舞踏会が始まります。
「いずれ婚約者になられるテオドア様に決まってるじゃない!」
「いえ、オズワルド様のあの初々しい感じも捨て難いわ……」
「あの方にだけ心を許してるアレン様が1番よ!」
テスト期間も終わり、1年生を歓迎する舞踏会の開催が目前に迫った教室は浮き足立っていた。
この舞踏会は1年生同士親交を深めるための催しでもある。
ご令嬢方はエスコートをしてもらうパートナーの話で持ちきりだ。
特に先程から聞こえてくる名前はこの3人ばかり。
「やっぱりみんな人気者ね」
「今のは全てロザリア様のパートナー候補のお話だと思いますが……」
「え? なんで私?」
「ロザリア様も同じくらい人気がありますから」
「こいつにそんなこと言っても無駄だぞ」
「……ロザリアは知らなくていいよ」
ひょっとして私がモテてる3人を独占すると思われてるのか?
いつも一緒にいるからなぁ。でも今回は3人の相手を譲るわけにはいかないので許して欲しい。
「そんなことより……」
はいドン。
「好きな人を選んで」
取り出したのはお手製フリップ。
書いてあるのはもちろんテオ、オズ、アレンの名前だ。
この舞踏会は全シナリオ共通で、ここで誰のイベントが発生するかでルチアが現在誰ルートに進んでいるかが分かる。
しかし問題は本来ならルチアは舞踏会に参加できないということだ。
ロザリアがルチアのドレスをビリビリに引き裂き、とても参加できる状態ではなくなるのである。
例えばテオなら裏庭で制服のルチアと踊ったり、オズならルチアを慰めたりといったイベントが起こるはずなのだがさすがに公爵家の令嬢が贈ったドレスを引き裂く猛者はいないだろう。
つまりイベントが起こりようもない。ならば自主的に選んでもらおうというわけだ。
いやぁ、ロザリア結構重要な仕事してたのね。
「ロザリア様がいいです!」
「え〜私も好き……ってそうじゃなくて!! 舞踏会のエスコートよ!!」
「エスコートですか……? 今回は学校行事のお祭りみたいなもので、同伴必須ではないとお聞きしたので1人で入るつもりだったんですが……」
「えっそんな」
「勝手に名前をあげられても困るんだけどね」
隣の席で話を聞いていたテオが文句を言ってきた。
あんた達が頼りにならないから私が頑張ってるっていうのに!
「いいじゃない、どうせパートナーいないでしょ?」
「僕は君になって欲しいな」
「私? 私は無理よ。もう一緒に行く人決まってるから」
「……は? 誰」
「ユリウス。生徒会長だから上級生代表として挨拶しなきゃいけないんだって。去年は副会長に押し付けたらしいんだけど今年はそうもいかなくなったらしくて、頼まれたの」
ユリウスも本来ならこの舞踏会には参加するはずのないキャラクターだ。
ルチアの選択肢に入れても良かったが、今まで一度たりとも社交界に顔を出したことのないユリウスのパートナーを務めるのは流石に酷だろうと思って私が引き受けることにした。
どうせ義務として一曲踊ったら帰るって言ってたし。
「聞いてないんだけど……」
「聞かれなかったから」
「なら次の相手は」
「アレンよ」
「……3番目」
「オズ」
「……すまん、テオ……先生が全員一曲は踊れって言うから……!」
「はぁ、僕が最後か……こんなに出遅れるなんて……」
みんな私に集中し過ぎでしょ。
モテるのにそんなに相手がいないのかしら?
項垂れているテオを尻目に、話を戻すことにした。
「で、ルチアはエスコート誰がいい?」
「えっと……よかったら皆さんで一緒に……ではダメですか?」
「いいけど……いいの?」
「はい!」
結局全員会場となる学園の大ホール前で一度集合することになった。
このゲームにはハーレムエンドは無かったはずだけど……状況が変わったことでエンディングにも変化が起きたんだろうか?
◇◇◇◇◇◇◇
「ルチアかわいい! 似合ってる!!」
「ロザリア様も素敵です!」
今日は舞踏会、つまりルチアと一緒に作ったシルクドレスお披露目の日だ。
ルチアのピンクブロンドの髪に合わせた淡いピンクとクリーム色のドレスが良く似合っている。
私はいつも通り真紅のドレス。結局これが一番しっくりくるのよね。
お互いの胸元にはバラの刺繍が入れてある。お揃いまでは出来なくても何か同じ意匠を取り入れたいねと話して入れたものだ。
女の子の友達がいるだけでドレスを着るのがこんなに楽しくなるなんて……!
「相変わらず騒がしいな」
「おぉ……!」
コールマン家の馬車から正装のユリウスが降りてきた。
初めて見たけどなかなか様になっている。
「やぁ、ユリウス。まさか君がロザリアをエスコートする日が来るなんて思いもしなかったよ」
「別にしたくてするわけじゃない。都合が良かっただけだ」
順番を最後に回されたテオがずいっとユリウスに食ってかかった。
都合のいい女だと思われてたんかい。
いやいいけど、もうちょっと言い方考えてくんないとテオがキレる。
「そんな男に……! 僕は負けてっ……!」
「もういいからさっさと入って! ルチアのことちゃんと見ててね!」
「……ロザリア、またあとでね」
面倒なことになる前に背中を押して送り出した。
本当に全員ルチアをエスコートする気がさらさらないな……。
ルチアもルチアでスタスタと先陣を切って歩いている。強い。
「ふぅ、さて」
「俺達も行くぞ」
すっと差し出されたユリウスの手。
「ふふっ……似合わな……あっ待って!! 今日はそれやめて!!! お化粧崩れちゃうから!!!」
あっぶな、あまりにもユリウスらしくない行動にうっかり笑ったらまたアイアンクローをかまされるところだった。
「俺は別にお前の顔がどうなろうが構わんがな」
「私は構うの!! ユリウスが帰ったあともダンスの相手がいるんだから!!!」
「なら黙って手を取れ」
再び差し出された手を、今度は大人しく取ることにした。
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