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選択肢はありませんでした。

 


 ホールを抜けて中庭までやってきた。

 始まりが夕方からだったので空にはもうすっかり月が上っている。


 おー、凄い、満月。

 この世界にも月があるってことは、この惑星の衛星ってことだよね?

 魔法があれば宇宙にも行けるのかしら。


 もう少し開けたところでお月見をしようと中庭の中央、白の神の像が建てられた広場に向かう。


 ……そこには月明かりに照らされた、黒髪の美しい少年が佇んでいた。



「えっ……まおっ……!?」



 本来なら起こるはずのないイベントが発生した。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 ——……その少年は、どこか哀しげで……——


 うんまぁ一回裏切られてるからね。



 ——……漆黒の瞳の奥には憎しみを宿しているような……——


 如何にも全人類を憎んでるからね。



 ——……その姿はまるで、昔聞いたお伽話の魔王のようだった。……——


 そりゃね、魔王様ご本人だもの!!!!



 なぜ!? なんで!? どうして!?

 舞踏会の日、中庭で謎の少年に出会うイベントは魔王ルートへ派生するための選択肢だ。

 ここで『少年に声を掛ける』を選択すると魔王ルートに進むことになる。

 そして私はバッチリ声を掛けてしまった。クイックロードはどこだ。


 このイベントは攻略対象全員を落としてからでなければ解放されることはない、それなのに。

 今日の舞踏会で全員集合して入場させたのが良くなかったっていうの!?


 魔王ルートだけは駄目だ。これだけは駄目。絶対に回避しなければならない。

 一度魔王ルートに入ってしまうと他のキャラを攻略することは不可能になる。

 それだけならいいけれど、そのエンドがまずい。



 封印から完全に目覚めた魔王が白の聖女の力も取り込み世界が滅亡するのがバッドエンド。

 ヒロインが人類を捨て魔王と生きるために黒の女王となり世界が滅亡するのがノーマルエンド。

 目覚めた魔王を愛の力で世界が滅亡する間際にどうにか消滅させるのがハッピーエンド。



 つまり、3分の2の確率で世界が滅亡。よくて半壊。

 折角私が生存したって世界が壊れてちゃ意味がない。


 魔王ルートの魔王様は解けかけの封印のせいで少年の姿で現れる。ようは寝起きの状態だ。

 中途半端にしか目覚めていないので奥底に人間に対する嫌悪や憎悪があってもまだ会話が成立していた……はず。


 いやわかんないわこれ、めちゃくちゃ睨まれてるもん。

 自信なくなってきた、私ヒロインじゃないし。



「なんだ貴様……私を知っているのか……?」


「いえ全く存じ上げません初対面です」


「今、まお……」


「あー!!! いやぁ、親戚のマオくんに似てるなーと思いまして!!! 驚いたなぁ!!! 瓜二つだわ!!!」


 お願いだから私に余計な情報を与えないで!!!

 このイベントにおける私のスタンスは無関係のままやり過ごす一択だ。


「……やかましい奴だな」


 魔王様は眉間に皺を寄せた。

 迂闊なことを言おうものなら消される雰囲気だ。


 魔王と相反する白の力を持つルチアだからこそ嫌でも惹かれあい物語は進んでいくが、私ではただの憎んでる人間の1人に過ぎない。未来の捨て駒だし。

 どうしよう……殺られる前に殺っとく……?



「貴様、奇妙な気配がするな。まるでこの世界のものではないような……」



 本調子じゃない今のうちに……と不穏なことを考えていたら思いっきり核心を突かれた。

 一応神様だし魂の気配とかに敏感なのかな。



「まぁ、そうなんでしょうね」


「……人間か?」


「人間です!! 人間ではありますよ!!! 多分!!!」



 まさか魔王に人外扱いされるとは思わなかった。

 断言出来ないのが悲しいところだが流石に人間を辞めたつもりはない。



「……そうだな、どうかしていた」



 魔王様は突き放すような表情で私の横を通り過ぎた。

 その表情が気になって、そのままどこかへと歩き出す魔王の背中に声を掛けてみる。



「私がこの世界の人間じゃなかったら、また話してくれますか?」


「……人なんて皆同じだ」



 少しだけ振り返った魔王様はそう言うと夜の闇に消えていった。

 なんだろう、思ってたよりも……寂しそうだ。



「ロザリア様?」


「ひょあっ!?」


 危なかった!! 間一髪!!!

 ここで魔王様とルチアが出会ってたら世界の崩壊待った無しだった。


「ご、ごめんなさい、そんなに驚かせてしまいましたか!?」


「あっ、違うの、大丈夫、ちょっと気が抜けてて……ルチアも気分転換に?」


「はい……ご一緒してもよろしいですか?」


「ええ、少し歩きましょうか」


 ルチアと並んで雑談をしながら中庭を歩く。

 夜の庭というのも中々風情がある。



「ルチアは今日誰と踊ったの?」


「私ですか? 誰とも踊ってませんよ」


「えっ、でも一回は踊れって……」


「ふふふ、先生も全員が踊ったかなんて一々チェックしたりしていませんよ」



 なんつー強かな。オズも少しは見習えばいいのに。

 しかしこれで本格的にルチアがどのルートに入っているのか分からなくなってしまった。

 本来はありえないはずの魔王まで出てくるし……。

 もう私の知らない、全く別のエンディングへと向かっているんだろうか。



「踊らない舞踏会って退屈じゃなかった?」


「そんなことないですよ。ロザリア様が踊っているところを見ながらご馳走を頂いてましたので」


「えっいいな!! 私もそっちがよかった!!」


「ロザリア様の分はちゃんとアレン様が取り置きしていましたよ」


「ほんと? 流石アレン!! 戻ったら一杯褒めよう」



 突然、ルチアが足を止めた。

 振り返ると彼女は何かを考えるように俯いている。



「ルチア?」


「……いつものロザリア様、ですよね」


「……どうかした?」


「すみません、テオドア様に様子が変だったとお聞きして……」


「もしかして探してくれたの?」


「少しだけ……」


「ごめんね、心配かけて。でももう大丈夫だから」


 いらぬ心配をかけていたらしい。

 テオにも悪いことをしてしまった。あとで謝っておかなきゃ。



「……ロザリア様、前に私が必要だって言ってくださったの、覚えていますか?」


「え? ええ、もちろん覚えてるわ」


「私、あのとき凄く嬉しかったんです。ここに居てもいいんだって認められたみたいで……ロザリア様は私が辛かったときに手を差し伸べてくれました。今の私があるのはロザリア様のおかげです」


「そんなこと……」


「あるんです。だから私も、ロザリア様が困ってるなら助けになりたい。私もロザリア様みたいに強くなりたいんです」


「ルチアは充分強いと思うけど……ありがとう。何かあったらお願いするわ」


「……はい! 頼りにしてくださいね!」



 私は確かにルチアが必要だと言った。

 けれどそれは……全部自分のためだったのに。



「ロザリア様、そろそろ戻りましょう?皆さん待っておられますよ」


「……そうね」


 再び舞踏会へと足を進める。

 考えるのはやめにしよう。私は今を楽しむって決めたんだから。

ブックマーク&評価ありがとうございます。

やる気に繋がります。


魔王ルート解放の条件は攻略対象全員攻略。

ロザリアはばっちりクリアしちゃってますね。そういうことです。


明日から諸事情により少し更新が遅れるかもしれないです。詳しくは活動報告にて。

なるべく毎日更新がんばりたいです。

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