様子がおかしいです。
「じゃあ僕は自分の指導に戻るけど、くれぐれも発言には気をつけるように」
「はい……了解しました……」
やっとお説教から解放された。
鬼教官テオに敬礼をして見送ったあと、アレンに向き直る。
「アレンはルチアのこと見てあげてくれる?先生に教わるより早いと思うから」
……俯いたまま返事がない。まだ怒ってるのかしら。
「アレン?」
「……なんでそいつのことそんなに気にかけるの……?」
「え、なんでって、友達だから……」
「そうなる前からずっと気にしてた。他の奴とは明らかに違う。なんで……? ロザリアの『特別』は僕のなのに……」
顔を上げたアレンは無表情のまま瞳の奥にだけ仄暗い感情を宿しているように見えた。
こんなアレン初めて見る。最近ルチアにばかり気を取られていたことでそんなに不安にさせてしまったんだろうか。
「どうしたのアレン、顔が怖いわ。アレンは私の特別に決まってるじゃない」
「ほんとに……? 誰よりも?」
「ええ、アレンが1番大好きよ!」
「……それは、弟じゃなくなっても?」
弟じゃなくなったら?そんなことになんてなるはずがない。
アレンは今も昔も大切な家族だ。たとえ他にどれだけ友人が出来ようともそれは変わらない。
「なに言ってるの、アレンはずっと私の大事な弟よ?」
「……そうだね」
アレンは寂しそうに少しだけ笑うといつものように私に抱き付いた。……いつものアレン……よね?
「いやぁ……4属性使いは惹かれ合うのかねぇ……」
どこかで聞いたことのある台詞と共にオリヴァー先生が現れた。
オリヴァー先生はいつもボサボサの髪にくたびれたマントを羽織った研究者気質の教師だ。
初めて会ったとき、アレンと一緒に隅々まで調べ尽くされそうになった要注意人物である。
「全く『氷の魔女』が羨ましいよ……。僕も結婚しようかなぁ……」
「お母様のことご存知なんですか?」
「知ってるもなにも、君らの両親と僕は同級の仲だよ。特に『氷の魔女』とは何度も魔法の成績最優秀者の座をかけて争ったものさ」
「へぇ……そんなことが」
お母様が魔法が得意なのは知っていたが、学園の教師と張り合えるほどだったとは。
なんで宮廷魔導師とかにならなかったんだろ。
「アレン君は『氷の魔女』によく似てるねぇ、養子なのが信じられないくらいだ」
「アレンがお母様に?」
「ああ、『氷の魔女』セレーネは君のお父さんのアデル以外とは殆ど口も利かなかったんだ。2人は幼馴染だそうで、いつも一緒にいてねぇ。そのままゴールインしたと言うわけだけど……聞いてないのかい?」
「初めて知りました……」
お父様とお母様にそんなトキメキストーリーがあったなんて。
オリヴァー先生のおかげで両親の知られざる過去がどんどん暴かれていく。
帰ったら馴れ初めを詳しく聞かなくちゃ!!
「君達も血は繋がってないんだろう?2人の子供だったらそれはもう凄い子が生まれるんだろうね……! 幻の光属性持ちかも……!」
オリヴァー先生の鼻息が荒くなり始めた。
なにやらとんでもない発言も聞こえてくる。
「やっぱり少し研究させてくれ!! 少しでいいから!!!」
「ロザリアに触るな」
手を伸ばされかけたところでアレンが私を後ろから囲い込みオリヴァー先生に氷の礫を飛ばした。
「あでで!!! わかったよ!! 大人しく授業に戻るよ……!!」
すごすごと帰っていくオリヴァー先生。
これさえなければいい先生なんだけどなぁ……。
「はぁ……アレン、ルチアをお願いしてもいい?」
「……終わったらすぐロザリアのとこに行っていい?」
「ええ、もちろん。待ってるわ」
さて、私も自分の仕事をしよう。
といっても、もう見本とやり方は教えてあるのであとは個人個人の相談に乗ったり助言をするくらいだ。
私には魔力の流れは読めないから経験則でのアドバイスしか出来ないが。
今やってるのは水属性の中級魔法の中でも比較的簡単な水弾。水鉄砲みたいなものである。
初級の水球より小さな球を高速で打ち出す魔法なので取っ掛かりには丁度いい。
早々にコツを掴んだ一握り達はもうすぐマスターしそうだ。
中級魔法は1番種類が豊富で他にも霧や水刃、水槍など、いくらでも覚えることはある。
同じ水属性でもアクアだったりウォーターだったり統一性がない。
この国では魔法を作り出した人が国に申請し、世界で誰も使ったことのないものなら好きな名前を付けて登録することが出来るからだ。
みんな思い思いの名前を付けている。
実は私がアレンと作ったオリジナル魔法も登録されているのだが、この先もアレンの他に使える人間は出てこないだろう。
黒炎とか絶対零度とかね。
前世のアニメに影響を受けて些かやり過ぎた感はある。
「水弾!!」
「もう少し思い切って魔力を込めてもいいと思うわ。あと、狙いを定めることに集中し過ぎているからまずはマスターすることを目指して」
「はい、ロザリア様!」
水を差すようなので言わないが、別に魔法を使うのに名前を叫んだり手をかざしたりする必要はない。
なんなら技名を叫ぶ余裕があるなら魔力に集中した方がいいと思う。
けど、雰囲気って大事じゃん。
私もパフォーマンスで魔法を使うときはついやってしまう。
戦闘時なら無詠唱の方が色々と融通は利くのだろうが、貴族の子息令嬢が戦う機会などそうないだろうからこのままでいいだろう。
「まぁ、ロザリア様ってアレン様がいなくても助言なんて出来たんですのね」
「ほんと、殿方がいないと何も出来ないものだと思ってましたわ」
彼女たちはアレンがいるときによく質問に来ていた熱心なお嬢さん方だ。
アレンの的確なアドバイスに比べて、私ひとりなのが心許ないのだろう。
「まぁアレンよりはうまく言えないけど、自分が躓いたところとかなら教えることは出来ると思うわ」
「それなのにいつもいつもアレン様に引っ付いてるんですの」
「いくら姉代わりとはいえ、公爵家は少し過保護なんじゃなくて?」
「あっ、やっぱりそう見えます? 言っても離れてくれないのよね……」
姉弟とはいえその距離は少々近すぎると、とうとうクラスメイトからも言われてしまった。
相当思うところがあったのか彼女達は酷く顔を歪めている。
でもアレンが離れていくのなら我慢できるけど、私がアレンを本気で拒否するのは無理だ。絶対無理。
うーん、ルチアに関わって良い影響を受けてくれるといいんだけど……。
バシャンッ
「みゅ」
アレンの行く末について考えていたら上から水が落ちてきて濡れねずみになってしまった。
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感想もいつもありがたく拝見しています。
ロザリアはこの性格なので舐められがちですが、モンペにバレた瞬間消されますね。
明日でラストです。よろしくお願いします。