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王宮のお茶会です。

 


 屋敷中の使用人に聞いて回り風と土魔法のについても研究してみた。

 まぁ見事になんとなく、という感想ばかりだった。

 どうにか質問責めにして聞き出した情報によると、土魔法は下から上に突き上げるように、風魔法は吹き抜けるようにといった感じである。

 土魔法はなんとか成功したが、風魔法は水魔法と混同して中々うまくいかない。

 どうにかこの辺の差もうまく言葉にできるといいんだけど。



 そうこうしているうちに今日はいよいよ王子とのご対面の日である。

 といっても一対一で会うわけではなく王家主催のお茶会、と言う名の王子の婚約者選考会だ。

 何度も行きたくないと駄々をこねてみたが流石に王家に逆らうことが出来るはずもなく、現在マリー率いる使用人部隊によりドレスアップされている。



「お嬢様の美しい黒髪に真紅のドレスがとってもお似合いですわ」


「アクセサリーはシンプルにして頭に大きめの薔薇を飾りましょうか?」


「そうね、それがいいわ。お嬢様はお美しいですから着飾らせ甲斐があります」


「はは……ありがとう……」



 意気揚々と身支度をしてくれてとてもありがたいのだが、すでに少々げんなりしてきた。

 ロザリアは確かにきつい顔立ちではあるが間違いなく美少女なので着せ替え人形のようにあれやこれやとおもちゃにされている。


 それにしても真紅のドレスとは。

 ゲームの中のロザリアのトレードマークと言っていいほど毎回身につけていた色だ。

 いかにも悪役令嬢といった出で立ちである。



 私の前世の記憶が蘇った日から色々と考えてはいるけれど、やっぱり攻略対象たちには極力近付きたくない。

 特に王子の婚約者になんてなった暁には処刑待ったなしだ。

 どれだけ良好な関係を築こうとヒロインに会った瞬間愛に狂わないとも限らない。



 ヒロインが誰ルートに入ることになるのかわからないが備えあれば憂いなしだ。

 誰とも関わっていなければ何か騒ぎがあってもモブA、なんならBくらいのスタンスを貫けるはず。

 そのために今日のお茶会では王子よりも壁とか木とか茂みと仲良くなろう。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 


「テオドア様は普段どのように過ごされているのですか?」


「テオドア様、是非うちの領地に遊びに来てくださいませ」


「テオドア様は家庭教師はどなたに教わっているんですの?」



「ふふふ、そんなにいっぺんに質問されても答えられないよ、1人ずつ、順番に、ね?」



 きゃあああ!!! と色めき立つ女の子軍団に囲まれている金髪碧眼の王子、テオドア・ラングドール様はキラキラと効果音が聞こえそうな微笑みを浮かべている。


 王子ルートは周囲から完璧な王子を求められ強迫観念のようになっていたテオドア様がヒロインによって少しずつ本来の自分を取り戻していくストーリーだ。

 テオドア様は婚約者のロザリアのせいで女性嫌いになり、ロザリアと離れたくても王族として政略結婚を拒否することも出来ず己を殺して生きていた。

 彼こそ間違いなくロザリアの1番の被害者である。


『あの女と結婚しなければならないことは生まれてきたことを後悔するくらいの絶望だ』とは作中のテオドア様のセリフだ。



 それにしてもテオドア様は流石の人気だ。

 関わらないようにするぞ! と意気込んでいたものの、これでは関わるほうが難しそうである。


 そもそもゲームのロザリアは家の力を振りかざし他の候補に嫌がらせを重ね、無理やり婚約者の座を奪ったのだ。

 家柄的に他の子よりも有利ではあるかもしれないが、公爵家は何もうちだけではない。

 私は興味ありませーんって顔して放っておいたらあの中の誰かに決まるんじゃないだろうか。


 ヒロインに王子をとられるかもしれない婚約者の子は気の毒だが普通にしていれば王子はいい人だから、悪いようにはされないだろう。


 なんだ、心配して損した。

 王家御用達のお菓子を堪能しよう。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「迷った……」



 やってしまった。時間を遡ること15分前。

 ほっとしたらお腹が空いた私は王宮で出される珍しいお菓子をそれはもう思う様味わった。

 お家で出されるお菓子も公爵家だけあってとっても美味しいのだが、流石王宮。レベルが違った。

 しかも、普段のおやつと違って好きなものを好きなだけ取れるビュッフェ形式なのでここぞとばかりに食べました。ええ、我を忘れて。



 おかげさまでお手洗いに行きたくなった私は足早にトイレに案内してもらい来た道を忘れ今に至る、というわけである。

 いや、王家広すぎない???

