試験勉強です。
試験の時期がやってきました。貴族の学校とはいえ学生とテストは切り離せない関係のようです。
私は中々優秀なのでわざわざ試験勉強をしなくても平均以上は余裕でとれる。
けれどそんな甘っちょろい考えを許してくれない男から、放課後生徒会室への出頭命令が降ったのだ。
「私もご一緒してよろしかったんでしょうか……」
「いいのよルチア。というか、むしろ人数を増やしてユリウスの気を分散させたいわ……」
◇◇◇◇◇◇◇
「むりむりむりむりむり……脳が覚えることを拒否してる……」
目の前にあるのは積み上げられた教科書、参考書、過去問の山。
視覚からやる気を削げ落とされてる。
「早くやらねば睡眠時間が無くなるだけだぞ」
「ノストラダムス!!! あなたの主人をどうにかしてー!!!」
「にゃぁう」
ノストラダムスのお腹をモフモフモフモフ撫でくりまわしていたら、機嫌を損ねたのかプイッとして猫ベッドで丸まってしまった。
あぁ〜唯一の癒しが……。
「ノストラダムスに縋っている暇があるなら机に向かえ。お前はいつもいつもくだらない凡ミスでそこの王子に負けて、恥ずかしく無いのか!!!! 頂点から引き摺り下ろすくらいの気概を見せろ!!!」
逆賊としてしょっぴかれそうな発言をするな。
ユリウスと仲良く処刑なんて勘弁して欲しい。
試験勉強をしなくても、なんなら授業にすら出ていなくても全教科満点しか取ったことのないユリウスは私にも学年1位を取らせたいらしい。
けれど私の学年にはテオがいる。
元々のスペックで負けてるのに私が毎回きちんとテスト対策をして挑むテオに敵うわけもなく、いつも1位2位のワンツーフィニッシュをきめている。
それが気に喰わないユリウスによりこの強制勉強会が開かれるようになった、というわけだ。
私は別に1位に頓着なんてない。テオに勝てなくていい。ていうかもう帰りたい。
「全然少しも恥ずかしくないから家に帰らせて……」
「却下だ。俺の隣に並ぶ人間が馬鹿だと俺まで侮られるだろうが。我慢ならん」
「テオ!! 一回くらい一位の座を譲って!!! そしたらユリウスも満足するから!!!」
「無理。この国の王子たるもの誰にも後れをとるわけにはいかないからね」
出たな完璧主義王子。
「……というわけで、僕は自分の学習に集中するから。負ける気は無いけど頑張ってね」
テオはニコッと笑ってまたノートへと視線を戻した。
試験前のテオは本気モード過ぎて塩対応になるのを忘れていた。
「誰か助けて……」
「ロザリア様! 頑張ってください! 私も一緒に頑張りますので!」
「ルチア……!」
「終わったら起こして……」
「アレン〜! 私を置いて寝るなぁ〜!」
「貴様らは静かに勉強も出来ないのか……」
額を抑えため息をついたユリウスが先程役員の方に淹れさせていたコーヒーに口をつけた。
カップには黒い液体が並々と注がれている。
「……なんでブラックコーヒーなんて飲んでんの?」
「五月蝿い」
……こいつ、今までずっと自分の好みも伝えてこなかったわけ?
いつも砂糖とミルクをアホみたいに入れてるくせに。
呆れた。あとで生徒会の人にこの人甘党ですよって教えとこ。
「はぁ……貸して」
ユリウスのコーヒーに机に置かれていた砂糖とミルクをぶち込んだ。
何にこだわってるんだか、この男は。
「……勝手なことを」
「頭を使うには糖分が必要だって言ってたのはどこの誰だったかしらね?」
「ああ、そうだな。ならこのコーヒーの分頭を使ってお前の学習スケジュールを秒単位で組んでやる。喜べ」
「全然喜べないやめて」
綿密なスケジュール表を想像して戦慄していたら、さっきから教科書とにらめっこしていたオズが口を開いた。
「ユリウス……これ……俺にも分かるように全て一から説明してくれ……」
「おい……俺の聞き間違いか? 今ありえない台詞が聞こえた気がしたが」
「頼む!!! お前がいないとひとつも理解できねえ」
オズは毎回必死である。
ユリウスってなんやかんや教えるの上手いし、口は悪いけど理解するまで付き合ってくれるからね。
勉強が苦手なオズはユリウスがいなければ進級も危ういだろう。
毎度のことながら、ユリウスがブチ切れた。
「貴様は……日頃から復習を重ねないからそういう事になるんだ!!! 初等部からやり直してこい!!!」
「ロザリアのついででいいから……! このとおり……!」
「ちょっと、勉強しないと赤点になるオズと一緒にしないで」
「うう……俺だって頑張ってるんだよ……」
確かにオズは昔から勉強が苦手なりに決して放り投げたりせず真剣に向き合っている。
そこそこの成績が取れればいいやと思って拒絶していた自分が情けなくなってきた。
「……そうね、頑張ってはいるわよね。うん。私も頑張るわ……よし、ご褒美作りましょう!!」
「はぁ? なんだそれ」
「またおかしなことを思い付いたのか。その頭を試験で使え」
「試験を頑張るために考えたの! 全部終わったら私がオズにご褒美あげるから、オズは私になんか頂戴。それを励みにするわ」
「ご褒美……」
「僕も欲しい」
「私も! 私も欲しいです!」
テストになると我関せずを徹底していたアレンが珍しく手を挙げた。
ルチアも初めてのテストだろうし目標があったほうがいいわよね。
みんなでプレゼント交換かぁ、なんか楽しくなってきた。
「もちろん! じゃあ誰が誰を担当するか決めましょうか」
「ロザリアがいい」
「ロザリア様がいいです」
「……俺もこの中だったらお前」
私大人気か。
まぁ言い出しっぺは私なので仕方ない。
「わかったわかった、私からみんなに用意するわ。その代わり! 全員いい成績とるんだからね!!」
「「おー!」」
よしよし、こうすれば良かったんだわ。
楽しみがあれば勉強も苦にならないものね!
「話が済んだならさっさと勉強を再開しろ」
「はーい……ユリウスはユリウスで私にご褒美くれてもいいのよ?」
「ふざけるな。俺の貴重な時間を使っておいてまだ物を強請るつもりか」
「私ユリウスのために勉強してるようなものだもの」
「…………考えておいてやる」
「やたっ! 俄然やる気が湧いてきたわ!打倒テオ!!!」
「……僕は今回除け者か……ご褒美……」
1人ハブられたテオが拗ねた。