味方が一人もいませんでした。
新入生代表として挨拶をすることになっているテオと別れて式場の席についた。
まったくなぜ揃いも揃ってヒロインに興味を示さないのか。
私という障害がいないのだからあっさり恋仲になってくれればいいものを。
恋愛しろよ!!! あんた達ここをどこだと思ってるの!?乙女ゲームの世界よ!?
目の前にいるのはヒロインなのよ!? なんのために私が邪魔者をやめたと思ってるの!!!
もはや私の期待の星も地に落ちた。
ユリウスは始めから当てにしてない。
はぁ、ゲームさえスタートしてしまえば勝手に出会って勝手にいい感じになると思ってたのに。
……いいえ、出鼻を挫かれた感は否めないけど、これからよこれから。
テオもアレンもそのうちヒロインの存在が無視できなくなってくるに違いない。
ここで一旦おさらいをしよう。
タイトルの『黒の棺と白の聖女』にある通り、白の神の力が眠る聖女、つまりヒロインが入学したことにより黒の神である魔王が呼び覚まされ棺の封印が一年をかけてゆっくりと解かれていく。
よく考えたら魔王は今も封印が解けていってる状態なのよね。
もういっそ魔王の棺桶をコンクリート詰めにして海に沈めたい気分だ。
そしてそんな魔王を攻略対象と倒すわけだが、このゲームにはノーマルエンドなどない。
誰の好感度も上げずにエンディングまでいけば待ってるのはバッドエンド一択である。
攻略対象との愛の力で魔王を倒すことができないヒロインはその命でもって再び封印するしかないのだ。無慈悲なり。
つまり恋愛出来なきゃ=死。
運良く誰かのルートに入っても、好感度が足りなければ死あるのみなのである。
特別枠として魔法を極めれば魔導師エンド、剣を極めれば女騎士エンドがあるけれど、それはもうひたすらに努力が必要な玄人向けエンドなのでヒロインがその道に進む可能性は低いだろう。
私が死なないよう努力した結果ヒロインが死ぬなんて寝覚めが悪い。
どう足掻いてでもみんなにはヒロインとハッピーエンドに辿り着いてもらわなければ。
私に構ってる暇があるならヒロインを口説き落とせ。
もうゲームは始まっているのだから遠慮はいらない。
私はハッピーエンドを迎えたあとに友人代表とかで結婚式に呼んでもらってスピーチ出来れば充分よ。
傍観者を決め込もうと思ってたけど、そんなこと言ってる場合じゃなくなった。
でも仕方ない、攻略対象たちと関わって未来を変えてしまったのは私なのだ。
悪役令嬢の役割を放棄する代わりに手助けくらいしてやろうじゃないか。
伊達に前世でプレイヤーをしてたわけじゃないってところ見せてあげるわ!!!
◇◇◇◇◇◇◇◇
そして、当然のように全員同じクラスになった私達。
いや、ヒロインはともかくとして他のメンバーに関しては初等部からずっと同じクラスなのよね。流石にテオあたりが何かしてるんじゃないかと思っている。
教室に入り担任がやってきて、新学期特有の面倒な自己紹介が始まった。
「ルチア・ベルハートです。よろしくお願いします」
ヒロイン、ルチアはどうやらゲームのデフォルト名のままのようだ。
予定通りルチアは教室の一番前、オズの隣の席。
ちなみにアレンが窓際一番後ろ、そして私とテオが廊下側の一番後ろに隣同士で並んでいる。
教室を見回すと、流石にもう知った顔ばかりだ。
初等部、中等部からの同級生はもちろん、高等部からの入学生だって貴族社会で生きていればお茶会だの舞踏会だの何処かしらでは会うことになる。
ついこの間まで庶民として暮らしていたルチアは余計に孤独だろうな。
なのにロザリアに虐められ、それでも健気に頑張るヒロイン。泣けてくるわ……ごめんねロザリアが……。
ひとまず今日は入学初日なので授業内容など軽い説明だけで解散となった。
さて、明日からどう攻略対象たちとくっつけていこうか。
ちらりと前を見るとオズとルチアが楽しげに喋っている。
おっ、いいわよオズ! その調子よ!! あなたならできるって思ってたわ!!!
「随分と彼女にご執心だね」
のろのろと帰る準備をしながらルチアとオズに視線を送っていたことがテオにバレたようだ。
私としてはあなたにもっと執心して欲しいんだけど。
「そりゃあね、未来がかかってるもの」
「ロザリアはさ、なんであの子が僕の運命の人だってわかったの? 昔から知っていたわけじゃないよね?」
なんで、か。それはもちろん私が前世で一度全てを見てきているからだ。
けれど今までそれを誰かに話したことはない。
話そうと思ったこともなかったんだけど、いい機会かもしれない。
すぐには信じてもらえなくても、協力してくれるかもしれないし……。
「前世の記憶がある……って言ったら信じる?」
意を決して真剣な顔で問いかけた。
テオは呆気にとられたような顔をしている。
うっ、今更ちょっと怖くなってきたかも。どんな反応が返ってきても傷付かないようにしよう。
「…………ロザリア、そういうのは中等部までで卒業したほうがいいと思うよ」
……違う!! 厨二病的なあれじゃないよ!!!
ああ、あれは可哀想な子を見る目だ。まるで前世で私の黒歴史ノートを見た母のよう。
結構緊張してたのに!!! 傷付いた!!! 傷付いたわよこれは!!!
「テオのばかっ!!!」
「ロザリアなに怒ってんだ?帰んねえの?」
「……何されたの」
テオと話している間に帰り支度を終えた2人が席までやってきた。
オズがルチアとどんな話をしたのか気になるが、今はそれどころじゃない。
「えーんアレンー! テオが私のこと信じてくれない!!」
「……最低」
傷心のままアレンに抱き着いたら問答無用で私を庇ってくれた。
持つべきものは可愛い弟だわ。癒される。
「人の話を聞いてから判断してくれるかな? 前世の記憶があるって言われてすぐに信じるほうがおかしいだろ」
「はぁ? 前世ってなんでまた……」
む、オズまで呆れた顔してる。
本当のことなのに!!まぁ簡単に信じてもらえるとは思ってなかったけど、もう少し違う反応があるでしょうに!!
「アレンは私のこと信じてくれるものね?」
「ロザリアの言うことなら信じるよ」
はぁ、やっぱり私にはアレンしかいないわ。
決めた。私はルチアをアレンルートに入れるわよ。
そしたらヒロインは私の義妹になるのか。うん、いいじゃない。
「……ちなみにその前世にアレンの登場は」
「勿論あるわよ。オズもユリウスも出てくるわ。みんなあの子と恋してたわよ」
「……僕も信じない」
「……俺も」
「なんで!?」
ルチアの後ろ姿を指差したら急に渋い顔で手のひらを返された。
アレンまで私の敵に回るなんて……もう何も信じられない。
「ひどいわみんな! グレてやる!!」
くそーやっぱ話すんじゃなかった!!!
私は鞄を引っ掴んで教室から走り出した。
ユリウスに呼び出されてるからみんなでお茶して帰ろうかと思ったけど、2人だけで行ってやる!!!