 8歳の子供が1人で歩ける広さじゃない。

 庭でお茶会をしていたので外っぽいところを目指して歩いてみたらまた別の庭が広がっている。遭難した。



「ロザリア嬢……?」



 可愛らしい少年の声に呼ばれ振り返った。振り返らなければよかった。

 油断していた……。最も会いたくなかった人物と、よりにもよって1人の時に遭遇するなんて。



「テオドア殿下……」


「ロザリア嬢がなぜここに?ここはお茶会をしている中庭とは反対方向のはずだけど……」


「もっ申し訳ありません! すぐに立ち去りますので!!」



 立ち去りたい。とにかく立ち去りたい、今すぐに。

 自国の王子に失礼かもしれないが、こちとら命がかかっているのだ。

 王子にとっても私は害にしかならない。

 ロザリア? そういえばそんな奴いたな〜くらいの認識でいてほしい。

 折角ここまでノータッチできたのに!

 貴族の令嬢にあるまじき雑なお辞儀をして踵を返した。



「待った」



 とっとと退場しようとしたのに手首を掴まれた。



「えっと……テオドア様?」


「君は僕の婚約者になることに興味はないの?他の子達はずいぶん熱心だったみたいだけど」



 離して欲しいという気持ちを込めて振り向いたのだが、王子は構わず喋り始めた。


 これは…逆にチャンスなのでは?

 ここで婚約者になる気は無いということをアピールできれば、処刑エンドから遠ざかるかもしれない。



「ありません!! 全く、これっぽっちも興味なんてありません!!! 少しも!!!」



 意気揚々と宣言したが勢い良すぎたかもしれない。

 あっやばい王子ポカーンてしてる。



「ふっ……はははっ。そんなにきっぱり言われると流石に傷つくんだけど」


「すっ、すみませんご無礼を……!お許しください……!」



 ひえ………。

 これ下手すると学園に入学する前に処刑されかねないのでは……。

 なぜこうも死亡フラグばかりつきまとうのだ、私の人生。



「ははっ……無礼か、そうだね、無礼を働かれちゃったなぁ」


「うぅ……申し訳ありませんでした……」


「許してほしい?」


「え……? はい……それはもう……」



 ねちっこい、ねちっこいぞ。

 こっちはもう土下座する勢いで頭下げてるんだから、さっさと解放するなり罰するなりして欲しい。

 あとさっきからなんか笑顔の圧が凄い。



「なら僕の婚約者になってもらうよ」


「は……はっ?え??聞き間違えでしょうか今とんでもない幻聴が」


「僕が君を婚約者にすると言ったことなら幻聴じゃないよ」



 とんだ爆弾発言である。結局ここに着地するのか。

 婚約者になる未来を回避しに来たのになぜこんなことに。



「嫌です!!!! 無理です!!!! 断固お断りします!!!!」


「ふーん……傷ついたなぁ、さっきも全力で拒否されたし……傷心のあまり父である国王に君のことを話してしまいそうだなぁ……」



 こわい!!権力をフル活用しようとしてくる!!

 なんなんだこの8歳!!!!

 ていうか、ゲームと性格全然違わないか?私の知ってる王子はもっと悲壮感を纏った儚い系イケメンだったのに!!抑圧される前はこんな性格だったの!?

 ならちょっとは抑圧されてて欲しい!!!



「ひっ卑怯ですよ!!! 脅すつもりですか!? 大体なんで私なんですか!!! 他にもっと素敵なお嬢さんがいっぱいいたじゃないですか!!!」


「うーんなんでかな? 僕は君が気に入ったみたいだ

 僕よりも茶菓子にご執心な君がね」


「見てたんですか!?」


「そりゃあね、あの場でクッキーをバクバク食べてる子供なんて君ぐらいだったから…あっ思い出したらまた笑えてきた」



 そう言うと王子は俯き口元を押さえて震えだした。

 これもう怒ってもいいやつかな? バカにされてるよね?



「はー苦しい……じゃ、そういうわけだから、これからよろしくね」



 ひたすらお腹を抱え笑い続けた王子は茫然とする私をおいてそれだけ言い残しさっさと歩いて行ってしまった。

 やっぱり国外に逃亡するしかないかな……。

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