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愛の力です。

 


 あなたには約束された明るい未来があるのだと伝えたはずなのに、ルチアは笑顔になるどころかほろほろと泣き出してしまった。



「ど、どうしたのルチア様! ごめんなさい、私また無神経に……!」


「……母が死ぬ直前、同じことを言ったんです。幸せになって、あなたは幸せになるために生まれたのよって……」


「……そうだったの」


「だから私……どうしても、認めたくなくて……っ」



 ルチアは両手で顔を覆うと堰を切ったように泣きだした。

 ゲームでは語られることのなかった彼女のへこたれない性格の背景には母親の言葉があったようだ。

 肩を震わせる彼女を落ち着かせようと、そっと抱きしめて背中を叩く。



「大丈夫よ、これから本当の幸せを掴めばいいんだもの」


「……でも、どうすれば……」


「あなたが幸せになるために不可欠なのは愛の力よ!」


「あ、愛の力……?」



 泣いていたルチアが困惑した表情で顔を上げた。

 気持ちはわかるがこの物語において最大のキーワードなのだから仕方ない。



「そうよ! 愛は世界を救うのよ!! ……けれど、今目の前にある邪魔なものを排除するのには権力を使うわ」


「権力……」


 ルチアはきょとんとした顔でまばたきを繰り返している。


「私はロザリア・エルメライト公爵令嬢よ? あなたの行動の責任は全て私が負うわ。だから好きなようにぶっ飛ばしちゃいなさい!」


「……ふふっ、頼もしい」



 よかった、ようやく少し笑顔になってくれた。


 少々話し込んでしまったので今日はもう帰宅することにした。

 別れ際、ルチアが私に尋ねる。



「……あの、なんで私なんかにこんなに良くしてくださったんですか?」


「あなたが必要だからよ」


「私が……必要……」


 私の知っているシナリオの先に行くために、どうしても彼女にはハッピーエンドを迎えてもらわなければ。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇




「ロザリア様、おはようございます!」


「ルチア様……おはようございます」



 翌日、また偉そうなことを言い過ぎたかなと悩みながら学園へ来た私は、席に着いた途端昨日と打って変わって勢いよく挨拶をしてくるルチアに面食らってしまった。



「私のことはどうぞルチアとお呼び下さい!」


「では、ルチアと……私のこともロザリアでいいわ」


「それはできません」


「な、なぜ!?」



 お互い名前を呼び捨てにするような仲になれるのかと思ったら、にこやかに拒否された。

 なんで……距離を詰めようとしてくれたのはそっちなのに……。



「私はロザリア様のお陰で救われたんです!家に帰ってきちんとお話したら、色々解決することができました。なのでどうかロザリア様と呼ばせてください」


「そんな、気にすることないのに……でも良い方向に進んだのならよかったわ」


「はい! 男爵様にはっきりお母さんの葬式にも出なかったくせに今更来て父親ヅラされても迷惑って伝えたんです!」



 かわいい顔で思いのほか直球ど真ん中のえげつないセリフを言ったようだ。

 いやでもそうなるわな。



「男爵様としては私のことを可愛がってるつもりだったみたいでショックを受けてたんですけど、良家の婿をとれるよう容姿を磨けとか気持ち悪いしこの家を継ぐ気なんて全くありませんって言っちゃいました! そしたら奥様がこれまでのことを謝ってくれたんです。あなたのことを勘違いしてたって。ベルハート家に嫡子がいないのをいいことに家を乗っ取られると思っていたみたいで。娘だと思うことは出来ないけど、あの男の被害者同士これからは仲良くしましょうと言ってくださいました。本当に、もっと早くこうするべきでしたね。我慢してたのがバカみたい」


「それは……よかったわね」



 興奮気味に語るルチアはとてもいきいきとしていた。

 夫人が味方についてくれたようでなによりだ。

 ベルハート男爵はこの先ずっと肩身の狭い思いをして暮らすことになるだろう。

 まぁ自業自得でしかないが。



「お家のことはこれでひとまず片付きました。今日はもうひとつの方にも決着をつけようと思うんです」



「ちょっとそこの平民! その方から離れなさい!ロザリア様はあなた如きが気安く口を利いていい方ではなくてよ!!」


 タイミングが良いのか悪いのか、ルチアの言うもうひとつ、ハルオーネ嬢とその取り巻きが現れた。

 別に私には誰でも話しかけてくれていいよ。



「私が誰と話していようとあなたには関係ありません」



 どうするつもりなのかと成り行きを見守っていたら、ルチアはにっこりと笑って毅然と言い放った。



「なっ……! なんですって……!!」


「私のことが気に入らないのなら、あなたこそわざわざ話しかけてなんてこなければいいじゃないですか。随分とお暇なんですね」


「っ黙りなさい!!!」


 今まで大人しくやられていたのが嘘のようだ。


 激昂したハルオーネ嬢はルチアの頰をめがけて手を振り下ろした。

 が、それはルチアによって軽々と受け止められることになる。



「……ご存知ないかもしれませんが、平民だって怒るときは怒るんですよ。覚えておいてください」



 か、かっっっこいい……キマった……。

 今まではわざとぶたれてあげていたのね……。

 ロザリアのときも本当は反撃しようと思えば出来ていたのかもしれない。

 吹っ切れたルチアはそのくらい強かった。


 何も言えなくなったハルオーネ嬢が取り巻きに連れられそそくさと退散して行く。

 見事な撃退だった。これで彼女の憂いは全て無くなったことになる。



「ルチア……強くなったわね……」


「ふふ、愛の力です」


 ルチアは柔らかく顔を綻ばせた。

 ついにヒロインが愛に目覚めてくれたようだ。

ブックマーク&評価ありがとうございます。

感想も嬉しく読ませて頂いています。


ルチアが吹っ切れました。

誰よりも男前かもしれません。


明日もよろしくお願い致します。

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