魔法少女は永遠の憧れです。
その後、お父様との領地経営教育は思いがけず白熱している。結果としてうちの領地自体は全く困窮してはいないようだった。
だがしかし豊かかと言われるとそういうわけでもなく、可もなく不可もないような状態だ。
これって今までうちが使っていた分のお金を回せば色々と発展する余地があるのでは? と思った私は当初の予定よりだいぶ口を出してしまった。
まずは一般教育のレベルを上げるための小学校の設立、そして医療を充実させるために大学病院のような大きな施設を作ってもらうことになった。
やっぱりなにより教育と医療は大切だよね!
そして孤児院への支援は私の誕生日プレゼントとしてということで、私名義にしてくれた。
今度視察のときに連れて行ってもらう約束をしたので楽しみだ。
他にも治安の強化や前世の知識を活かした商売など、やりたいことは山ほどあるので少しずつ実現していこうと思う。
さて、今日は異世界に転生したらやりたいことNo. 1、魔法の練習をしたいと思います!!!
そして気合い充分に庭までやってきた。
だって魔法だよ魔法!! 日本人なら誰だって一度は憧れるはず!!! いや憧れる!! 間違いなく!!!
本来なら10歳で入学する学園の初等部か家庭教師についてもらって習うことになるのだが、あと2年も待ってられない。
この世界の魔法は人により使える魔法が限られている、とされている。
それぞれ火・水・風・土・光の5属性があり、光属性については特別なもので、この国の歴史にも殆ど存在しない。
ヒロインの聖女の力がこれにあたり、光の魔法を使える人間は例外なく聖なる者として崇められている。
残りの4属性も全てが使える人など滅多におらず、1属性しか使えないといった人が大多数である。
そして稀に2属性使える人がいても、初歩の魔法しか使えないということも少なくない。
魔力が強く、かつ多様な魔法が使えるほど貴重なのだ。
その点ロザリアは火属性しか使えないが、公爵令嬢だけあって魔力だけは飛び抜けて強いのであった。
作中でロザリアがその魔力の高さでヒロインにバンバン火の玉を撃ち込んでいたのは記憶に懐かしい。
いやもうその時点で捕らえるべきだよね、完全に殺人未遂じゃん。
ちなみに、ヒロインは最初は水魔法しか使えないが、攻略を捨てて魔法の訓練に努力を全振りすると4属性が使える魔導士エンドを迎えることができる。
そこで思った。努力で使える魔法が増えるシナリオがあるのなら、私も他の魔法が使えるようになるのでは?と。
そもそもなぜ使える属性と使えない属性が存在するのか?
相性と言ってしまえばそれまでだが、そもそも魔法の原理を突き止めたいと思ったのだ。
そんなわけで魔道書と呼ばれるものを読んでみたが、要約すると体の中の魔力を感じ体外に放出!としか書いていなかった。浅い、浅すぎるわ!!
もっとこう……理屈とか、考察とか、論文的なものを期待していたのだけど、思いのほか研究が進んでいないようだった。
と、いうわけで実践あるのみである。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「体内の魔力を感じろとか言われても、魔力のない生活が長すぎて全くわからない」
うーん、こんなところで前世の記憶が邪魔をするとは。
しかも本に書いてあるのもなにか温かいものとか生命エネルギーとか、漠然とし過ぎているのだ。
なんとなく念じてみたが全くなにも感じなかった。
やめよう……こちとらバリバリの理系脳なのだ。
考え方をそっちに寄せよう。
まず体内になにかを生み出すっていうならやっぱり心臓だよね……心臓を製造元として……魔力を作り出して血液のように体に巡らす……そしてまた還ってきて……少しずつ増幅していく……。
おっ、なんかいい感じだ!
心臓のあたりが熱くなってきた。それでこれを放出すればいいんだっけ? えいっ!
パシャッ
「え?」
初めての魔法は成功した。全く予想外の結果で。
私が放った魔力により、空中からコップ一杯分ほどの水が出たのだ。
ロザリアは火属性しか使えないはずだ。そして私も今火を出すイメージで魔法を使っていた。
どういうこと?
私に前世の記憶が蘇ったことで使える魔法の属性が変わった…?
けれど前世うんぬん言うなら前世の私にはそもそも魔法なんて使えるはずがない。
ロザリアの魔力なら火が出るとばかり思っていたのだけど……そこから間違いなのかな?
使える魔法にそれぞれの魔力は関係ないとして、イメージもさっき私は全く違うものを想像していた。
だとするならあとは、魔力の放出の仕方……?
さっき私は自分の体からそっと魔力を流すように放出した。
いきなり火が出たら怖いなと思ってびびったが故のやり方だ。
これが本来のロザリアなら、数日前までの私なら……多分なんの躊躇いもなく溜めた魔力を爆発させる。
さっきと同じやり方で魔力を巡らせ、今度は魔力を撃ち出すイメージで放出してみた。
ボッ
「きゃあっ」
びっ、びっくりした。やっぱりさっきよりゆっくりやってよかった。
けれど私の仮説は正しかったようだ。今度は拳大くらいの火種が燃え上がった。
どの魔法が使えるかは適正なんて関係なく、練り上げた魔力をどのように体外で形にするか。
わかってしまえば簡単な原理だが、全て感覚の話になってくるので再現するのは難しい。
なにより、今やってみてわかったが自分のやりやすいやり方以外で魔法を使うのはめちゃくちゃ神経を使う。
いつも右手を上にして手を組んでる人が左手を上にしたときのような、そんな微妙な違和感とズレを補正していかないといけないのだ。
こんな初歩の初歩の、魔力を放出するだけの段階でこれなんだから上級魔法なんて使い始めたら多分自爆すると思う。
だから全ての属性の魔法を使えるように努力するより、使える魔法をより高度にしていく方が優先されてきたんだろう。
正直私もそっちの方が正解だと思う。
特に使える魔法の属性は本人の素質によると思われてるこの世界では、余計にこの理論に辿り着くことは出来ないだろう。
私にはロザリアとしての人格があったから試すことが出来たが、普通の人は一度魔法が成功すれば自分はこの属性が適正なんだと思い込み他のやり方を試すことなどしないと思う。
けど私はまだ若いし!! 脳が柔軟なうちに少しずつ慣らしていけば4属性使いも夢じゃないはず!!!
そしてあわよくばギチギチに理詰めの本を書いて売り出してやる。
私は研究者気質なのだ。将来の楽しみがまたひとつ増えた。