クイズ大会です。
長期休暇に入ったので人任せにしていた商談へも少しずつ顔を出している。
うちの商会はお客様に直接品物を売るのではなく、商店へ販売する卸業者だ。
今日は大口の顧客様へ注文を取るついでに挨拶にやってきた。
「いやぁ!!! ロザリア様とユリウス様の生み出す商品には驚かされてばかりですよ!! この通り、いつも品薄状態で……!」
ファンタジーな可愛らしい商品棚に家電が並んでる光景は妙な気持ちになるが、そのどれもに入荷待ちの札が下げられている。
人気があるようで何よりだ。
「世辞はいらん。早く注文票を書け」
「ちょっと、ユリウスっ! ……嬉しいお言葉、ありがとうございます。特に反応の良い魔道具や今後の要望などがあれば教えて欲しいんですが……」
商会主及び開発者として少しは慣れてもらおうとユリウスにも同席させたが、いかんせん態度がでかい。
やっぱり置いてくれば良かったとさっきからずっと後悔している。店主さんも苦笑いだ。
「ははは……そうですなぁ、今の時期ですとやはりエアコンを求めてやってくる方が多いですな。あとはドライヤーにそろそろ目新しさが欲しいかと……」
「目新しさ、ですか」
風量を上げたり低温にしたりはもうやってる。
あと思い付くのはマイナスイオンとかだけど……この世界にもあるんだろうか。
「もっと具体的な話は出来ないのか、役に立たん男だな……ぐっ!?」
「あはは……すみません、この男の言うことは全て忘れてください」
ユリウスの脇腹に肘打ちを入れた。
始まる前にくれぐれも失礼のないようにって言ったはずなんだけどね。強制的に黙らせた。
「……貴様っ、あとで覚えておけよ……!」
こっちの台詞だわ。
◇◇◇◇◇◇◇
「もう! だめじゃないお得意様にあんな態度とっちゃ!!!」
「だから俺は行かんと言ったのに、無理矢理連れ出したのはお前だろう!!」
「あんなに酷いとは思わなかったのよ……ん?何やってるんだろ、あれ」
視察がてら街を歩いていたら、中央広場にステージができていた。
結構な人数の観客が集まっている。
受付らしきテントがあったので詳細を聞いてみよう。
「すいません、これ何のイベントなんですか?」
「第28回エステルティア知識王選手権です! 飛び入り参加も受け付けてますよ! あちらが選手の皆様です!!!」
テントの奥には見るからに勉強の出来そうな瓶底眼鏡から血気盛んそうな男まで様々なタイプの人が待機していた。
「へー、初めて見た。こんなのやってるんだ。ユリウス出てみたら?」
「断る。くだらないお遊戯だ」
ここでそういうことを堂々と言うんじゃない。
でもユリウスなら余裕で優勝出来そうだ。
「そんなこと言わずに! 賞品も出るんですよ。あちらが今回の優勝賞品になります」
受付のお兄さんが指した赤い台座の上には、金のトロフィーと精巧な作りの黒い小さな宝箱のようなものが乗っていた。
あれは……!
「ユリウス!! 私あれ欲しい!!!」
「そうか、俺はいらん」
「ちょ、待って、分かったからせめて立ち止まって!!」
私の言葉を一刀両断しスタスタと歩き出すユリウスを全力で止める。
なんとしてもこのイベントに参加しなくては。
「なんだ兄ちゃん、彼女の頼みくらい聞いてやれよ」
「自信がないんでしょう。お嬢さん、私が差し上げましょうか?」
「ははは! お遊戯なんて言っておきながらだらしがねえな!!」
先程の選手達がこちらを見て下卑た笑みを浮かべている。
さっきの発言はバッチリ聞かれていたようだ。
煽り耐性が低いユリウスから血管が切れる音が聞こえた気がした。
こちらに非があるので普段なら止めるところだが、今回は応援しよう。
ありがとう選手の皆さん……そして御愁傷様……。
「いいだろう……気が変わった。その安い挑発に乗ってやる。おい、俺も参加するぞ」
「飛び入りですね! 我々はあなたを歓迎しますよ!! 熱い展開になって来たなー!!!」
お兄さんは呑気なことを言ってるが、熱い展開なんて到底望めないだろう。
そして、クイズ大会という名のユリウスによる蹂躙劇が始まった。
「歴史上最も古いとされる絵画は……」
「デルタール洞窟の葬儀の壁画だな。常識過ぎる」
そんな常識全然知らないんだけど……。
「リストヴァー王国の第18代国王を……」
「スタビリス革命。もう少しマシな問題はないのか?」
いちいち文句言わないと気が済まないのか。
「そ、それでは! 『陽春の詩集』6節にある……!」
「『光の中でしか舞えぬ花弁』か? 舞台女優のカミラ・ハーネスのことだ」
ユリウスって詩集も読むんだ……。
「くっ……! ならカデ……」
「剣の儀式」
「……正解です……っ!」
可哀想に、司会者がついに膝をついた。
「はっ……!? おい!! 今のイカサマじゃないのか!!!」
そう言いたくなる気持ちはよく分かる。
けれどこれが実力なんだよなぁ。
ユリウスは中指で眼鏡を押し上げると、あからさまに見下した顔で解説を始めた。
「……この世界で初めにカデがつく問題に出来そうなワードはカデリーン・アルギスとセイル地方に住むカデナ族だけだ。前者が連続殺人犯であることを考えるとこの場での問いに相応しいのは後者。この一族は外界と接触せずに生きているため詳しい生活などは未知のままだ。しかし一つだけ知れ渡っている特殊な伝統がある。……ここまで言えばあとは猿でも分かるな。逆に聞くが貴様はこんなことすらイカサマをせねば答えられないのか?」
「ど、どうなってんだお前の頭……!」
「次、早くしろ」
「もうありません!あなたが優勝です……!」
司会者が白旗を上げた。
参加者どころか出題者の心まで折ってどうする。
あまりの一方的ぶりに観客も静まり返っている。
優勝したことを知るや否やユリウスは私のお目当ての賞品を引っ掴んでとっとと壇上から降りてきた。
「ほら、賞品だ。受け取れ」
「やった!! ユリウスありがとう!!」
「あの、まだ授賞式が……!」
「知るか」
進行もクソもあったもんじゃない。
ユリウスはもう振り返る気すらないようだ。
ごめんなさい司会者さん……でもユリウスの機嫌を損ねて取り上げられるわけにはいかないので私もトンズラします……!
「……そんなガラクタ集めてどうするんだ」
「ふっふ〜……ガラクタなんてとんでもない! これは相手の好感度を下げることが出来るアイテムなのよ!!」
念願の小箱に頬擦りしてる私を引いた目で見ていたユリウスに教えてあげた。
これはノーマルエンドを回収したいのに好感度が高すぎる! そんな時にお役立ち!
その名も『悲恋の匣』だ。まさかこんなところで出会えるなんて!
「……鍵がかかっているように見えるがどうやって使うんだ」
「え? ……あ」
ゲームでは使いたいキャラを選択すると勝手に鍵が出てきて開けてくれてたから全然考えてなかった。
ガチャガチャと引っ張ってみるが当たり前に開かない。
「……俺の時間と労力を無駄にしたことについて言うべきことがあるな?」
「あっ痛い痛い!!! ごめんすみません私が悪かった許してー!!!!」
いつか、いつか使えるかもしれないし!!
締め上げられてる頭で必死にピッキングのシミュレーションをするのだった。