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ダンスのお相手を致します。

 


 ユリウスの尊大な挨拶も終わり、本格的に舞踏会が始まった。


 一曲目は生徒会長が下級生の見本として参加するのが伝統らしい。

 ここはひとつ、ユリウスよりも経験豊富な私がリードしてやるかと意気込んでいたのに、ユリウスは曲が始まると自然にステップを踏み出した。



「うそ……! 普通に踊れてる……!?」


「当たり前だ。貴族の嗜みだぞ」


「だっていつも舞踏会なんて参加しないから……てっきり運動音痴のド下手くそなんだとばかり……」


「ほう……いい度胸だ」



 驚愕のあまり少しストレートに言いすぎたようだ。ユリウスは青筋を浮かべている。

 腰に回されていた手にグッと力を入れたかと思うと、そのまま私を振り回すようにターンをきめた。



「きゃああっ!?」


「はっ、公爵家の娘がこのくらいで悲鳴をあげるとはな。そんなことでよく人のことを言えたものだ」


「いやっ、だって今、足浮いてっ……きゃあ!!」


 握られている手を引かれては体を預けるしかない。

 されるがままにぐるぐる振り回されている。

 こいつ……下級生の見本はどうした……!


「精々しがみついていろ」


 言われなくてもそうする。するしかない。

 驚く私に気を良くしたユリウスの急回転乱舞が止まることはなかった。



「おぇ……吐きそう……」


「ははは!!! 中々楽しめたな、わざわざ来てやった甲斐があったようだ。俺は帰るぞ」


 三半規管をやられた私を放置して上機嫌なユリウスは高笑いをしながら帰っていった。

 もう二度とユリウスとは踊ってやんない……!



「ロザリア、立てる?」


「アレン、大丈夫よ、ありがとう……」



 次のパートナーであるアレンが手を貸してくれた。また、次の曲が始まる。



「だから断れば良かったのに」


「そういうわけにはいかないわ。一応生徒会長としての役目で来てたんだもの……一応」


 いや、やっぱり断ってやれば良かったかも。

 少なくとも次はないと思えよあいつめ。


「役目を果たしてるようには見えなかったけど……」


「……そうね……暫く忘れられそうにないわ」


「……飛ぼうか?」


「飛ばんでいい! 今の話の何を聞いてたのよ!」


「忘れさせてあげようと思って」


 アレンは悪戯っ子のような顔を近付けてきた。


「そんな顔してもダメなんだからね」


「残念」


 全然残念そうに見えない。

 ダンスを踊っているときのアレンは心なしかいつもより表情が緩んでいる気がする。



「……もうすぐ曲が終わるね」


「そうね」


「……他の奴になんて、渡したくないのに」


「ちゃんと帰ってくるから、少しだけ待っていて」



 ダンスが終わると同時に倒れ込んできたアレンを受け止めた。

 一応聞き分けてくれたみたいだけど、結構拗ねてるわこれ。



「はぁー……離れたくない……」


「ふふ、またあとでね」



「おーい、ロザリア借りてくぞー」



 3曲目はオズの番だ。

 相変わらずリードする手付きがぎこちない。



「…………」


「…………なんか喋ったら?」


「……なんかってなんだよ」


「なんでもいいけど……ほんとにダンス苦手ね、オズは」



 ダンスが始まってからずっと固い表情で無言を貫くオズに笑ってしまった。

 昔よりはマシになったが、まだ会話をする余裕はないようだ。



「……どうかした?」


「いや……お前は笑ってる顔が一番いいなと思って」



 オズがそんなことを言うなんて。

 思わず目をぱちくりさせてしまった。



「ふふん、じゃあずっと笑っててあげる」


「ああ、そうしてくれ。俺もお前がずっと笑っていられるようにする」


「ならダンスくらいもっと上手になってよね」


「……うるせー、俺だってお前相手じゃなきゃもうちょっと出来んだよ……」


「え? それって……」



 曲が終わった。

 オズはどこかほっとした様子で笑っている。



「ほら、次テオの番だろ。早く行かねえと俺がどやされる」


「……うん、じゃあね」



 オズと別れると、すぐにテオが私を見つけてくれた。



「お手をどうぞ、お姫様」


「笑っちゃうからやめてよね……」


 苦笑しながらテオの手をとった。

 本日最後のダンスが始まる。



「いいね、君が最後に僕の手の中にいるっていうのは悪くない」


「なに急に……」



 妙に含みのある言い方をするのはやめてもらいたい。

 面倒だから私はここで切り上げるってだけなのに、大袈裟な物言いだ。



「君とこうして2人だけで話すのも久しぶりだと思ってね」


「そうね、絶対誰かしらは周りにいるから」


「初めて会ったときのままなら、今も独り占め出来てたんだけどな」



 いつかのお茶会を思い出した。

 思えばあれが全ての始まりだった気がする。



「……ロザリアは、まだ僕のことを信じる気にはならない?」


「え……?」


「今も運命の人は君だけだと思ってるよ」


「……それは……」



 テオは繋いでいた私の手を引き寄せ口付けた。



「僕は本気で君を手に入れたいんだ」



 ———……ルチア、僕は君を手に入れたい……———



 いつか見たゲームの画面が、フラッシュバックした気がした。


「ロザリア……?」


「……ごめん。少し、外の風にあたってくるわ」


 ここは現実で、だけど前世の私にとっては架空の世界だ。

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