで。また走って行ったりしたら怒るから」
「うっ……ごめん、反省してます」
先程は少し考えなしに行動し過ぎた。
追い付いてきたアレンにも散々注意をされたあとだ。
魔法ではその辺の人間に負ける気はしないが、いくらなんでも1人で飛び出したのは良くなかった。
早速テオとの約束を破ってしまったが、どうせ怒られるならキリルの救出もしてしまいたい。
廃屋へ入り耳をそばだてながら慎重に進んでいく。
奥にある部屋の中で、先程の男が仲間と思われる黒いローブを纏った男と何かを話していた。
どうやらここが彼らの根城らしい。
壁際に張り付くように隠れて中の様子を覗う。
「キリル……!」
部屋の中にはキリルを含めて3人の子供が縛られていた。
ドサッと降ろされた麻袋の中にも、気絶させられた少女が1人。
どの子も裕福な家庭の子供には見えないため身代金目的の誘拐ではないだろう。
この国では奴隷は法律で禁止されている。他国へ売るために攫ったのだとしたら、ここで逃すわけにはいかない。
「戻ったか」
「ああ、すんなり捕まったぜ」
「この街の警備も大したことはないな」
余裕そうに話している男達に腹が立つ。
しかし奴らをのさばらせてしまったのは私の落ち度だ。
……決めた。絶対監視カメラ作る。街灯も増やす。あと防犯ブザーとスタンガンと催涙スプレーも作る。
二度とこんな真似させないからな。
「……オズ、どうにか出来そう?」
「あー、倒すだけなら楽勝なんだけどな……」
小声で確認してみたがどうやら難しいようだ。
せめて敵が何かに気を取られでもしてくれたらいいんだけど……。
「じゃあ私が囮になるからその隙に……」
「絶対駄目」
じろりと睨まれてアレンに止められた。
また怒られそうだ。とりあえず様子見を続けることにした。
「深夜になったら運び出すからな、準備しておけ」
「はいよ。全くいくら居ても足りないからなぁ、すぐお陀仏になっちまう」
「已むを得まい。魔王様の礎となれるのだ、こいつらも本望だろう」
どうやら彼らは私が思っていたよりずっと悪質な犯罪者らしい。
それにしても魔王のキーワードがここで出てくるとは。
夏休み前、ダグラスが言っていた話を思い出した。
怪しい連中というのは彼らの一味だろうか。
ひょっとしてこれもシナリオに関わってくるイベントに繋がるの……?
「んー!! んー!!!」
お陀仏という言葉を聞いて、縛られていた子の1人が騒ぎ出した。
「チッ、うるせえガキだ!!!」
「そいつも気絶させておけ」
その言葉で、男は子供を張り倒した。
殴られた子は泣きじゃくっている。それに苛立った男はもう一度、今度は拳をあげた。
信じられない!!!
中途半端な体制でうっかり身を乗り出した。
やばい、バランスが崩れる。
「あっ……きゃあ!!」
やらかした。
ベシャッと音が聞こえるくらい豪快に、部屋の目の前へ倒れ込んだ。
どうせバレるならもうちょっとかっこよく登場したかったわ。
「ロザリア……!」
後ろでアレンとオズが額に手を当てている。
仕方ない、こうなったらもう囮の役を演じるのみだ。
あわよくば正面きってぶちのめそう。うちの領地で舐めたことをしてくれた礼をしてやる。
「なっ……誰だ!?」
「……貴方達こそ、何者かしら? その子達をどうするつもり?」
何事も無かったかのように立ち上がる。
鼻が赤くなってそうだ。
「ふん……我らの崇高な思想が小娘などに分かるものか」
「どこのお嬢様だか知らねえが、見られたからにはお前も一緒に来てもらうぜ」
「まぁ、貴方達如きが私に手を出せるとでも? 滑稽だわ、そのおめでたい頭に教えてあげる。貴方達の掲げてる思想は崇高じゃなくて下劣って言うのよ。一つ賢くなれてよかったわね」
久し振りの悪役令嬢モードだ。
この手の輩は煽るに限る。怒りに任せて突っ込んできてくれる方がありがたい。
周りが見えなくなった連中なんてアレンとオズの敵ではないだろう。
「貴様……! 我らを愚弄するか!!」
「へっ……そんなに言うなら、お望み通りここで殺してやるよ!!」
悪口を言うときは本人の劣っているところより周りの人間を貶してやった方がメンタルにくる。
特にこういう分かりやすく何かを崇拝してる奴なら尚更だ。
効果はてきめんだったようで、簡単に釣れた。
2人とも魔法で攻撃しようというのが見え見えだ。ノーモーションで使えないのなら、いくらでも対処できる。
「火球……がぁっ!?」
「……何ロザリアに手出そうとしてるわけ」
「アレン!!」
魔法で防壁を張ろうと思ったら、アレンに後ろから肩を抱かれた。
アレンはそのまま男が技名を叫び終わる前に空気の衝撃波で壁に叩きつけてしまった。
「くそっ、ならばこれで……!」
「させねぇっての」
黒ローブの男も、行動を起こす前にオズがあっという間に片付けてしまった。
私の出番など全くないまま、誘拐事件は幕を閉じたのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
縛り上げた男達をテオの連れてきてくれた衛兵に引き渡す。
魔王と言っていたのが気になるが、この2人はお父様が直々に尋問してくれることだろう。
そして私はテオに頬っぺたを抓られている。
「君はいつになったら無鉄砲に飛び出していくのをやめるのかな?」
「ごめんなひゃい……」
「今回は子供も含めて無事だったからいいけど、殺されてもおかしくなかったんだよ? 君達だけなら大したことない相手でも、子供を盾にされてたらどうなってたかわかるよね?」
「はい……」
テオの言う通りだ。
下手したら攫われてきた子供達に危害を加えられていたかもしれない。
今回私はそこまで考えることができなかった。
俯いた私の肩に、テオが顔を埋めた。
「本当に、頼むからあまり心配をかけないでくれ……」
「ごめんね、テオ……」
「何かあっても僕が解決するから、ロザリアは信じて待ってて」
「うん……」
ずっと順調に生きてきたせいで、なんでも出来るものだと少し調子に乗ってしまっていたみたいだ。
もう犯罪に軽率に首を突っ込まないと誓おう。
……だからね、そろそろ重りを抱えて正座させられてるオズを許してあげてほしいの。
言い出したのは私なのに、オズはそれを止めなかった罰を受けている。
けれどオズはオズでそれも織り込み済みで私に付き合ってくれていたらしい。頭が上がらない。
早速私のせいで被害者が出た。
今後この事件がどう転ぶのか分からないが、もう少し行動を慎もう……。
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