取り巻き再びです。
入学から1週間ちょっとが経過した。
主犯のロザリアがいないことで悪質ないじめもなく、ルチアには良くも悪くも目立った変化はない状態だ。
しかし庶子であることが既に広まっている彼女とわざわざ親しくする令嬢はおらず、どこか浮いているように見える。
高等部からの生徒も徐々にクラスに馴染み始めてきたというのに、彼女は昼休みになった今も1人でどこかに消えてしまった。
そして私も結局いつもの顔ぶれで集まっているのである。
「友達が欲しい……」
「まだ言ってたのロザリア」
「だってテオでさえちゃんと友達いるのに……」
「『でさえ』?」
いけない口が滑った。
この王子、きっちり王族としての外面も守っているようで中々人望があるのだ。
みんな騙されてる。
「あ〜……いや、えっと、ほら、私たち一緒に居過ぎなんじゃないかと思って」
「今更だな」
今更でもなんでも、私に構ってばかりいないでルチアを気にかけて欲しい。
そして私は私で彼らがルチアのもとに行ってしまったあと、ぼっちを回避するためにも友達が欲しい。
「特にアレン!! いつまでも私にひっついてたらだめよ!! 少し離れて」
アレンは未だに私にべったりくっついている。
姉離れさせようと頑張っていたときもあったけれど、アレンは私がいないときでも誰かと交流をはかることはなかった。
一度、ひとりでいるときは何してるの?と尋ねたらロザリアのこと考えてると返ってきてちょっと心配になったものだ。
加えてアレンは私以外にすこぶる冷たい。
攻略対象だけあってそれはもう綺麗な顔立ちに育ってくれたので見惚れている令嬢をよく見かけるが、声をかけられようものなら凍てつく瞳で睨みつけ無視を決め込む。
いつからかその様相から『氷の魔導師』と呼ばれるようになった。
今や私より両親に頼りにされているアレンは、しっかりお母様の二つ名を受け継いだようだ。
お父様は「学生だったときの君を思い出すね」と言ってお母様に肘鉄を喰らっていた。
まだ他人が信用できないのかな、とか思って許容してきたが流石に高等部に上がったのだからそろそろ頑張ってもらいたい。
私だって最愛の弟と距離を置くのは心苦しいが、アレンにルチアを勝ち取ってもらうために断腸の想いで決心したのだ。
「……今よりロザリアと離れたら死ぬ」
「死ぬのかぁ、じゃあしょうがないね」
死んじゃうのなら仕方ない。
私の決心は2秒で跡形もなく崩れ落ちた。
「いやいやいや、この際だから言わせてもらうけど君たちのそれは姉弟の距離じゃないからね? いい加減控えるべきだよ」
「うぅ、わかってるけどぉ……! テオだって弟かわいいでしょ?甘やかしちゃうでしょ!?」
「羨ましがってるだけだからほっときなよ、ロザリア」
羨ましがってるとは。……あー、そっか。
テオの弟、エドワードくんはいま生意気盛りの真っ最中だ。
どこで覚えたのか、兄上より僕にしとけよ! なんてませた口を利くようになった。
いつまでもお姉ちゃん子なアレンが羨ましいのだろう。それならそうと早く言えばいいのに。
「……アレンはあげないわよ?」
「安心していいよ、願い下げだ」
なんでよ、こんなに可愛い……いや、見た目はもうだいぶ、かなり可愛いとは言えなくなってるけど……どちらかというと綺麗とかカッコいいって感じだけど……!
テオに抱きつくアレンを想像した。絵面が怪しい。だめだ。
「……そろそろ飯食い行こうぜ?」
◇◇◇◇◇◇◇
「ん……?」
飢えたオズの先導で食堂へ向かう途中、見覚えのある後ろ姿が目に入った。
あのピンクブロンドと白いリボン。ルチアだ。
そしてルチアと連れ立って歩いているのは件の取り巻き3人組。
今の親玉はロザリアの取り巻き筆頭だったハルオーネ・クレスウェル伯爵令嬢のようだ。
彼女は典型的な貴族資質の長いものには巻かれろ令嬢である。
小物感が否めない集団だったので初日で懲りたかと思ったら、まだルチアにちょっかいをかけていたのか。
「……ロザリアどうかした」
「ええ、ちょっと用事が出来たわ。先行ってて」
「は? おい!」
制止の声も聞かずに急いであとを追いかけた。
そこまで大それたことは出来ないだろうが、あまりエスカレートするなら今度は彼女がロザリアの二の舞になるだろう。
これは一度私直々にお話をせねばと、校舎の陰からそっと様子を伺った。
ハルオーネ嬢たちはルチアを囲んでなにかを言っているようだが、到底仲良くお話という雰囲気ではない。
「お前いきなり走り出すなよな……」
「あら、みんなついてきたの」
「このっ……平民の分際で!!」
おっと、悠長に話してる場合じゃないようだ。
ハルオーネ嬢は声を荒げたかと思うとルチアを突き飛ばした。
「止めてくる」
「言っても無駄だと思うけど、無茶しないようにね」
「大丈夫よ、優しく注意するだけだから」
テオは諦めたように私を送り出した。
私が現れたことに気付いたハルオーネ嬢の顔色が青ざめる。
「ロザリア様……っ」
このままじゃ彼女達の誰かが魔王に操られることになるかもしれない。
そうなれば待っているのは処刑される未来だけ、ということを教えてあげなければ。
「あなたたち、死にたいのかしら?」
……第一声をミスりました。
違うよね〜! これじゃただの殺すぞって脅しだよね〜!
ほんと、違うの、そんな怯えないで!
テオが後ろで過呼吸になるほど笑っている声がする。
あとで覚えとけよ。
「ちっ、違うんです、この平民が……!」
「そんなに怯えなくてもいいのよ。あなたたちが何もしなければ私も何もしないわ。ね?」
「はい! 失礼致しました!! ……行きますわよ!!貴方達!!」
精一杯優しく微笑んだつもりだがハルオーネ嬢は他の2人を連れて猛ダッシュで逃げていった。
まぁでも、これで暫くは馬鹿な真似をすることもないでしょう。
これでもダメなら私のお説教シリーズ『ノブレス・オブリージュ〜猫でも王様を見つめる編〜』の出番だ。
「ルチア様、お怪我は?」
「いえ、ありがとうございます……すみません二度も助けて頂いて……」
「そんなことは構わないけれど……もしかしてこういうこと、他にもあったのではなくて?」
入学式でも絡んでいたくらいだ。
今日が初めてというわけではないだろう。
ルチアがお昼になるたびに逃げるように教室を離れていたのはハルオーネ嬢たちを避けるためだったのかもしれない。
「それは……でも、私は大丈夫ですから……」
「大丈夫じゃないでしょう。今も突き飛ばされていたし」
「そのくらいなんでもないので……!」
ルチアの態度は頑なだ。
こうなったらいっそ、私達と行動を共にした方がいいんじゃないか?
それならハルオーネ嬢も手を出せなくなるだろうし、必然的に攻略対象たちといる時間も増える。
いい感じになったところで私がフェードアウトすれば完璧だ。
「よかったら、私達と一緒にいない?そしたら何か言ってくる人もいなくなるし……」
「本当に大丈夫です!! もう私のことは放っておいてください!!」
「え……」
ルチアはそれだけ叫ぶと行ってしまった。
「き……嫌われた……!」
残された私はショックのあまり呆然と立ち尽くすのであった。